第10話矢田悟史
俺は周囲を警戒しながら目の前の扉をノックする。乾いた音が響き、中からごそごそと言う音が聞こえて扉が開く。
「んだよ……お前は、宮本?」
「宮坂だ。覚えて……くれなくてもいい」
俺の目の前に居るのはクラスのやつで……なんか特徴あったか?
「名前なんだったっけ、お前」
「急に押し掛けておいてなんだよ…浜田だ。
「わかった。えーっと、名前なんだったっけ?」
「今言ったよな!?」
すこし不機嫌そうに怒鳴る浜田透。こいつはクラスの中では特に目立つこともなく、かといって影が薄いわけでもなく。いわゆる、『普通』の生徒だ。俺はそれくらいが好きだぞ。
「で、なんのようなんだよ。俺になんか用があるのか?」
「ん…なんだこれ…邪魔だな。ふんっ、なんなんだ」
「お、おい宮も…宮坂。なにかあるのか?」
「ここWi-Fi飛んでんな」
「それどっかで見たぞ!」
大きい声で突っ込む浜田。クラスじゃ静かなのによく喋るやつだ。
と、本題に戻ることにしよう。じーっと浜田を見つめる。
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浜田 透 16歳
体力 +D 魔力 C 攻撃力 +D 忍耐力 D
精神力 C 俊敏 B 総合戦闘力 -C
称号 ラーメン屋の息子 風魔法 普通
ラーメン屋の息子:ラーメン屋の跡継ぎとして生まれた長男に送られる称号。ちょっと器用になる。
風魔法:神様から貰った能力。付近の風を自由自在に操ることができる。普通の風魔法よりもスゴい。神様パワーのお陰。
普通:至って特徴もない、普通な者に与えられる称号。中の中。中の下でもなく、中の上でもない。中の下じゃないだけ良いんじゃない?
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ふむ、ステータスはまあ、こんなもんか。ユウトや松岡がおかしいのだ。というかラーメン屋の息子だったんだな、全然知らなかった。
あと『普通』を称号にするのはやめてさしあげろ。なんか可哀想だろ。あと説明文適当か。考えたのあの神様なんじゃねーの?
「な、なんだよ見つめてきて……もしかして、お前そっちの趣味が」
「なんというかお前は、普通だな」
「気にしてることを言うなよ!せめてオブラートに包め!」
「中の下じゃないだけ良いんじゃない?」
「それも言われ慣れたわっ!」
ぜぇぜぇと息を切らして叫ぶ。疲れないのかそんなに叫んで。それより、まあコイツは
俺は浜田に別れを告げて、こんどは他の部屋へと向かい、扉をノックする。
「おい、居るか?」
返ってくるのは静寂。どうやら誰もいないらしい。いないならしょうがない。次は隣の部屋だ。
「おーい、居るか?」
「ちっ。誰だよ」
舌打ちが聞こえ、ドアが開かれる。中から背丈が高く筋肉質な体つきに、茶髪をオールバックにしたヤンキーですといった容姿をしている男が出てきた。
「あ?……宮坂か」
「矢田。悪い、すこし用があってな」
眉を潜めてこちらを見るのは
「用?お前が俺に?話したことあったか?」
「あぁ、あんまり無かったかもな」
「いや一回もないだろ殺すぞ。別に良いけどよ、入れよ。出せるもんもねーけどな」
「いま殺すぞを挟む意味あった?」
しかしその見た目と言葉遣いとは裏腹に、軽く部屋へと招き入れてくれる矢田。ダルいやつを引いたと思ったが、割りと良いやつなのかもしれないな。俺の名前も覚えてたし。
しかしなんだな、松岡もオールバックだが、コイツがやると印象は大分変わってくるな。松岡は爽やかな感じだが、矢田の場合はよりいっそう怖くなってる。なんか盗んだバイクで走り出しそう。
「ほら、それに座ってくれ。ベッドは譲らないからな。勝手に寝転んだら殺すぞ」
「別に良い。あと簡単に殺そうとするな。用事もそんなに大したことじゃない」
渡されたティーカップに口をつけて紅茶を飲む。うん、上手い。アールグレイみたいな柑橘系の香りがする。もともと備え付けで、俺の部屋にもあるらしい。またあとで飲むか。
