第14話はい、じゃあ2人組つくってー

「本日の特訓は終了!そして君たちに朗報だ!」


 ムキムキで筋肉質な兵長のミランが仁王立ちで叫ぶ。


「これから3日後に実技試験を行う!これは国王様からの命でもある!」


 なんだと?実技試験?……ふむ、まあこのまま打ち合いを続けることが目的じゃないもんな。じゃ、続きを聞くか。


「実技試験はトーナメント形式で行っていき、一位になったあかつきには、なんと好きな願いを一つ聞いてもらえるぞぉ!皆存分に力を奮ってくれ!」


「「「「おおぉぉぉっ!!」」」」


 ミランの宣言にクラス中が震える。なんとまあ太っ腹なことだ。王様権限というやつか?それにしても好きな願いを叶えるなんて、王様はドラゴ○ボールと同じくらいの権力を持ってるんだろうな。俺も戦闘力53万にしてもらおうか。


「すごいな!シュン!なんでも叶えてくれるらしいぞ!」

「さっき聞いた」


 ユウトが興奮気味に叫ぶ。全く、周りの騒がしい雰囲気に誘われて興奮するなんて、ガキじゃあるまいし……


「シュン?」

「あ?別に何日も休みを貰おうとか思ってないし?なにいってんだユウト殺すぞ」

「いや俺は何も言ってないんだが……はは、シュンも楽しみみたいだな!」

「うるせ、正々堂々戦うのが礼儀と思っただけだ」


 いや本当に、ただまあ、仮に勝ったとしたら願いを叶えて貰える上、負けても何もないわけだからデメリットもないしメリットしかないよな。そうだよ、そう考えたら受けたほうが『効率的』かつ『合理的』なんだ。だから受けるだけで俺は別にそこまで興味があるわけじゃないからな?


「ただまあ、出るなら勝ちに行くけどな」

「おっ!珍しくやる気だなシュン!俺も負けるつもりはないけどな!」


 はっ、何を言う。お前みたいなチート野郎に正攻法で勝ちにいくわけないだろう。後で差し入れ渡すから試合1時間前くらいに食べてくれ。いや別に普通の差し入れだから、毒とか入ってないから。


「更に!このトーナメントは国王の命として『ペア』で行うものとする!各々好きなパートナーを見付けてくれ!期日は明日までとする、では解散!」


「……は?」


 なんだと……?今兵長は、なんと言った?ぺあ?ペアってなんだ?もしかしてあれか、あの先生がよく体育の時とかにいう、『はいじゃあ二人組作ってー』と同義か?


「ゆ、ユウト。仕方ないからお前とペアを組んでや───」

「「「「ユウトくーんっ!!私と組もー!!」」」」

「うぐおっ!?」


 突然走ってきた女子たちの波に吹き飛ばされ、ユウトが離れていく。くそぅ、惨めだ。死んでしまえ、ユウトめ。


「ひゃあー。相変わらず人気だなぁユウトは」

「松岡か」


 尻餅をついた俺の隣に歩いてきたのは、『気』という能力を持つ熱血漢の松岡だ。


「あいつ彼女とか作らねーのかな?」

「どうだろーな」


 彼女……な。アイツは昔、あの顔ので一度悲惨な目にあってるからな。しばらくは作るつもりがないと思う。


「それより松岡、よかったら俺と組まないか?正直オマエ以外にペアになってくれるような奴がいない」

「あはは…………悪い宮坂、俺は刑部と組むことになってるんだ」

「そうか…」


 刑部おさかべさんとは、松岡の彼女である。あまり話したことがないので情報がないが、まあ悪い女子ではないと思う。多分。


 しかしまぁ…他に当てもないし……俺の休みへの道は途絶えたか。くそっ。


「松岡くん!行くよー!」

「あ、待ってくれ優香ー!わりぃ、行ってくるわ!」

「はいはい」


 ヒラヒラと手を振って松岡を見送る。することもないし、ペアが出来ないなら優勝することはおろか、参加することさえ出来ない。帰るか。


 と、突然後ろから声が掛かる。


「あ、あのっ、シュンぬん!」

「ぬん?」

「あ、噛んじゃった……うぅぅ」


 可愛らしくうずくまり、ロングの黒髪を押さえてうめくのはクラスのマドンナの結城美郷さん。俺にいったいなんの用だ?


「そ、そう!あの、なんというか……もしかしてシュンくんってペア決まってる!?」

「お、落ち着け。そんなに顔を近付けるな」

「あぅ……ごめんなさい……」


 思い出したように顔を上げるので、目と鼻の先に結城さんの顔が来る。そして注意するとゆでダコのように顔を赤く上気させて謝ってくる。表情がコロコロと変わるヤツだ。


「で、あの、シュンくんってペア決まってるの…かな?」

「言わなくても分かるだろ?(ペア決まってないって)」

「そう…だよね(ペア決まってるよね…)」


 肩をがっくりと落とす結城さん。なんだ、何が残念なんだ。ペアが決まってないのがそんなにおかしいか?……おかしいわな。ぐすん。


「じゃ、じゃあ私行くね!」

「おい」

「え?な、何かな?」

「ちょっと動くなよ」

「えっ、あっ……!」


 立ち去ろうとする結城さんに近付いて服に着いたを取る。


「ほら、髪の毛」

「あっ……ありがとう…」

「いいや、じゃあな」

「うん…………ずるいよぅ…」


 振り替えって歩き出すと後ろから細い声が聞こえた。ずるい……どういう意味かは分からないが、機嫌は悪くなさそうだし良かった良かった。それにしても魔神の義眼凄いな。あんなに細くて髪の毛を見ることが出来るなんてな。


ーーーーーーーーーー


「はぁーあ、どうしようかね」


 ぶっきらぼうに呟きため息を吐くが、返ってくるのは静寂。国王が企画したペアトーナメント。中々酷なことをしてくれるじゃないか。いやもしかしてあれじゃないか?『なに?余ったのか?じゃあ先生とするか』みたいな感じでミラン兵長とトーナメントに出れたり…………いや、希望は薄いな。


「ご主人様、知っていますか?ため息をすればするほど、幸せが逃げていくって」

「無いものが逃げていくわけないだろう」

「卑屈過ぎますよご主人様…」


 呆れたような目を向けるイル。うるさいな、卑屈なのは性分なんだよ。変えられないんだよ。


「いっそのことイルが出てみるか?」

「いえ、私、戦闘は得意ではありませんから。ご奉仕することしか出来ないメイドでございます」

「あぁそうかよ」


 戦闘が得意じゃない?上級魔族兼魔王幹部のメイドが何を言う。まぁ、はなから期待してないからどうでもいいが…


「しかしご主人様。他に誘える方は本当にいらっしゃらないのですか?ご友人は?」

「オマエ、それは『煽ってる』と言うんだぞ」

「ご主人様はもう少しフレンドリーになられたほうがいいかと…その突き放すような喋り方も、人が近寄ってこない原因ですよ」

「うるさいな、仕方ないだろ。昔からこの喋り方だから変えようがないんだ」


 それに喋り方ならユウトも対して変わらないだろ。


「結局顔なんだって。俺みたいな奴とツルんでも徳なんてないからな」

「はぁ……そういうネガティブなところですよ。ご主人様、顔なんて私は気にしませんし、ただの友達付き合いに顔なんて関係ありませんよ」

「それはオマエだけだ」

「…………そうですね」


 本当にこの人は……というようにため息を吐くイル。顔を気にしないなんて嘘だろ?俺だって、最初は人の顔を見る。まあそれだけで区別差別をするつもりは毛頭ないがな。


「知ってるかイル。ため息を吐くと幸せが逃げていくんだぞ」

「それ私がさっき言ったヤツです」

「そうだったな」

「私以外にもそれくらい砕けた感じで話せば、普通に仲良くなれると思いますけどね…」

「普通ってのはオマエの主観であって必ずしも俺と同様のモノとは限らない。どうやら俺にとっての普通とオマエにとっての普通は差異があるらしい」

「はぁ……」


 手で頭を突いてため息を吐く。あーあ、幸せが逃げていくぞ。


「お、おい?宮坂!……はいるか?……いやいますか!?」


 と、不意に部屋の外から不思議な言葉遣いの女子の声が聞こえてきた。



 今日は精神的に疲れた。はぁ、完全に姫様……マナに目をつけられた。最悪だ、平穏なんてあったもんじゃない。


「お疲れ様です、ご主人様」

「イル、なぜ俺のベッドに転がっている」


 部屋に帰ると、ベッドに寝転がり上布団をしっかりとかけて気持ち良さそうにしている駄メイドイルが目を細めながら申し訳程度に労ってくる。イラッ。


「ご主人様の為に、ベッドを暖めておきました。褒めてください」

「誰も頼んでない。褒める要素が見当たらない。ほら、退けろ」

「あんっ!そんな無理矢理……でもご主人様が求めるのなら私は…っ」

「てい」

「アイタっ」


 意味の分からないことをほざくイルにチョップを当てると、可愛らしい声を出す。

 渋々といった感じでベッドから出てくるとイルは急に俺を見続けてくる。


「なんだ、文句でもあるのか?」

「いえ……ご主人様、目が充血していらっしゃいますよ?大丈夫ですか?」

「なに?……本当だな」


 イルに言われて鏡を見ると、右目は変わらないが左目が赤く充血している。それも、少しだけではなくて、かなり赤い。が、別に痛みや痒みはない。


「良ければ見させていただけますか?」

「なんでだ」

「そう警戒しないでくださいご主人様!私はただご主人様のことが心配で心配で……ヨヨヨ」

「あぁもう分かったからその泣き方をやめろ」


 相変わらずムカつく泣き真似をするイル。わざとらしく泣くから尚更質が悪い。


「では、こちらへどうぞ」


 イルがベッドへ座ると、膝をポンポンも叩き、こっちへ来いとアピールしてくる。


「どういう意味だ?」

「いえ、ですからご主人様の目を見ます。私、ちょっとだけの技術を持ち合わせていますので」

「それはいい。そうじゃなくて、なぜ膝を叩く?」

「え、ご主人様は膝枕というものを知らないんですか?」

「俺が聞きたいのはそういうことじゃない。なぜ膝枕をする。別に立ったままでも構わないだろう」

「なにをおっしゃるのですか、ご主人様。膝枕をすることで手元で色々な方向から見ることが出来ます。それに膝枕は男性の方を癒す能力があると聞きました」

「前半は認めるが後半は認めない。どこで聞いたそんな情報。こう書き加えとけ、個人差があるってな」


 当たり前のように膝枕をするな。肉体的接触は過度にするものではない。特に今の俺は敏感だからやめてくれ。


「いいですから、ご主人様。こっちへ来て下さい!」

「あ、おいやめろって……力強いな!?」


 無理矢理膝枕の体勢へ持ってかれてしまった。なんて力強さだ。おおよそ女の子が持っていていい怪力ではない。流石、魔族といったところか。全くもって目的が分からないな。


「私の目をしっかりと見てくださいね。じーっと見ていてください」

「あ、あぁ」


 ええい、ままよ。ここまできたらもう見てもらおう。それにしてもなんだこのむず痒い感じは…後頭部に触れる生暖かく柔らかい感触は……不思議とむず痒いのにどこか気持ち良さがあるのが奇妙で、なんというか……落ち着くな。


「ん…この充血は、身体の異常によるものじゃありませんね?どういうことでしょう。それにまるで両眼が、特に左目は他とは別の魔力を持っているような……」


 なに?ふむ、考えうることとしたら、やはり『魔神の義眼』か。でもなんで今更充血をする?


「あ、眼を逸らさないでくださいご主人様。もう少し見せてもらいます」

「……手短に頼むぞ」


 珍しそうに俺の瞳を色々な方向から覗き込むイル。あぁ、眼を合わせるのってこんなに辛いことだったか?……ちっ、気を逸らす為にイルの能力でもまた見てみるか。


ーーーーーーーーーー




ルル=イルタ ???歳




体力 B 魔力 +A 攻撃力 A 忍耐力 A




精神力 B 俊敏 A 総合戦闘力 +A




称号 上級魔族 魔王幹部 崇拝者 魔術を支配した者 メイドさん




上級魔族:魔族の中でもトップクラスの能力と地位を確保した者に送られる称号。全ステータスUP中




魔王幹部:魔族の王の使いであり、最も信頼されている者に送られる称号。魔王の能力の一部を貸し出せる。




崇拝者:あるモノに対して異常な程に執着及び信仰している者に送られる称号。ヤベーやつ。




魔術を支配した者:五属性の魔法を十分に扱える者に送られる称号。魔力UP中




メイドさん:メイドさん。魅力up小



情報:現魔王、ヘキセ=ジェルマン=シアトの補佐、及び幹部。現在は宮坂シュンのメイドとして人間界の様子見をしている。趣味は人間観察。(おもあるじである宮坂シュンの観察。)宮坂シュンを見ているうちに、人間に興味を持ち始めている。


ーーーーーーーーーー


「……ほぉ」

「どうかしましたか?ご主人様?」

「なんでもない」


 なるほど、充血の原因が分かった。『魔神の義眼』がしている。コイツの情報が頭に浮かんできた。てゆうか俺を観察対象にしてやがるのか。全然気が付かなかった。


「すいません、私には理由が分かりませんでした。申し訳ありません」

「二回も謝るな。俺としては収穫があったから気にする必要はない」

「収穫……ですか?」

「そうだ。だがこれはこっちの話だ。これも気にするな」

「そうですか、分かりました」


 理由が分からなくて悔しかったのか少し顔を俯かせるイル。いんだよ、俺は分かったし、良いことを知れた。これは良い、使えるぞ。


「俺はもう寝る。ベッドを使うならこっちまで来るなよ」

「ご主人様……!ありがとうございます!」

「……ふん」


 返事なんてしてやるもんか。だがまあ、お前のお陰で面白い展開になりそうだから、今日くらいは心置きなく寝かせてやる。


「ご主人様、私が膝枕したんですからご主人様は私に腕枕をしていいんですよ?」

「調子に乗るな駄メイド」

「駄メイドっ!?」



 別に、寝るなら寝るで良いんだが、朝起きた時に目の前にイルの顔があるのは心臓に悪い。俺は意識しないようにしてるだけで、女の子に免疫がないんだからな。








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