第4話『見る』能力

 自室は流石、城の一室なだけあって広いベッドや豪華な机椅子、デカデカと鏡まで飾られている。あと風呂も付いているみたいだ。


「ふぅ…明日から特訓か」


 ユウトが言った通り、多分逃げ出すというか部屋から出たくないとか言うやつが出てくるだろう。まあ、それはそれでユウトが一声かければどうにでもなる。

 あとは反ユウトグループに対しての対処だが、これもまあ後で良いだろう。


「さて、何するかな」


 特にすることもなく、指示もない。かといって何をするにも変なことをして兵に見つかれば怪しまれる。今は行動を起こさずに、様子を見るか。


 部屋の中を何の気なしに見渡すと、大きい鏡に目が付く。


「無駄に大きい鏡だな…何を見るためだよ」


 床から2mほどの大きい鏡は俺の全身をしっかりと写していた。


 この世界の技術はどんなものなんだろうか。鏡や槍とかはまあ良いが、銃なんてあったら死傷者も出てくるだろう。ただあの召喚された大広間では、銃を持った奴は居なかった。

 王様身辺の兵が銃を持ってないということは、少なくとも量産できるほどには無いということだろう。この心配はまあ、杞憂で終わるかもしれないな。


「そういえば、『見る』能力か」


 見れば良いなら、鏡に写った自分を『見る』ことであの能力値が見れるかもしれない。


 …………どうだ?



ーーーーーーーーーー


宮坂駿 16歳


体力 +D 魔力 B 攻撃力 -C 忍耐力 D


精神力 +B 俊敏 C 総合戦闘力 C


称号 女神の送り人 魔神の義眼 ツンデレ


女神の送り人:女神によって選ばれた存在に与えられる称号。成長率UP超


魔神の義眼:神様から貰った能力。人見続れば能力値がランク分けされて見える。集中するとどんなものでも『見る』ことが出来る。またこの能力は成長していく。


ツンデレ:長い間ツンデレとして過ごしてきたことへの称号。女の子ならば個性だが、男に需要はない。魅力UP?


ーーーーーーーーーー



 なるほど……この称号の説明文を考えてるのは誰だ?出てこい。とっちめてやる。


 ステータスはまあ、ユウトよりは大分低いな。精神力や魔力がB以上だが体力と忍耐力なんかDだ。やはりユウトは天才か。シね。


 女神の送り人…成長率UP超だと?確か、勇者は成長率UP大だったからそれより上か……?

 あとツンデレってなんだ、意味が分からない。男に需要はないってやかましいわ。魅力UPとかもいらん。


「それよりも、一番気になるのはやはり『魔神の義眼』か」


 これまた変なものを貰ってしまったな…どんなものでも『見る』ことができるって、もう少し具体的に説明できなかったのか。集中だと……?


「集中……集中……」


 俺は鏡の自分を見続ける。しかし何も変わることはない。


「……何が変わったって言うんだ。どうせならイケメンに写れば良いのに」


 そう吐き捨てる。


 が、次の瞬間、目の前の鏡に写っている微妙な顔の俺が変わっていく。


 鼻は高くなり、目は大きく顔は細く、肉付きも細マッチョといった感じになり、イケメンの好青年のような姿だ。


「は?……マジか」


 顔や体を触る。いつもの感触。特に変わった様子はない。


 鏡から目を離し、再び見るといつもの微妙な顔をした男が写っている。見飽きた男の顔だ。


「本当に『見る』だけなんだな…夢だけ見せるとか、鬼か」


 この能力の開発者は悪魔か鬼畜野郎だろう。どうせなら本当のイケメンにしてくれれば良かったのに。


 そうだな、『透視』とかはどうだ?これなら『見る』内に入るんじゃないのか?


「……おっ、見えた」


 壁を見続けると隣の部屋の景色が透き通って見える。隣は確か………



 分からん。こんな奴いたか?いや、多分いた。でも俺は覚えていない。興味もない。ただ透視が出来るというのは収穫だな。要は、『~~がしたい』みたいな確固とした意志がある時に『見る』能力が発動するわけだ。なら次は……





