第6話松岡一樹は熱血漢
「失礼します、宮坂駿殿、お迎えに参りました」
「留守だ」
ドアをノックされ、きびきびとしゃべる声がする。昨日の結城さんの騒ぎが曖昧に終わり、妖精魔法に関しては結局分からず仕舞い。そのまま朝になってしまった。
「その声は宮坂駿殿ですよね?朝の特訓に出てください!」
「ただいま、電話に出ることができません。ピーという発信音の後に」
「宮坂殿!早く出てきてください!」
「
透視して見ると、少しキレ気味の兵士さん。朝からそんな調子で大丈夫か?朝ってのはな、豊かで、静かで、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。
「宮坂殿!早く!」
「あいよ」
適当にその辺にあった服に着替えて外に出る。軽い運動服みたいなものだ。朝から特訓とかいう拷問を受けるにはうってつけってわけだな。
●
兵士さんに連れられて、特訓場とかいう場所に連れてこられた。見る限り、もうすでに何人かは、木刀で打ち合いのようなことを始めている。
「宮坂殿は…そうですね、あの方と打ち合いをしてみてください」
「あの方?」
指を指す方向には、同じクラスのえーっと……確か……『
近付いていくと、向こうもこっちに気付き、手を振ってくる。
「おーい!宮坂ー!俺の相手はお前かー!?」
「らしいな。相変わらずテンションが高いことで」
松岡は元気なやつで、部活は…ボクシング部だったか?格闘技を習ってたはずだ。そんなやつが相手なのか、運が悪いな俺も。
ちなみにオールバックにタンクトップ姿だ。体育会系感凄いな。体操服どこ行ったんだよ。
あとコイツはコイツでモテる。というか彼女いたっけな。羨ましいシね。
「よっし!じゃあ試しに打ち合いするか!」
「木刀は?」
「男は拳の打ち合いに決まってるだろ!?」
「じゃああの辺で木刀を振り回してる奴らはみんな女だったのか」
熱血漢だな、俺とは正反対だ。それに、何故かコイツも俺のことを忌避しない、珍しい危篤なやつだ。
「よし!構えろ!宮坂!」
「はいはい」
とは言ったものの、構えなんて知らず、適当に腰を低くして松岡を見据える。コイツの能力はっと……
ーーーーーーーーーー
松岡一樹 17歳
体力 B 魔力 -D 攻撃力 +B 忍耐力 B
精神力 B 俊敏 C 総合戦闘力 B
称号
獅子奮迅:獅子のように荒々しい者に送られる称号。戦闘中に怯えることがなくなる。
ーーーーーーーーーー
は?強すぎじゃないか?平均ステータスも明らかに高い。その上に気合ってなんだ。ドラゴ○ボ○ルか。カカロットか。獅子奮迅ってのも、またコイツらしいな。
あと何気に誕生日が早い。もう17歳らしい。まだ4月に入ってすぐなのだが。
「いくぞ!宮坂!」
「はいよ」
周りも既に打ち合いを始めていて、そこかしこから気合いを入れるためか叫び声が聞こえてくる。
「気を抜くなよ宮坂!」
と、松岡が素早く間合いに入ってくる。速すぎて反応が遅れた。
「危なっ」
「おっ!?」
反応が遅れたが、元々距離があったために、なんとか身をかわす。松岡が意外そうに目を開く。
「びっくりだ。宮坂、今のを避けられるのか」
「そうみたいだな、俺もびっくり」
今度はしっかりと視界に松岡を収め、警戒を怠らない。じっと見つめて集中する。
「いくぞ!」
一々言わなくても良いのに、優しさか容赦のつもりか、一言入れて攻撃してくる。
魔神の義眼のお陰で動きは分かる。というか、少しだけ
軽いジャブとストレートを見切り、間合いをとる。動きが読めるから、なんとか形にはなっているが、多分、松岡はまだ本気じゃない。
「凄いな宮坂!ボクシング部に入ろうぜ!」
「絶対嫌だ」
「意志が強いな……それが強さの秘訣か!?」
「誰が好き好んで汗水垂らすか。俺は適当に楽をしながら生きたいんだよ」
なのに、急にこんな世界に連れてこられて、朝から特訓だと?
