第18話シュンの頼み②

 俺は何もない空間から、刃渡り1m以上の光輝く剣を取り出す。手に持つと不思議な力が沸いてくる感覚があり、全身が軽くなってきた。


「おっひょー!出たわ~!ユウトっちの聖剣、『エクスカリバー』が出ちゃったわ~!」

「「「「「キャァアーー!!」」」」」


「ふむ、聖剣か。物凄い圧力だな。これは俺も全力で行かないといけないな」


 ミラン兵長は身体を沈めて構える。俺も重量を感じない聖剣を手に構え、ミラン兵長を見据える。


「どうした?来ないのか?」

「隙が……ないですね」


 人っていうのは意識がある。エクスカリバーを持つことで感覚的にわかるようになったが、意識ってのは良くも悪くも『散漫』だ。例え何かを相手にしていても、その周囲へ意識はに向いてしまう。故にそこに『隙』が生まれる。


 ────が、この人にはソレがない。対峙して初めて分かった。『歴戦の戦士』という称号があるならばきっと持ち合わせているだろう、そんなたたずまいだ。


「ならこっちから行こうかっ」

「っ!?」


 しまったっ……『意識』が考えに向いてしまったっ!!半ば無意識的に反応して、横なぎされた剣をなんとか受け止める。


「危ない……ですね」

「ほぉ……やるな光ヶ丘くん。今のは入ったと思ったぞ」


 決して剣筋は速くない。早さで言うなら因幡の『ウェーブ』の方が早いだろう。が、何故か不意を突かれて反応が遅れる。


「はぁっ!」

「おっと……光ヶ丘くん。それじゃあだ」

「なっ……!?」


 受け止めた剣を弾こうと力んだ途端に落ちるような感覚が襲う。


「これが経験の差だな。光ヶ丘くん」


 手を伸ばして立ち上げようとしてくれるミランさん。完敗だ。


 剣に意識を向けすぎた。弾こうと、距離を取ろうとした瞬間に『足払い』をされてしまった。そのまま剣を首に突き付けられ試合終了。何が起こったのか、一瞬分からなかった。


「剣が怖いんだな、光ヶ丘くんは」

「勘弁してくださいよ、僕たちは剣も槍もない世界から来たんですから……」

「君の敗因は剣に注意し過ぎたことだよ。剣だけが人の命を奪える訳じゃない。戦うときは己の体全てがだ」

「体が……武器?」


 大きく頷くミラン兵長。か、かっこいい……これが経験の差か。


「大丈夫!?ユウトくん!!」

「結城さん……ありがとう」

「ううんっ!ユウトくんもすごかったよ!最初の一撃だって反応できていたし!」

「やっぱミラン兵長は違うっしょ!あれはヤバイわ~!」

「今度は俺と戦ってほしいぜ!」


 結城さん、因幡、一樹がこっちへ走ってきて労いの言葉をくれる。ミラン兵長も他の兵士さんに囲まれているみたいだ。


「じゃあ次は、私ですよね」

「おお、結城くんだな。ふむ、妖精魔法か。いいだろう魔法勝負といこうか」

「えっ?兵長さんは魔法が使えるんですか?」

「魔法勝負……?ミラン兵長、それは流石に無理じゃないですか?結城さんは妖精魔法を扱いますし……それに肉弾戦が兵長の得意とする戦闘では?」

「ははっ、ユウトくん。何事もやってみなければ分からんだろう?」


 なんだろう、兵長さんからは底知れない力を感じる。先程の動き、確かに近距離戦闘に慣れている動きだった。それなのに魔法も扱えるのか……?




