第11話疑うということ

  ユウトについていき女子寮の廊下にいくと、前よりも多い人数の生徒らが集まっていた。


「友子……またパンツを取られたのね」

「ぐすん……うん…あたしのパンツ…二枚目なのにぃ……」

「友子可哀想……」

「ほらな!アタシじゃないって言ったろ!?」


 また友子か。被害によくあうな。


「みんな!落ち着いてくれ!俺に話を聞かせてくれないか?」

「あ、ユウトくん!また友子の下着が盗まれちゃったの!」

「ふぇーん!」


 おい友子、その泣き方は狙ってるだろ?


「アタシは友子と一緒にいたから犯人じゃない。だからあんたたち、アタシに謝れよ!」


 佐伯さんが声を荒げて怒鳴る。ま、当たり前だろう。証拠もなく一方的に疑われたんだ。これは女子たちが悪い。


「く……で、でも普段からそんなことしてるから疑われるんじゃん!」

「そ、そーよ!私たちは悪くない!」

「「「あーだこーだあーだこーだ!」」」


 うん、コイツら糞だな。なんだそれ、普段からの行いが悪いからなんだよ。それに普段の行いって何をしたんだ?援交だとか、万引きとか、全部噂の中の話で、実際に何かを見た訳じゃない筈だ。


「わりぃ、ユウト。少し面倒になるけど、後始末を頼む」

「お、おいシュン!?まさか…やめろっ!」


 うるせぇ。つくんだよ、そういうのは。


「おい糞ブスども!こっちを見ろ!」

「はぁ?」

「誰よあんた!!」

「ブスって……!どういう意味よ!?」


 三人の女子がこっちへ振り向く。名前も覚えてねーが、こいつらも俺の名前を知らないだろうし、別に良い。


「宮坂……?」


 佐伯が訝しげにこちらを見る。まあ、今まで関わり合いが無かったからな。いいから黙って聞いてろ。


「俺はお前らが何をしていようと知らん!そこの佐伯とかいう女子を疑うのも!虫酸の走るような言い訳をするのもな!だけどな!自分のことを棚に上げて他人を落とすような事を言うのは頂けないよなぁ!?」


 俺は入学してから一度も声を上げたことがない。女子と会話をすることは愚か、男子とすら最低限の会話しか行っていない。そんな俺が叫ぶと、回りの視線と興味は一気に俺に向く。いいぞ、あとはを投下するだけだ。


「まずはそこツインテール」

「私?」


 三人の女子の右端にいる女を指差して言ってやる。


「11月18日!○○市の○○駅前のコンビニにおいて5時30分頃!スマホの充電器及びチューイングガムその他のお菓子計1000円以上を万引き、その後も同じコンビニや近くのコンビニで同様に万引きを繰り返している!」

「えっ……ちょっ、は?」

「あぁ、あと援交もしているな。○○町の○○○ホテルに30後半と見られるおっさんと入っていく姿が見られている」

「な、なに言ってるのよ!?ちょ!嘘!これ全部嘘!」


「えっ、○○○ホテルって私の家の近所なんだけど…優子……ほんとなの?」

「○○駅って、学校からすぐ側のとこでしょ?」

「優子…まだしてたんだ……」


 回りの女子や男子がざわざわとざわつき出す。優子って名前なのか。良かったな優子。これで一躍人気者だ。知ってるやつもいるみたいだし、ハブられるのは待ったなしだな。でも、心配するな。残りの二人もそっちへ送ってやる。


「そして左端の胸がデカいやつ!」

「はぁっ!?私にもあんの?てゆうかうるせーし!」

「10月8日!午後6時過ぎ、複数人で部活仲間を倉庫に閉じ込めて1時間以上もの間、軟禁状態にした!その女の子は別のクラスだが、確か名前は……華蓮かれんだったな?」

「うそ……なんで知って……」


「軟禁って…犯罪じゃないの!」

「ねぇ紗奈さな!華蓮って私の友達なんだけど!?」

「最低!」

「おいそれ本当かよ!!」

「ち、違う!みんな落ち着いてよ!」


 残念だったな、もう火がついちまったみたいだぞ。高校生はこういう事が大好物……らしいからな。消火活動は骨が折れるぞ?


「そして真ん中のポニーテールのおんなぁ!」

「い、いやぁっ!!」

「あ、おい逃げんな!」


 真ん中の女子が振り返り走っていく。


 が、そこは流石、俺のだ。分かってくれている。


「まあ待ってよ豊永さん。まさか、自分を棚に上げて何か言うなんて、そんなことしてないよな?そんなやましいことをしてるわけ、ないよな?」


 ユウトがさも悪気無さそうにして豊永?を止める。豊永さんはばつの悪そうな顔をして、しかしここで逃げたらその言葉を肯定してしまう故に、離れられないでいる。


「ポニーテール。5月20日だ、去年入学してすぐのことだな。万引きをクラスの女子に強要、自分だけ高みの見物で好き放題をしていた。さらにその女子に無理やり援交をさせてお金も取っていた……さらにあるぞ、お前は……」

「嘘よ!嘘!なんでそんなこと言うの!?証拠なんて無いじゃない!それなのに疑うなんて最低じゃない!」


 はい、


「お前……いやお前らはさっき、佐伯さんを証拠もなく疑ったよな?なんの根拠もなく、決め付けて、疑わなかったよな?それは『最低』なことじゃないのか?」

「そ、それは……」

「だって……」

「だっても糞もあるかっ!」


 俺はここぞとばかりに声を荒げる。この城中に響くように、そしてこの場にいるすべての人間の心に浸透するように。


 揺さぶるぜ。


「お前らだけじゃない!この場にいる全員の誰か一人でも生きてきてやましいことをしたことがないって奴がいるか!?生まれてきてから今まで常に胸を張って生活できる日々を送ってきたやつがいるかっ!?」

「「「「「…………」」」」」


 この場にいる誰もが、喋ることが出来ずにいる。それでいい、そうやって俺に耳を傾けろ。


「疑うってのは、つまり、ソイツの行動を仮定して決めつけるということだ。あくまで仮定の話。だけどな、それはとんでもない影響力を持っている」


 昔、そんなことがあったよ。事実無根のはずなのに、ありもしない事が自分の知らないところで尾ひれをつけて泳ぎ回る。そして回りの目がいつの間にか怖くなるんだ。


「お前らがしたことは、そういうことなんだよ。『疑う』ってことは、な」


 回りは静まり返り、皆一様に顔を下に伏せていてる。ユウトを除いて。


(お前はやましいことの一つ二つはしてみろバカ)


 口パクでユウトに言ってみるが、首をかしげて困ったような表情を向けてくる。本当にこいつは見過ごすこともないし、助けを求められたらなんでもするからな。全く、聖人君子め。


 と、そこに足音がやってくる。


「あらあら、これはどうしたのですか?皆さま方」


 鈴が鳴るような可愛らしい声が、静寂を打つ。ちっ、誰だ。良いところだったのに邪魔しやがって……


「ひ、姫様!?」


 どうすればいいのかと不安気にしていた兵士が慌てたように叫ぶ。姫様だと?


「なにがあったんですか?よければ私にも教えて頂けますか?そうですね、そこの貴方に」

「……は?」


 俺に向けてにっこりとする姫様。


「もちろん、良いですよね?」


 ブロンドの美しいほどにサラサラな髪を伸ばし、綺麗な花と飾りの付いた髪飾りを刺している。きらびやかなドレスを身に付けているがしつこいほどではなく、程よく高貴な印象を与える。

 しかし顔はもっと凄い。好みにもよるが、個人的には結城さんよりも美しい。生まれつきなのか、俗に言う『オーラ』を感じざるを得ない。


 俯いていた男子も女子も、まるで女神を見たかのように停止している。


「はぁぁぁぁ……」


 俺はこれから起こることを想像し、面倒くさい帰ってくれ。という意味を込めて盛大にため息を吐く。

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