第13話進化する義眼

 今日は精神的に疲れた。はぁ、完全に姫様……マナに目をつけられた。最悪だ、平穏なんてあったもんじゃない。


「お疲れ様です、ご主人様」

「イル、なぜ俺のベッドに転がっている」


 部屋に帰ると、ベッドに寝転がり上布団をしっかりとかけて気持ち良さそうにしている駄メイドイルが目を細めながら申し訳程度に労ってくる。イラッ。


「ご主人様の為に、ベッドを暖めておきました。褒めてください」

「誰も頼んでない。褒める要素が見当たらない。ほら、退けろ」

「あんっ!そんな無理矢理……でもご主人様が求めるのなら私は…っ」

「てい」

「アイタっ」


 意味の分からないことをほざくイルにチョップを当てると、可愛らしい声を出す。

 渋々といった感じでベッドから出てくるとイルは急に俺を見続けてくる。


「なんだ、文句でもあるのか?」

「いえ……ご主人様、目が充血していらっしゃいますよ?大丈夫ですか?」

「なに?……本当だな」


 イルに言われて鏡を見ると、右目は変わらないが左目が赤く充血している。それも、少しだけではなくて、かなり赤い。が、別に痛みや痒みはない。


「良ければ見させていただけますか?」

「なんでだ」

「そう警戒しないでくださいご主人様!私はただご主人様のことが心配で心配で……ヨヨヨ」

「あぁもう分かったからその泣き方をやめろ」


 相変わらずムカつく泣き真似をするイル。わざとらしく泣くから尚更質が悪い。


「では、こちらへどうぞ」


 イルがベッドへ座ると、膝をポンポンも叩き、こっちへ来いとアピールしてくる。


「どういう意味だ?」

「いえ、ですからご主人様の目を見ます。私、ちょっとだけの技術を持ち合わせていますので」

「それはいい。そうじゃなくて、なぜ膝を叩く?」

「え、ご主人様は膝枕というものを知らないんですか?」

「俺が聞きたいのはそういうことじゃない。なぜ膝枕をする。別に立ったままでも構わないだろう」

「なにをおっしゃるのですか、ご主人様。膝枕をすることで手元で色々な方向から見ることが出来ます。それに膝枕は男性の方を癒す能力があると聞きました」

「前半は認めるが後半は認めない。どこで聞いたそんな情報。こう書き加えとけ、個人差があるってな」


 当たり前のように膝枕をするな。肉体的接触は過度にするものではない。特に今の俺は敏感だからやめてくれ。


「いいですから、ご主人様。こっちへ来て下さい!」

「あ、おいやめろって……力強いな!?」


 無理矢理膝枕の体勢へ持ってかれてしまった。なんて力強さだ。おおよそ女の子が持っていていい怪力ではない。流石、魔族といったところか。全くもって目的が分からないな。


「私の目をしっかりと見てくださいね。じーっと見ていてください」

「あ、あぁ」


 ええい、ままよ。ここまできたらもう見てもらおう。それにしてもなんだこのむず痒い感じは…後頭部に触れる生暖かく柔らかい感触は……不思議とむず痒いのにどこか気持ち良さがあるのが奇妙で、なんというか……落ち着くな。


「ん…この充血は、身体の異常によるものじゃありませんね?どういうことでしょう。それにまるで両眼が、特に左目は他とは別の魔力を持っているような……」


 なに?ふむ、考えうることとしたら、やはり『魔神の義眼』か。でもなんで今更充血をする?


「あ、眼を逸らさないでくださいご主人様。もう少し見せてもらいます」

「……手短に頼むぞ」


 珍しそうに俺の瞳を色々な方向から覗き込むイル。あぁ、眼を合わせるのってこんなに辛いことだったか?……ちっ、気を逸らす為にイルの能力でもまた見てみるか。


ーーーーーーーーーー




ルル=イルタ ???歳




体力 B 魔力 +A 攻撃力 A 忍耐力 A




精神力 B 俊敏 A 総合戦闘力 +A




称号 上級魔族 魔王幹部 崇拝者 魔術を支配した者 メイドさん




上級魔族:魔族の中でもトップクラスの能力と地位を確保した者に送られる称号。全ステータスUP中




魔王幹部:魔族の王の使いであり、最も信頼されている者に送られる称号。魔王の能力の一部を貸し出せる。




崇拝者:あるモノに対して異常な程に執着及び信仰している者に送られる称号。ヤベーやつ。




魔術を支配した者:五属性の魔法を十分に扱える者に送られる称号。魔力UP中




メイドさん:メイドさん。魅力up小



情報:現魔王、ヘキセ=ジェルマン=シアトの補佐、及び幹部。現在は宮坂シュンのメイドとして人間界の様子見をしている。趣味は人間観察。(おもあるじである宮坂シュンの観察。)宮坂シュンを見ているうちに、人間に興味を持ち始めている。


ーーーーーーーーーー


「……ほぉ」

「どうかしましたか?ご主人様?」

「なんでもない」


 なるほど、充血の原因が分かった。『魔神の義眼』がしている。コイツの情報が頭に浮かんできた。てゆうか俺を観察対象にしてやがるのか。全然気が付かなかった。


「すいません、私には理由が分かりませんでした。申し訳ありません」

「二回も謝るな。俺としては収穫があったから気にする必要はない」

「収穫……ですか?」

「そうだ。だがこれはこっちの話だ。これも気にするな」

「そうですか、分かりました」


 理由が分からなくて悔しかったのか少し顔を俯かせるイル。いんだよ、俺は分かったし、良いことを知れた。これは良い、使えるぞ。


「俺はもう寝る。ベッドを使うならこっちまで来るなよ」

「ご主人様……!ありがとうございます!」

「……ふん」


 返事なんてしてやるもんか。だがまあ、お前のお陰で面白い展開になりそうだから、今日くらいは心置きなく寝かせてやる。


「ご主人様、私が膝枕したんですからご主人様は私に腕枕をしていいんですよ?」

「調子に乗るな駄メイド」

「駄メイドっ!?」



 別に、寝るなら寝るで良いんだが、朝起きた時に目の前にイルの顔があるのは心臓に悪い。俺は意識しないようにしてるだけで、女の子に免疫がないんだからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る