第5話結城さんとベッドイン

「助けてー!!!!」



いやほんと、アホかこの娘は。妖精さんはどこ行った。


「おい結城さん…それはないだろ」

「え?」

「今、助けてって叫んだな?で、ここは男の部屋。周りの部屋には屈強な男たち。あとは分かるな?」

「はっ……!ご、ごめんなさい!!」

「はいはい、いいから。こっち来て」

「あっ!」


廊下から聞こえてくるドタドタという音に背を向けてベッドの裏へ潜り込む。

もちろん、結城さんも連れてである。叫ばれたら終わりだな。


「結城さん!?」

「おいここアイツの部屋だろ!?」

「アイツ!!……名前なんだっけ?」


ドアから入ってきたのは4人の男子。更にその後ろには心配そうな顔をした女子が3人ほど見に来ている。

ていうかお前ら酷すぎな。宮坂駿だから、名前。覚えておいてくれ。


「確か…みや……宮本……?」

「ムサシだったか?」


宮しか合ってねえよ。何歳なんだよ俺は。


(し、しゅしゅしゅ、シュンくん!?)

(悪いが、静かにしてくれ。バレたら俺が殺される。)

(…………ごめん)

(分かってくれたらそれでいい)


小声で話していると自分のしたことを思い返したのか恥ずかしそうに顔を赤面させている。


「てゆうか、誰もいねえな…この部屋からだったよな?」

「だと思うよ。結城さん、声が綺麗で分かりやすいから」


(そうなの……?)

(さぁ)

(さぁって……)


知らん。女子の声を聞き比べることなんてないからな。


(まあでも、多分。悪くはないんじゃないか?)

(そ……そっか…)


あー、むず痒い。はよ帰れ男子ども。お前たちは自分達の住みかに帰るのです。ついでに言えば結城さんも帰ってくれ。


「本当に居ないのか…?もしかして、そのベッドの後ろに隠れてるんじゃないのか?」


(おいおい嘘だろ)

(ごめんなさい!!私のせいで…っ!)

(だから、誰も結城さんを責めてないから。気にすんな。それよりもこの状況を打破するには…)


このまま出てみるか?「ばぁーっ!!びっくりした!?」…なんて、無理だな。疑われるばかりか危険な奴と思われるかもしれない。何より俺のプライドが許さん。


ならいっそのこと二人で出るか?「いやあバレちゃった!」「私たちが二人で居るところ見られちゃった!」……いやこれもダメだな。どっちみち殺されそうだ。あと結城さんの評判も落ちてしまうかもしれん。


「ははっ!もしこの後ろに結城さんと宮本が一緒に居たら貰った能力でぶっ殺してやるよ」

「あはは!そりゃいいや!」

「おいやめとけって、あははは」


ボロクソに言うじゃねえかコイツら。あと俺の名字は宮坂な。なんでこんな嫌われてるのか、俺が何かしたか?そんなことを考えてる内に足音が近付いてくる。


(なんで……なんで笑ってるの?あの人たち……)

(さあな。俺にも分からん)


結城さんが少し顔を悲しそうにさせて呟く。なんで結城さんが悲しそうな顔をするんだ?俺のことだぞ?

それよりも、もうすぐそこまで足音が来ている。このままじゃ二人見つかってお仕舞いだ。ここは俺が一肌脱いでやるか。



「おいお前ら────」

「みんな、何してるんだ?」


と、部屋の外から爽やかな声が聞こえる。幼稚園の頃から聞いてきた、聞き飽きた声だ。更に言えばその後ろからキャーキャーと女子の黄色い叫びが聞こえる。シね。


「ひ、光ヶ丘……なんでそこに居るんだよ?」

「俺がどこにいてもいいだろう?それよりも、何をしてるんだ?ここはシュンの部屋の筈だぞ?それともお前らの内の1人の部屋なのか?」

「そ、そうじゃないけど……」

「さ……さっき結城さんの声が聞こえたんだって!それで心配だったからっ!」

「そうだそうだ!」


ユウトが入ってきて男子どもの足を止める。ふぅ、危なかったな。まさか助けに来てくれるとは思わなかった。てゆうか群れて調子に乗ってるな、この男子たち。


「心配だからって、他人の部屋に勝手に入っていいのか?」

「い、いやそうじゃないけど…」

「だったらもういいだろ?シュンのプライベートに入り込まないでくれるか?」

「…………悪かったよ」

「はぁ……なんで宮本と光ヶ丘はそんなに仲が良いんだよ……チッ」


男子どもがめんどくさそうな顔をして帰っていく。ひとまず危機は去ったな。だが、ユウト。それじゃあダメだ。


「じゃあな、光ヶ丘」

「あぁ、またな」


ドアがパタンと閉まる音がして、沈黙の時間が続く。


「そろそろいいぞ、シュン」

「……ありがとよ」


ユウトはやっぱり気付いてたみたいだ。何で分かる。あれか、『宮坂駿愛好家』の効果か。


「ありがとう、光ヶ丘くん」

「あぁ、結城さんか。本当に居たんだね。気にしないでいいよ」

「なんだお前爽やかか」


どうやったらそんな自然に笑顔作れんだよ。お前はあれか、笑顔製造機か?なんだそれ、紛争地域にでも行っとけよ。


「俺が来なかったらどうするつもりだったんだ?」

「別に、なにもしねえよ」

「本当か?」

「……知らねー」


そんな心配そうな視線を向けるな。俺はお前みたいに万能じゃないからな、出来る対処法なんて一つしか知らねえ。


「あ、あの、またくるね、シュンくん」

「え、もっかい来んの?」

「ダメ……かな?」


うん、ダメ。


とか言えるわけないだろう。災難と思って受け入れるしかないか……


「別に、来たいときに来れば良い」

「……っ!絶対またくるね!」

「あ、あともう一つ」


俺は結城さんの側まで行き、耳元で話し掛ける。


(明日、男子に特訓に出てくれるように頼んでおいてくれ。結城さんが頼めばアイツらも喜んで出てくれるはずだから)

「ふぇっ!?み、耳元はずるいよぅ……」


驚かせたみたいだ。耳元で喋るのは変態みたいだったか?距離感が掴めなかった、今度からはやらないようにしよう。


「あとユウト、ニヤニヤするな」

「えぇ?別に俺のことはいいから、続けてくれ」

「やかましい」


なんだお前。俺を初恋をしたムスメを見るような目で見やがって。そんな微笑ましそうな顔を向けるなバカ。


「じゃ、じゃあまたくるね!」

「おう…………来なくてもいいけどな」


走り去っていく結城さんの後ろ姿に適当な返事をして返す。多分、最後は聞こえてないだろうな。


はぁ、危なかったがなんとか乗り切ったな。コイツユウトが居なかったらどうなってたことか。少しくらいは、な。ほんの少しくらいは、見直してやるか。


「シュン、もしかして結城さんのこと好きなのか!?」

「前言撤回だ。シね笑顔製造機」

「笑顔製造機!?」


いつまでもそうやって笑顔を振り撒いてろバカ。


「それにしてもなんでシュンの部屋に結城さんが入ってきてたんだ?」

「俺のプライベートに入り込まないでくれるか?」

「嫌だ」

「さっきのお前のセリフだぞ…」


言ってることとやってることが食い違ってるぞ。


「それよりも、ユウト。あの言い方だとお前の評判を落とすことになるぞ、俺なんかのためにそんなこと」

「シュン、そんなこと…の続きを言うつもりか?」

「…………悪かったよ」


ったく、イケメンの癖に生意気だ。なんで顔が良いのに性格も良いんだよ。シね。

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