 二人から距離を取り、一樹と因幡と一緒に観戦する。二人は特訓場の中心で対峙している。


「では、いくぞ」

「はい!お願いします!」


 今度も兵長が先制する。まずは兵長が詠唱し、手から炎の塊が飛んでいく。名付けるのならそのまま、ファイヤーボールみたいな感じだ。


「お願いっ、モフモフちゃん!」

「キュウゥ!!」


 結城さんが叫ぶと肩に乗っていたフェレット、『モフモフちゃん』が飛び出し、半透明なバリアが展開される。ファイヤーボールはそこで打ち消されてしまう。


「ほぉ、妖精魔法…防御魔法なのか?」

「モフモフちゃん!風属性でお願いっ!」

「キュキュウ!」


 結城さんは妖精に指示をする。逆に言えば指示をするでいい。妖精は詠唱を必要としない故に、結城さんに詠唱時間は必要ない。


 風の刃が数発飛んでいく。が、ひょいっと避わされてしまう。


「なんで……」

「知っているかい、結城くん」

「何をですか?」

「魔法っていうものは『技術』なんだよ」


 突然、魔法の説明を始めるミラン兵長。


「君たちはこの世界に来たばかりで、強力な魔法や剣術を持ち合わせているみたいだが、がない。我らは強力なモノがない代わりに、長い時間を経て『技術』を手にした」

「なんの……話ですか?」

「魔法は『技術』だ。科学と言い換えてもいい。研究すれば技の全てが分かる」

「科学……」

「つまりだな、結城くんだけではなく、ここにいるみんなに言えることだが、魔法は撃つだけが『技術』ではない。魔法をが『技術』なのだ」


 何が言いたいんだろうか。周りのみんなも首をかしげている。当てることが技術?


「君たちの魔法は常に直線上を辿っているのが分かるか?」

「えっ?……そう、ですね。魔法は撃ったあとに手から離れるわけですから、そこからコントロールなんて───」

「出来るんだな、これが」


 ミラン兵長の手からファイヤーボールが放たれる。決して早いわけでも大きいわけでもない。


「っ!?モフモフちゃん!」

「キュッ!」


 またもや半透明なバリアにはばまれる。が、ファイヤーボールはバリアの直前で真上に曲がり、そのまま不規則な軌道を辿る。


「なに……これ」

「これが俺たちが魔法を研究した成果だ。そして、これがだ」

「あっ……!?」


 ファイヤーボールが止まったと思った瞬間に、それは急落下を始め結城さんのギリギリ真上で消える。そのまま結城さんは尻餅をつく。反応は出来なかったみたいだ。


「あ、すいません……腰が抜けて……」

「いやぁははは!ついハッスルしてしまった!大丈夫かい!?結城くん!」


 急に口調が戻り、大声で喋り始める。先程の緊張感溢れる空気が緩和されていき、特訓場からは拍手喝采が巻き起こる。


「ん?はははっ!ありがとう!ありがとう!!」

「あはは……負けちゃったぁ」

「ううん!凄いよ美郷ちゃん!」

「ほんとっ!可愛いのに凄いんだね!そのフェレットちゃん!」


「ユウトも惜しかったな~!やっぱり兵長はすげぇ!」

「俺も戦ってみてえなぁ!ユウト!俺と打ち合いしようぜ!」

「あぁ、いいよ。やろうか」


 俺と結城さんにドドドっと人が集まってくる。経験の差……か。凄いな、正直舐めていた。魔法をあんな風に動かしたり、虚を突いた足払いとか、考えたこともなかった。まだまだ特訓は必要みたいだな。




ーーーーーーーーーー


「ただいま、イルさん」

「おかえりなさいませ、ユウト様」


 部屋に戻るとイルさんが直立不動で立っていた。少し驚きながらも挨拶をすると、ペコリと頭を下げて返してくれる。

 ……綺麗だな。まるで目の前に絵画が飾られているようだ。絵の中の美女のような、近くて遠い美しさを持ち合わせている。


「ちょっと!ユウト!?誰よこの女は!」

「あぁ、アリナ。しばらくお世話をしてもらうイルさんって方だ。仲良くしてやってくれ。イルさん、この子は俺のメイドのアリナだ。気を使わない喋り方にしてくれって言ったらこうなった」

「よろしくお願い致します」

「はぁーっ?私がユウトのお世話をするんだけどっ!?……あっ、いやっ、別に私がユウトのお世話をしたいわけじゃ、ないんだからねっ!」

「……私はまだメイドに成り立てなので、色々と教えていただけると助かります。

「せ、『先輩』?……仕方ないわね!私が色々と教えてあげるわ!感謝しなさい!」

「有難うございます、アリナ先輩」


 人の扱い方に慣れているなぁ、イルさん。先輩って呼ぶだけで簡単にほだされちゃったよアリナ。


「あ、ユウト様」

「なんだい?」


 不意にイルさんが近付いてきて耳元でささやく。


「今日の調査結果をお伝えしますので、後で二人きりになりましょう」

「あっ……はい」


 急なことにびっくりする。やばい……なんだこの高揚感と胸を圧迫されるような感覚……?まるで───

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