「あの、シュンくん、いますか?」


 色々と試行錯誤に耽っていると、不意にノックの音が飛び込んできて高い声が響いてくる。


 ドアを開けると教室で話しかけてきた結城美郷が居た。


「あー、結城さん?なんか用?」

「あ、居た!あの、えっと…そう!………いや違うなぁ…えっと…その…」


 結城さんはコロコロと表情を変えて挙動不審に手を動かしている。


「ユウトならここから三つ隣の部屋だぞ」

「う、ううん!シュンくんに用があって来たの」


 俺に用事?めんどくさいことじゃなければいいが。


「その、今日、神様に会ったよね?あの時に貰った能力がちょっと分からなくて…良かったら一緒に考えてくれない?」


 は?なぜ?そんなのユウトにでも聞けば良いだろう。そうじゃなくとも俺以外の、男子でも女子でも友達の多い結城さんなら聞く宛なんていくらでもいるはずだ。


 ま、頼られたなら断る意味もない。ここで話に乗るだけでコイツに恩も売れるしな。


「考える必要はない。俺が見てやる」

「え?」


 何を言っているか分からないようで、結城さんは首を傾げる。

 はい、そのままそのまま。


ーーーーーーーーーー


結城美郷 16歳


体力 C 魔力 -A 攻撃力 E 忍耐力 C


精神力 C 俊敏 C 総合戦闘力 -B


称号 妖精魔法 学園のマドンナ 料理上手


妖精魔法:神様に貰った能力。妖精と会話することができ、意思疏通が出来る。妖精を操り魔法を行使することも可能。


学園のマドンナ:学園の中でもトップクラスの容姿を持ち、好意を持たれている人物が二桁以上いる場合に得られる称号。男の夢でもある。魅力UP中


料理上手:普段から料理を行っており、誰が食べても美味しいと思われる料理を作れるものが得られる称号。調味料などが目分量で上手く計れるようになる。


ーーーーーーーーーー


 学園のマドンナ、ね。二桁以上、つまり最低でも10人が結城さんに惚れているのか。まあ確かに容姿はずば抜けているかもな。

 それに料理上手とは、びっくりだ。もしかして男を惚れさせるために生まれてきたのか?目分量とか、スゴすぎだろう。


「あ……あの、シュンくん?そんなに見つめられると…その……」

「よし、大体分かったぞ、結城さんの能力」

「ほんと!?何かした?」

「うん。見た」

「………え!?説明終わり!?」


 だって、それ以上なんて説明すれば良い?別に原理なんて知らなくても良いだろ。


「結城さんの能力は『妖精魔法』だな」

「妖精…魔法?」

「そうだ。妖精と意思疏通して魔法を使うということらしい」

「へぇ!すごいね!」


 いやお前のことだからな?凄い他人事みたいに言ってるけど。


「なんて言ってこの能力を貰ったんだ?」

「んー…えっとね。可愛いペットが欲しいって言ったらこうなったの」

「妖精をペットってのは中々ロックだな」


 ニンフは魔王を倒して欲しいと言ってたからな。戦える能力を与えるとして、可愛い=妖精。ペット=使役する。みたいなイメージで『妖精魔法』となったわけだ。


 拡大解釈が過ぎるだろう、ニンフめ。


「妖精と意思疏通出来るみたいだし、やってみろ」

「ええと……どうやってやればいいかな?」

「さぁ?」

「さぁって…」


 俺に言われても困る。お前の能力なんだから、お前が把握しなくてどうする。


「妖精か、気が進まないな」

「なにが?」


 結城さんの云うことを無視し、目を凝らして妖精を見ようとする。妖精が見たい。特にティンカーベルみたいな可愛い感じの。


 …………見えないな。近くには居ないのか?


「なぁ結城さん、ちょっと呼び掛けてみてくれないか?妖精を」

「え!?どうやって?」

「いやほら、『助けて妖精さん!』みたいな感じで。もしかしたら妖精が結城さんの危機に駆けつけてくれるかもしれない」

「そ、そんなの、は、恥ずかしいよぉ…」


 顔を赤くして手で隠そうとする結城さん。俺の方が恥ずかしいよぉ、だ。助けて妖精さん!とかそんなメルヘンなこと言ったの初めてだ。


「言わないとダメ?」

「別に、魔法を使いたくないのなら帰ってくれて良い」

「わわっ!待って待って!」


 慌てたように手をフリフリとさせる結城さん。なんだ?毎回毎回手に意志があるのかってくらい動いてるぞ?もしかしてAIでも付いてる?


「すぅー……はぁー……すぅー…」

「そんな深呼吸して気合い入れんでも…」


 胸に手を当てる結城さんに突っ込む。が、集中しているのか聞こえてない様子だ。

 ふむ、こうしてみると中々どうして、可愛いな。まあ、俺にチャンスはないと分かっているから変な感情なんて沸かないが、勘違いしそうになるときがあるから怖い。


「よし!いきます!」

「どうぞ」





「あ!小声で言え─────」


「助けてー!!!!」



 マジかコイツ。

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