第4話
「ショウ着いたよ! ここがラズの村だよ」
リーチェのおかげで一切戦闘を経験することなく無事に目的地へと辿り着いた。
木の柵で村全体を覆った小集落で、いかにもRPGらしい村だった。
魔物が周辺をうろついている割にはのどかで、稲作なんかをしている人がちらほらと見受けられる。
それじゃあ、まずは占い師がいる場所を探すとしますか。
ちょうど近くに村人が通りかかったので話かけてみる。
「あの~すみません」
「ようこそ、ここはラズの村だよ」
「いえ、それよりもこの村で有名な占い師の方がどちらにお住まいかをお訪ねしたいのですが……」
「ようこそ、ここはラズの村だよ」
「……あの」
「ようこそ、ここはラズの村だよ」
なにこの塩対応!
眉すら動かすことなく、平然と対応されたんですけど!
仕方ないので、別の人に。
「すみません」
「聞いたか、アトラエル王国のお姫様が魔物に攫われたらしいぞ」
うん、知ってる。
その国から俺旅してきたんだし。
「占い師のいる場所を――」
「聞いたか、アトラエル王国のお姫様が魔物に攫われたらしいぞ」
いや、だからなんだよこの塩対応(二回目)!
またしても眉根動かすことなく平然と対応されたぞ!
「仕方ないよ、村の暗黙の掟ってやつで、入り口付近で話かけられたら必ずひとつの台詞しか答えないってことになっているんだから」
「ゲームじゃねぇんだから」
いくら質問しても同じことしか返ってこないって意外と精神的にくるんだぞ。
「それよりも占い師がいる場所なら私知っているから、案内するよ」
「なんでリーチェが占い師の場所を知っているんだ?」
「だって、ここの村で勇者の居場所を予言してもらったんだもん」
「そ、そうだったのか……」
なんだか嫌な予感がするんですけど~。
◆
リーチェの案内で占い師が住むという民家の前までくる。
有名占い師というぐらいだから、てっきり村の中に巨大な館とか構えているのかと思息や、建物自体は村にある他の民家とまったく同じ作りの木造建築だった。
「すみませ~ん」
インターフォンなどというものはもちろん存在しないので(スマホがあるくらいだからあってもおかしくはないけど……)扉をノックして中の住人に直接声をかける。
「はーい。どなたですか?」
すると数秒もしないうちに返事が返ってきて、扉が開く。
出てきたのは20代くらいの青年で、青い袴のような和服を着ておりいかにも占い師らしい雰囲気を醸し出していた。
「あなたが有名な占い師さんですか?」
「いえ、わたしはシンギという者で、おそらくあなたがいう有名占い師というのはわたしの師であるハワード先生のことではないでしょうか?」
「そうなのか?」
一応リーチェに確認する。
「うん。私もハワード先生に予言してもらったよ」
「実は俺もハワード先生にこれからのことを占ってもらいたいくてこちらを訪れたんですけど」
「そうでしたか。それではお上がりください」
あまりにもあっさりと招き入れられてしまった。
「先生に確認を取ってからとかじゃなくて大丈夫なんですか?」
「はい、ご心配なく。あなた様ならきっと先生も喜んで占ってくださるでしょう」
なぜだろう?
すごく柔和な笑みで返事してくれたのに、急に背中に悪寒が……。
シンギさんの案内で先生がいるという占い室へと通される。
「あの~リーチェさん。これ一応俺の占いなんですけど?」
さり気なく、一緒に上がり込み俺の背中をつけるリーチェにジト目で尋ねる。
「えぇ、いいじゃん。ショウの占いの結果私も興味あるし」
興味本位でついてこられても困るんですけど!
結果次第では勇者とバレて巨大カッターで首が刎ねられるってオチが待っているんですから。
とはいっても、ここで冷静さを欠いて拒絶するものなら逆に怪しまれるしなぁ。
どうすればいいんだよ……。
「こちらが先生のいる占い部屋でございます」
とか悩んでいる間についてしまった。
くそっ、ここまできて追い返すのも変だしな。
こうなったら悟られないよう、こっちがうまく立ち回るしかないな。
「どうぞ」
シンギさんが襖を開け、中に通してくれる。
いよいよ占い師とご対面だ。
「うむ……よく来たな若き者よ。このワシがハワードだ」
四畳半くらいの狭い部屋の中央にそのお方はいた。
薄い座布団に胡坐をかきながら座る、70代くらいのおじいちゃん。
シンギさんとは少しデザインの違う和服に身を包みながら、瞳を閉じ姿勢を崩さずその場に静止していた。
瞑想状態とでも表現すべきなのだろうか、宗教的なものに疎い俺ですらその集中力が伝わってくる。
……只者じゃないぞ、この人。
そう直観が告げる。
というより……意外と簡素な部屋なんだな。
占い部屋というからにはもっと怪しい道具なんかが大量に用意されているのかと思いきや、案内された個室にはそれらの類のものは一切置いていない。
それどころか洒落た置物なんかも飾られていないため、殺風景極まりない。
そんな部屋の中央で、ジッと座り瞑想するハワード先生。
これはもしかしなくても、すごい人物が降臨してしまった予感がするぞ!
「あの、実は――」
「待て、いわんでもわかる」
早速本題を切り出そうとしたところで、話が遮られる。
「魔物に攫われたアトラエル王国の姫君の居場所が知りたいんだろ?」
「なっ……」
素直に驚嘆してしまう。
こ、この人は相手が占って欲しい事までも占えるのか!?
これは本気でヤバい人かもしれない……。
「よかろう、そなたが進むべき道を示してやろう……じゃが、その前に」
貫禄溢れる台詞に反射的にゴクリ、と喉を鳴らしてしまう。
「そなたのパンツの色は、何色だ?」
空気が凍りついた。
…………はい?
「え、え~と、どういう意味でしょうか?」
「どういう意味もそのまんまじゃ。そなたのパンツの色をこのワシに教えろ」
「お、俺のですか?」
「そうじゃ」
「念のために確認ですけど。なぜに、ですか!?」
「そんなのワシのしゅ――そなたの進むべき道を占うために決まっておろう」
いま趣味っていいかけなかったか!?
ほんのりと頬を朱に染めたのち、急いで真面目そうな趣へと直す先生。
あ~さっき感じた悪寒の正体わかったわ……。
「さぁ、つべこべいわずさっさと答えんか!」
まさかのホモだわ、この占い師。
っか、どんだけホモネタ引っ張るんだよ!
ゲイなのか!
この世界の男はみんなゲイなのか!?
「ショウ、たぶんあれ答えないと先進まないパターンだよ」
「まじかよ……わかった、紺だ!」
「ふむ、なるほど。よかろう。そなたの運命を占ってやろう」
ナニこのやりとり?
やけくそ気味に叫ぶと納得したのか、胡坐だった姿勢を崩し、服の内側からいくつかの道具を取り出す。
お箸に茶碗に、饅頭?
それにムチに剣に、ブーメラン?
一体なにに使うんだ?
疑問に思い佇んでいると、その答えはやってきた。
「ほわちゃああああああああああっ!」
突然奇声を上げ、ものすごい勢いでお箸を使い茶碗を回し始める。
それに連動して饅頭を口に加え、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
いや、ナニコレ?
「あの~ハワード先生はいまなにをされているんですか?」
奇妙な行動をする先生を片目に弟子であるシンギさんへと真相の究明を依頼する。
「あぁ、あれは先生独自の占い方なんです。毎回やることは変わるんですが、ああやって奇妙な動きを繰り返すことで神と交信して迷える者たちの未来を知るのです」
「ほわちゃああああああああああっ!」
あ、あれで本当に未来がわかるのか?
とかなんとかしているうちに、茶碗とお箸を投げ捨て、今度は剣を使ってダンスを躍り始める。
ついでに狭い部屋でブーメランを飛ばし、挙句の果てにはムチを振り回す。
「うわっ、あぶねっ!」
回転するブーメランがこめかみを掠める。
狭い部屋でやることじゃねぇだろ、これ!
「死ねぇえええええええええええっ!?」
今度はリーチェに斬りかかったぞあの爺さん!
だが、暗殺者リーチェにそんな不意打ちなぞ通じるわけがない。
愛用の巨大カッターの刃を素早く展開し、ハワード先生の一撃を見事に受け止める。
っかいまリーチェへの殺意を露わにしなかったか、この爺さん。
「リーチェ、大丈夫か?」
「うん……だけど、なんでこんなに殺意を向けられているんだろう?」
「ふぅー、男を誘惑するメスはコロス……コロスコロスコロス!」
口から白い蒸気を噴出しながら、血走った眼でリーチェを睨んでいる。
あぁ、どうやらリーチェがものすごく邪魔だったらしいですね。
「急に襲ってきた理由はわからないけど、殺意を向けられた以上覚悟してもらうよ! 一刀両断、
◆
リーチェの技により荒れ果てた部屋の中央で、ハワード先生(無傷)が静かに口を開く。
「出ましたぞ、そなたの探し人はここから西にある山道を超えた先にあるラゴスの村の住民が知っている、かもしれない」
すごく大雑把な占い結果が出たんですが!
「あ、あの、もうちょっと詳しいことはわからないんですか?」
「すまぬ。いまのワシに見えたのはそれくらいじゃ」
ていうか俺のことは的確に当てられていたのに、なんで俺の占いはこんな雑なんだよ!
「……そうですか。ありがとうございました」
とりあえず次の目的地は定まったので、素直に引き下がる。
下手に拗らせるほどの関係性を持ちたくないしな。
「そうだ、お主よ」
「なんですか?」
去り際でハワード先生に呼び止められる。
「今晩、ワシと一発ヤらないか?」
「謹んでお断りします!」
あとから聞いた話では、ハワード先生は的中率の高い占い師なのだが無類の男好きで、男性の客が来ると興奮してしまううまく実力が発揮できないらしい。
◆
「とんだ災難だったぜ」
家を出たところで、大きなため息を吐く。
「それで、ショウはこれから西の山を越えるんだよね?」
「そのつもりだけど」
「なら、この村で山越え用のアイテムを調達しないとだね」
「おい待て……まさかついてくるつもり、なのか?」
「うん、そのつもりだけど?」
冗談じゃないぞ。
案内も終わったし、はいさよならして命の危機から脱出したかったのに!
「それにショウについていった方が私の探している人に会えそうだしね」
現在進行形で会ってますよ、こん畜生!
くそっ、こうなったらとことん身分を隠して利用できるだけ利用してやる。
戦闘力は文句なしのリーチェだ。
性格も素直な方だし、可愛いちゃ可愛いから、一緒に旅できるのも光栄といえば光栄だし……。
というか、この手の性格は意外と根は頑固で、こうといったら絶対に曲げないから俺が突き放すだけ無駄っていうか……。
うん、素直に可愛い子と一緒に旅がしたいです。
だって男の子だもん。
それぐらいの欲望は許して。
「よしっ、今日は準備をして明日出発するぞ!」
「おぉー!」
「ちょっと待ちなさい!」
意気揚々とする俺たちの間に謎の声が割り込んできた。
なんだよ、これからってときに。
声のした方を向いてみる。
するとそこには、真紅色の髪をなびかせたひとりの少女が佇んでいた。
「あたしはシンク。いまからあたしに協力しなさい!」
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