『笑わないんじゃない、笑えないんだ。』

 安桜蒼を助けるには問題の解決が必須である。だが、僕にはどうしようもない。

 

 しかし、彼女に問題に向き合わせる手助けくらいはできる。その後どう転ぶかは、彼女次第だ。


「蒼さんを、僕に下さい」


「はぁ!?」


 突拍子もない発言に三人は驚きを隠せないでいた。そんな中、蒼だけは声を発した。

 どうやら通常の状態へ戻ったらしい。

 安桜蒼の人格が変わる切っ掛けはこの環境に居るときと、それを外部に知られないようにするときだ。僕は以前にも見たことがあった、彼女の人格が変わる瞬間を。それは、会話が家庭の話に及んだときであった。

 安桜蒼の人格の入れ替わりが自己防衛のためなら、更に違う理由でショックを与えれば自己防衛が発動して元に戻るという考えだったが、この行為は賭けであった。なぜなら、これは第三の人格がある場合を考慮していないからである。


「良かったよ」


「き、貴様......いきなり何を......!! 駄目に決まっているだろ!!」


「蒼さんの意見は聞いたんですか?」


「そんなこと、蒼だけで決められるわけがないだろ!」


「なら、あなたの意見だけで、蒼さんの人生を決めてもいいと?」


「私は、娘の幸せを思って......!!」


「全て決めてしまおうと? それが、蒼さんの幸せだと、本当に思っているのですか?」


 父は言葉を失った。


「お父さん。私はお父さんに感謝しています。お父さんが私のためを思ってしてくれていたことも知っています。それでも......これからは私にも選ばせてください。言われた通り、大学には行きます。ただ少し、私のことも信じてください。お母さんも、見守ってくれてありがとう」


 蒼の目からは自然と涙が溢れていた。

 

 ーーーーそれ以来、もう一人の安桜蒼は出てこなくなった。

 そして、僕と会ちょ......蒼は付き合うことになった。


「僕と同じ大学受けるなんて......お父さんに言われた大学には行くんじゃなかったんですか?」


「私は大学には行きますって言っただけよ? それに、もうそこまで怒られないと思うわ」


「そうですか」


「彼女が一緒の大学に言ってあげるんだから、もうちょっと嬉しそうな顔しなさいよね」


「悪いな」


(僕は笑わないんじゃない......。笑えないんだ)


「何よソレー!!」

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物部春人は笑わない。 アサギココア @Asagi_Cocoa

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