『安桜蒼は戻れない。』

 私は誰なのか、今は安桜蒼なのか、それともまた別人なのか、それすらも分からない。

 突然頭痛にやられ、私の意識は飛んでしまう。その間、私は私じゃなくなる。


「イタッ!!」


 そう、こんな風に......。


 バタバタバタと本が落ちる音を聴いて、私の意識は飛んだ。


 次に私の意識が戻ったのは次の日の朝、自分のベッドの上だった。

 私はたまに考える......もしも意識が戻らなかったらどうなるのか。


 私が異変に気づいたのは一年前。一人で生徒会の仕事をしているときだった。突然、激しい頭痛に襲われ気がつけば家に居た。

 それから何度か同じ様なことを繰り返し、自分の身に起こっている異変に気がついた。

 そんなことに誰も気がつかない。私の記憶がない時間帯も、他の人は私と話している。

 でもこんなこと、他の人に話せる訳がない。勿論、親にも......。


 だから私は、必死で自分の身に起こっていることについて調べていた。

 それで昨日も図書室に居たのだけれど......。


「また、なってしまったのね」


 蒼は私服に着替え、家を出た。


「学校の図書館じゃ駄目だわ」


 向かった先は、市立図書館。


「あっ」


 図書館の前でばったり出会した蒼と春人は同時に声を発した。


「こんなところでどうしたのかしら?」


「会長こそ」


「私は......」


「文化祭の準備はいいんですか?」


「文化祭?」


「あれ? 色々とまとめなきゃいけないんじゃ......」


「あ~!! 今日はちょっと休憩よ」


「そうですか。因みに僕は昨日と同じです」


「へ~」


「自分から聞いておいて、何か酷くないですか?」


「そんなことを思っているようには見えないけど? 物部くんは相変わらず無表情ね」


「これはデフォルトですよ。ところでなぜ図書館に?」

 

 言えるはずがない......。


「勉強......」


「会長に必要なんですか?」


「嫌な言い方するわね。私だって勉強くらいするわよ」


「そうですよね。じゃあ一緒にしませんか?」


「え、遠慮しておくわ......」


「会長、何か隠してますよね?」


「何をよ......」


「いえ別に......。ただ少し、昨日とはまた......」


「何が言いたいの」


「別人みたいですよね」


 彼にそう言われた途端、私をまたあの痛みが襲った。


「私は安桜蒼。あなたと会うのは、今日で二度目ね」


 私が私じゃないことを、私は知っている。


「私を......助けて......!!」


 ただこのとき、意識をなくした私と、私じゃない私の意識は繋がっているのだと理解した。

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