「意味がわからない」
「何がだ宮坂」
「こんな世界に連れてこられたことだよ。理不尽すぎるだろ、俺をクーリングオフしてくれ」
「宮坂?クーリングオフの使い方間違ってないか?」
適当に言い合いながらも、少しずつ詰めてくる松岡から間合いを取る。抜け目ないなお前。絶対殴られんぞ俺は。痛いからな。
「宮坂、まるで俺の間合いを既に見切ったように適切な距離を保つな?もしかして格闘技経験者か?」
「俺がそう見えるか?だったら眼科に行くと良い」
「相変わらず、宮坂は口が悪いなぁ。そんなんじゃ友達できないぞ?」
「ほっとけ」
おい今ちょっと傷付いたからな。別に友達なんか居なくても生きていけるから良いんだよ。俺は悲しくなんかないからな。
「ま、俺は宮坂とは友達のつもりだけどな」
「松岡……」
「隙を見せたな宮坂!」
「は?」
急に間合いを詰めてくる松岡に上手く動けずに、ジャブが見事に顔面に当たる。くっそ…油断した。てかズルすぎだろオマエ。俺じゃなかったらキレてるぞ。
「許さんからな絶対オマエほんとこの野郎」
「めっちゃキレてる!?が、ガードが緩んだからつい……」
「許さん。もう見切ったからな、次は当たらん」
今ので感覚は掴んだ。運動神経が元々良いわけじゃない俺は、もう
「当てて見せるぜ!宮坂っ!」
ダッシュで走ってきて拳を向けてくる松岡。ふむ、
「なに!?」
左、左、右、左、右、右。
手に取るように分かるぞ松岡。お前の動きはな。
「おいおいマジかよ宮坂!?天才か!?」
バカなことを言うな、それはユウトやお前のことだ。俺は非才の雑魚だ。例えるなら序盤に出てくる青くてプルプルした奴だ。ピキーとか鳴くやつな。
「じゃあもう能力を使うしかないよな!宮坂!当たったらごめん!」
「当てるつもりだろうが」
松岡は叫びながら拳を突き出す。するとその拳から風圧にも似た『
「ひょいっと」
「そんな軽く避けられるのか!?」
少し残念そうな顔をした松岡は、今度は腰を低くして両手の手のひらで丸を作り、それを腰元まで持っていく。すると、その手のひらの中から青白い光が
「かー……めー……はー……めー……」
「おいバカやめろ」
「あぶなっ!?」
なんか規制に引っ掛かりそうな単語が聞こえたので素早く近づき蹴りをいれようとする。流石にそれはダメだ。アウトだ。
「これがしたいが為にこの能力にしたんだぞ!?」
「知らん。訴えられたいのか」
「ロマンだろぉ!?」
分からんでも無いが、その為だけにこの能力ってのはどうなんだ?
「てゆうか宮坂、お前も避けてばかりだったら勝負にならないだろ?もっと打ってこいよ!」
「悪いな松岡。俺って体の半分が優しさで出来ているから人を殴るなんて、そんなことできないんだ」
「そうなのか!?宮坂、お前の体は凄いんだな…」
「そんなわけあるかバカちんが、嘘に決まってんだろ」
「嘘だったのか!?」
うん、コイツアホだわ。
「そんなに言うなら、こっちから行ってや────」
「ズドォォォォォォォンッッッ!!!」
は?なんだ今の音?目の前の地面に亀裂がある。さっきまではなかったモノだ。まるで
「あ、あの……大丈夫かみんな?」
砂煙が立ち上るなか、申し訳なさそうにユウトが喋る。その右手にはおとぎ話から出てきたような銀色に光輝く剣が掴まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます