第4話 日蝕
よりにもよって神聖な
月読の頭の中で、光がはぜた。
両手で力いっぱい扉を押す。しかし、中から
慌てて衣をはおった姉が、部屋の奥へ逃げる。裸のままの
「兄上?」
月読は腰に佩いていた剣を抜き、刀身を弟へ向けた。
「
弟が剣を下ろして首を振る。
「違う! これは姉上が」
「
奥から、
「出ておいき! 早く!」
吐き出せない怒りをため込んだまま、月読は剣を手に、姉の方へ向かった。
「ああ、月読!」
乱れた髪と衣のまま座り込んでいた
「汝が来てくれて助かった。
しらじらしい。冷ややかに見下ろしたまま、姉に近づく。
「
上目づかいに姉が見上げてくる。そういうことにしろ、という恣意に満ち溢れている。
荒くれ者の
いや、前から知っていたことではないか。姉の計算高さ、狡猾さは。他の者が逆らえないとわかって、自分の手は汚さず無理難題をけしかける。
剣を持つ手が震えた。迷いを振り払うように、柄を握りなおす。
そんなことはさせない。
「剣をしまっておくれ。本当に、汝には感謝している。吾が弟よ」
立ちあがった
自らの恥を曝されてなお、平気でそのような顔ができる姉に、月読の嫌悪は膨れ上がった。
ふくよかだった
右手に持った剣を、わざとらしく
「このことは内密に。あんな男でも弟、広く名を貶める必要はないであろう」
立ちあがった
よくもぬけぬけと。わかっていても自分には逆らわないと見くびっているのか。月読は拳を握りしめた。
「さあ、もう夜が明ける。日を昇らせなければ」
――天にあるのは日輪だけではない。父・
外へ向かおうとする姉が、こちらを一瞥もせず目の前を通り過ぎる。濃縮した体液のにおいがした。
「姉上」
低い声で呼び止める。姉が歩みを止め、怪訝そうに振り向いた。凍りついているはずの胸の中に、激しい衝動が吹き荒れる。
ゆっくりと近寄る。警戒すらしていない
驚いた姉が目を見開き、何か言おうとしている。が、それはうめき声になるばかりで言葉をなさない。喉がひくひくと動くのが、生々しく指に伝わる。顎の下のやわらかな部分に手が食い込む。もう少し力を入れれば、あっけなく折れてしまいそうだ。こんなにもろい女一人を、今まで畏れ従ってきたとは。
手の甲に爪を立てられたが、くすぐったいばかりで痛くもない。
足の力が抜けたのか、姉が崩れ落ちていく。月読は首を絞めたまま床に押し倒し、上から体重をかけた。赤く上気していた姉の顔が、黒く濁り始めた。この世の誰よりも美しく威厳に満ちた顔が、醜く光を失っていくのを見て、月読は息を荒くしてさらに力を込めた。
姉の首から力が抜けた。
白目を剥き、開いた口から泡のような唾液が流れている。
内側から突き上げてくる衝動を抑えきれず、月読は叫んだ。一度では足りず、何度も声を張り上げる。
月読は、横たわる
高天原から飛び降りるようにして、地上を、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます