#3
その言葉はあまりに唐突で、この異様な出会いで衝撃的発言。
一瞬、彼女自身がおかしくなったんじゃないかと思ったが現実は変わらない。
驚愕に染まった彼女に機械仕掛けの少女が実に不思議そうな貌をしたのち、機械で出来た右手で机の方を指さした。
「とって」
それに我に帰り、机の方を見る。
機械の少女の右顔の形が置かれていた。
思わず怯えそうになるが、そーっと小指で掴んで少女に渡した。
少女は右顔の形を貌にはめると浸透するかのように、形が貌の一部となった。
「ねえ、ダーリン。あなたは私の事好き?」
少女は無機質に弱弱と甘えるように言った。
それに彼女はビクッとしながらもたどたどし
く答える。
「ええっと、私、あなたとは初めて会うからまだ分からないかな・・・」
「そう・・・」
少女は分かりきっていたかのように、どこか期待してたかのように、どこか悲しげだった。
それに少女は立ち上がって頬を叩き、彼女の手を取った。
「行くよ。ダーリン」
「行くって、どこに!?」
「掛け替えのないあの時間へ・・・!!」
薄暗い空に走る二人。
どれくらい走ったか分からないくらい走って
息切れが激しくなった頃、少女が「着いたよ」とその場面に立つ。
それに彼女は息を呑んだ。
星の欠片が天〈そら〉へと垂れ、まるでオーケストラの吠える貌が浮かんで来るように、壮大なメロディが流れるように夜の海にその輝きを放っていた。
「・・・」
私はこの景色に愛おしさを感じた。
何度も大切な人とこの景色を見ていたかのように・・・
「キレイ、でしょ?」
「あ、うん。そう、だね・・・」
名前も知らない少女の貌はこの世の美しさを詰め込んだように・・・綺麗だった。
頬が赤くなりながらも首を横に振る。
だって、この子は人間じゃ・・・
「ねえダーリン」
不意に少女が言って来る。
「私に名前、付けてくれる?」
思わず、キョトンとしてしまう。
だが、この子に会う名前は━━━
「じゃあ、金ちゃん、とか?」
「・・・クスッ、フフフ・・・」
笑われた。
てか、自分で言っといて難だが金ちゃんは無いわ。
私は少女が笑い終えるまで、少女を見ていると少女はようやく笑い止んだようで。
「やっぱり、ダーリンは変わらないね。けど
もう私には名前があるんだ」
少女はゆっくりと立ち上がり、星空を掴むように━━━━
「ヘプバーン。私の名前。ダーリンが初めて私に付けてくれた名前」
風が波のように小さく揺らいだ。
ヘプバーン。
恐らく、あの女優から取ったのだろう。
まあ確かに、少女の美しさはこの世の美を詰め込んだヘプバーンであろう。
そんなうつつからふと、腕時計をみるや既に
深夜を越えていた。
家まで遠いし、仕方ない。
今夜はホテルに泊まろう。
近くにはあるはずだが、この子、お家はあるのだろうか?いいや、無いだろうな。
「ねえ、ヘプバーンさん。よかったら一緒にホテルに行かない?」
歩いてしばらくの所にホテルがあった。
受付で別々の部屋を取ろうとしたら、ちょっとばかし「同じ部屋がいい~」と駄々をこねて・・・こんな子供ぽい一面もあるのだなとどこか笑っている自分がいた。
部屋に入るとテレビのニュースが気になったので、リモコンを押した。
それから新聞を広げて椅子に座る。
ヘプバーンは風呂に入りたいとのことなので、先に譲った。
10分くらいだろうか?
ヘプバーンが私を読んだのは。
どうした?と扉を開けると、「トワッ!」とヘプバーンが抱きついて来たのだ。
思わず倒れ込む私。
一体これは・・・
「えへへ、ダーリンたらスケベさん」
「いや、それはヘプバーンがやって来たんでしょ!」
「それはそうなんだけど、ダーリン、初めて私のこと呼び捨てにしてくれたね」
「う゛う゛それは・・・」
何だろう、このトキめき・・・・
そうだ、きっとアレだ。
吊り橋効果。
きっとそうだ。あの機械仕掛けの貌による不安と綺麗な星空に今のトキめき。
それに身体は機械でも女の子。
同じ物が付いているのに、何ドキドキしてんだ!
「ダーリン、その‘キモチ’忘れないでね」
「う、うん・・・」
何だろう・・・?
ヘプバーンは何を思って、これは一体何なんだろうか・・・・
「さっ、ダーリン。私お風呂入ったから先に入って」
「あっ、ちょっと!」
『次のニュースです。南方中心に機械の特殊メイクの装いをした見られる集団が町でボイコットを起こしている模様です。
不審な人物を見た方は直ちに100当番を』
付けぱっなしのテレビのニュースを二人の声で搔き消えた。
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