第3話宮坂駿愛好家
目が覚めると、周りにはクラスの奴らが起き始めていたところだった。
場所はまるでお城のロビー。奥には二つの豪華な席があり、片方に威厳のある髭を蓄えたおっさん、もう片方は美人さんだ、見たことないほどに。
「ここは…どこだ?」
担任の先生、『柏木先生』が呟く。周りのみんなにも動揺が伝わっていき、またあの阿鼻叫喚が始まる。
「こ、ここはどこっ!?」
「俺たちは教室にいたはずだろ!?」
「もう……もう……わけわかんない……!」
「誰よあんたたち!?」
錯乱したみんなが叫び出す。落ち着きのないやつらだ。意味が分からない。ここで騒いだところでどうなることでもないだろう。
「皆のもの、落ち着いてくれ」
不意に野太く、されど威厳のある声が静かに響く。声の主は、椅子に座っている髭を生やしたおっさんだ。クラスのみんなは唖然としてそちらをみている。
「私はこの『シュドール国』の国王、ロミオ=シュドール=スーモだ。そしてこっちがジュリエット=シュドール=バイリーンだ。慌てるのは分かるが、落ち着いて欲しい」
たんたんと語られる自己紹介。国王はロミオ、王女はジュリエット。おとぎ話かなにかか?落ち着いて聞いて欲しいなんて、出来るわけがないだろう。
「王様……?ねぇこれドッキリじゃないの!?ここどこよ!?」
「だから、シュドール国だと言っておる」
「さっきのチビが言ってたやつとこか…?」
「あの、男の子か女の子かわからない子のこと!?」
恐らくニンフのことだな。ちなみに今は生徒40人+先生1人、すべてこの場にいる。ユウトは未だに考え込んでいるみたいだ。
「この世界の説明はもうニンフ様からされてるはずだ!君達には私たちの願いを聞いてもらいたい!」
「はぁ?願い?急にこんなところに連れてこられてかぁっ!?」
さっきまで黙っていた男子、あれは確か…『
「貴様!国王様に向かってなんて態度を!!」
「やめんか!」
1人の兵士が飛び出してきてその手に持つ槍を矢田に向ける。辛うじて国王様が止めるが、もう遅い。
「あ、あれ本物……?」
「言うこと聞かなきゃ殺されるのか?」
「もう……いやぁ……」
静かに広がる動揺。まあ本物の槍なんて見たことないだろうからな。しかしこれじゃあ話は進まないな。しかたねえ。
「おいお前ら、今そんな風に慌てていても仕方ないだろう。ピーピー泣いてるよりもこれからのことを考えろ。国王だってやめろって言っただろ。殺す意志がないことの現れだ」
あわてふためく奴らに言ってやる。少し上から目線だが、これぐらい言ってやらなきゃ聞かないだろう?
これでコイツらも落ち着いて───
「……何様だよ!お前!!」
「ピーピーって何よ!?怖くて泣いちゃうのは仕方ないでしょ!」
「殺す意志がないったって今から変わるかも知れないだろ!?殺さない証拠が何処にあるんだよ!?」
───はぁ……めんどくさコイツら。もう、いいや。
「ユウト、頼むわ」
「あ、あぁ。シュン、流石だな。その行動力と判断力はいつも驚くよ」
「いいから、ほら」
どうせ俺が言って聞かないならユウトに頼むしかない。ユウトはクラスのリーダーだからな。俺が言うよりは効果があるだろう。
「みんな、聞いてくれ!このままじゃあただ時間が過ぎるだけだ!国王様の話を聞いてみるのが今は大事じゃないかな?」
「お、おぉ!流石ユウトだ!言うことが違うな!」
「そ、そうよね!」
「へへっ、俺は最初からそう思っていたぜ!」
「ここは冷静になる必要があるわね……」
ほらこれだ。俺が言うのとユウトが言うのじゃ全然違ってくる。言ってることは同じなはずなんだがな。何がいけないんだ?
「…まとまったかな?それじゃあ、説明を始めるぞ」
こほん、と一つ咳をして話始める国王。なんだか難しい内容であまり頭に入ってこなかったが、要はこういうことらしい。
・今この国は魔族に狙われている
・緊急事態のため俺たちを呼んだ
・この世界には『モンスター』というのが居る。
・魔族に対抗するため、これからはしばらくの間強くなってもらうための特訓を行う
・生活に関しては責任を持つ。それぞれには異性の奉仕者を与えられる。
ということらしい。簡単に言えば『死にそうだから助けてくれ』と言うことだ。
そんな知らない国のために、勝手に転移させられて平和を脅かされたわけだ。意味がわからないな。
「確かに怖いかもしれないが、俺たちには神様から貰った力がある!みんな!国をひとつ、救ってみようじゃないか!!」
「「「「「おぉぉぉーっ!!!」」」」」
元気な奴らだ。さっきまで泣きわめいてた癖に、ユウトが一言言うだけでコロッと態度を変えやがる。ユウトめ、だから嫌いなんだ。この主人公が!
「ふん、相変わらずの人気だな。お疲れ様ですユウト様」
「やめてくれよ、シュン。ただでさえこんな役目は嫌だっていうのに」
どの口がいうどの口が…さっきまでノリノリだったじゃねえか。なにが『国をひとつ、救ってみようじゃないか!』だよ。俺も言ってみたいわ
「ありがとう皆のもの、今日はそれぞれの部屋に行って休んでくれ。明日から特訓を開始する。朝になったら兵に迎えにいかせる。着いていってくれ」
そういって、解散となった。
みんなは『マジかぁ』とか、『どうなっちゃうんだろうねぇ!』とか、なんだかハイテンションになってしまっている。まあ、そのテンションが切れてしまったらどうするつもりなのか知らないけどさ。
お父さんとかお母さんとか、居るんじゃないのか?俺はいないけどな。
「シュン、来てくれ」
「……なんだ?」
周りに連れられて部屋へ戻ろうとしているとユウトに止められた。眉間にシワを寄せて難しい顔をしている。いつものイケメンが台無し……でもねえな、これはこれで味があるじゃねえか。シね。
「明日、特訓と言っていたが、何をすると思う?」
「さあ?兵士のやつらとの打ち合いとかじゃないか」
「みんながしてくれると思うか?」
「まあ、逃げ出す奴もいるだろうな、オレみたいに」
「頼むからシュンは居てくれ……」
めんどくせえなぁもう。良いじゃねえか、逃げたいやつは逃がしてやれば。
「明日、またみんなが慌て出すと思う。どうすればいい?」
俺に聞くなよ…どうせユウトが綺麗事を並べればホイホイ着いていくよ。ま、反ユウトグループのやつは知らんけどな。俺はボッチだから知んねー。
「ユウトが話せばみんな来てくれるさ。そういう役目だろ」
「シュン……俺は…そんな良いやつじゃ───」
「知ってる。何年一緒にいると思ってるんだよ。だけどな、今このクラスはお前中心で成り立ってるようなもんだ。柏木先生も正直頼りない。お前がしっかりしなきゃ誰も着いていかないぞ」
俺は、まっすぐ目を見て言ってやる。そんな弱音を吐いている場合じゃない。今の状況は決して良いものではないからな。ここで中心であるユウトが弱音を吐いてしまってはクラスが安定しなくなってしまうのだ。
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光ヶ丘裕翔 16歳
体力 B 魔力 +B 攻撃力 +B 忍耐力 B
精神力 +B 俊敏 B 総合戦闘力 +B
称号 勇者 聖剣の使い手 宮坂駿愛好家
勇者:この世界の要となる存在に送られる称号。成長率UP大
聖剣の使い手:神様から貰った能力。『聖剣エクスカリバー』を扱うことが出来る。
宮坂駿愛好家:宮坂駿のことが好きすぎてヤヴァイ。宮坂駿の居る場所が感覚的に分かるときがある。マジヤヴァイ。
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────は?ま、まてまて、なんだこれ?
目の前のユウトを見ていると、ユウトの顔の隣にウィンドウが現れ、それらの文字が浮かぶ。
「ユウト、これなんだ?」
俺はユウトの肩の上を指差す。
が、ユウトには見えないようで、全く分からないしい。
「こんな形で、能力値が振られてる。Bばっかりだな」
「それは良いのか?」
「さぁな、比較対照がない。というか……宮坂駿愛好家ってなんだ?」
一番に目が行き、そして一番に突っ込みたくなった箇所だ。愛好家って人間にも適用されんの?
「宮坂駿愛好家って、その能力値が書かれているやつにあるのか……?」
「あぁ、称号ってところにな。時々俺の居場所が直感で分かるらしい」
「あぁ、あれか」
「身に覚えがあるのかよ……」
なんか好かれていて嬉しいはずなのに、どっちかっていうと恐怖の方が強いぞ?少し距離をとる必要があるようだ。あとヤヴァイって言うのやめろ。普通にヤバいと言え。
「ちなみにユウトの能力は『エクスカリバー』を扱うことなんだな」
「なんで分かったんだ!?流石シュンだ……」
「だから書かれてるって言ってるだろうバカ」
マジで尊敬の念を込めた視線を送ってくるな。やめろ、気恥ずかしいから。
ま、ある程度予想はついているけど、多分これはニンフから貰った俺の能力だな。確か『見る』能力だったか?集中してみればソイツの能力が分かる…のか?そんなところだろう。これは役立ちそうだ。
俺は、能力の有用性を考えながらユウトと別れて自分の部屋へ向かった。
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