と、そんな風に一息を吐きながら矢田を見据える。
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矢田 悟志 16歳
体力 B 魔力 D 攻撃力 +A 忍耐力 B
精神力 C 俊敏 B 総合戦闘力 B
称号 脳筋 筋肉倍化 ヤンキー
脳筋:脳ミソ筋肉で出来てるのかってくらい考え方が一辺倒。あまり考えることは得意ではない。運動大好き。攻撃力・耐久力up小
筋肉倍化:神様から貰った能力。自分の任意の部位の筋肉を肥大化、強化できる。しかしその後は酷い筋肉痛が襲ってくる。このデメリットは矢田がこの方がかっこいいということで神様に頼んで作ったもの。脳筋というか最早バカ。
ヤンキー:日本国内において、「周囲を威嚇するような強そうな格好をして、仲間から一目おかれたい」という志向を持つ少年少女を指す俗語を指す。(w○ki参照)
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おいほんとこの称号考えてるやつ出てこい。なんだよ、脳筋というか最早バカって。悪口じゃねえか。あと最後。なんで手ぇ抜いた?丁寧に()書きまでして……
「なんだよ、なにこっち見てだんまりしてんだ?」
「んー……なぁ矢田。チャック、空いてるぞ」
「あ?……うわほんとじゃねえか!?早く言えよ!殺すぞ!」
「殺すな」
完全に口癖だな。『殺すぞ』が口癖とか怖すぎだろ。どんな人生送ってきたんだよ。
閑話休題。ステータスも見たし、聞きたいこと聞いて帰ろう。
「なぁ、さっきの、下着騒動についてどう思う?」
「あ?佐伯のやつの話か?」
「あぁ」
「ありゃあ糞だな!なんだあれ!?証拠もねーくせにグチグチグチグチ……何様なんだよって話だ!お前らもしてない証拠ないんじゃねえか!」
おぉ、急にキレた。思い出したらキレたのか。危なっかしいなコイツ、やっぱ近づかない方が良かったかもしれない。
「じゃあ佐伯がやったとは思ってないんだな?」
「当たり前だろが!お前は知らねぇだろうけどな、佐伯はアイツ、あんな見た目してるけど昔苛められてたんだよ。あぁ!思い出すだけで胸くそわりぃ!」
「なに?苛め?なんで知ってる」
「おれぁアイツと同中なんだよ。そんころは普通の黒髪で、ピアスも開けない真面目なやつだったよ」
ほぉ、そんな過去があったのか。
「まあ、詳しく話すわけにはいかねぇからよ。でも絶対。アイツはそんなことしねえ。やられる辛さを知ってるからな」
「そうか、ありがとう。参考になった」
「あ?まあなんでも良いけどよ。それで用事は終わりなのか?」
「あぁ、聞きたいことは聞けた」
思わぬ情報も得られたしな。
「じゃ、帰るわ」
「そうか、気ぃつけて帰れよ」
「気を付けるもなにも、何にも危ないことないだろ」
「そんなこと分かんねぇからいってんだ。なんかあったら殺すからな」
「あぁはいはい。殺されたくないから気を付ける」
こいつこそツンデレってやつだろ。正直ギャップが凄いんだが。今まで危ないやつとか、関わっちゃいけないやつとか思ってたけど、多分コイツはかなり良いやつだ。でも殺すぞって口癖は直そうな。
部屋を出ると同時に、さっき留守だった部屋の扉が閉まっていくのを見る。どうやら入れ違いだったみたいだ。もう一回ノックしてみるか。
「おーい!シュン!」
「む、この虫酸が走る声は……ユウトか」
「おいおい、酷い言われようだな」
うるさい。走ってきたからか汗かいてるじゃねえか。なんでその汗そんなきらめいてんの?もしかして金とか成分として含んでる?
「なにしてたんだ?」
「別に、特に意味はねえよ」
「そうか?あっ!それより大変なんだ!また下着が盗まれたみたいだぞ!」
はぁ、またかよ。節操ねえ犯人だなぁ。
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