第318話 お前が言うなpart2
「いや、もう、ほんと、ちょっと待ってください」
情報が多すぎて処理しきれない。さっきから国が傾きかねない情報の波に、こっちのメンタルがイカレそうだ。片手で額を押さえ、もう片方の手をアルガリタの前にストップとばかりに突き出した。
「まず王妃が貴族でなかったという点から消化できてないんです。なのにその息子まで王の血族じゃなくて? しかも人体実験の末に生まれた子どもで? 生まれつき魔力が高くて? それを分かった上で王はあなたとの息子ということにして、プルウィクス内の勢力図を書き換えようとした?」
どこのフィクションだと叫んでやりたい。
「中立で平穏を保っていた国が、どっちかに傾いたらその平穏が崩れる。そのバランスを取ろうとしただけよ」
五年前、まだ同盟もなく小国だったプルウィクスでは、シーバッファ王が病に倒れ、代わりに王子たちが中心となって国の舵取りを行っていた。賢王と呼ばれた男の隣にいたアルガリタからすれば、彼らは物足りなかった。どころか、簡単にラーワーに取り込まれ、しかも何一つ情報を吟味することなく、それを自分の考えだと錯覚するような連中にアルガリタも王も危惧を覚えた。だからこその緊急手段だった。
「仕事だから仕方なくこなしました見たいな言い方してますが、そのせいでプルウィクスが二分されたんですよ」
「わかっています。わかっていて、それでも断行した。また、ピウディスの存在を守り、保護する必要もあった。二つの条件をクリアする最適解だと私たちは判断したの」
魔術師のあなたなら、ピウディスの存在の危険性がわかるのではなくて? そう言ってアルガリタが話を向けたのはプラエだった。
「そうね。これはメリトゥム以上に他国に知られるわけにはいかない技術になるわ」
高い魔力を持つ人間を生み出す技術が漏洩すれば、各国で同じような研究が行われる。出力が高ければ、耐久性などの問題を無視すれば同じ魔道具であっても威力が変わる。同時に、常人では一瞬で廃人と化すような高い魔力を使う高火力の魔道具が、当然のように開発される。戦場に屍の山が築かれることになる。新しい技術をすぐに戦争に利用しようとするのは、人類の悪癖だと何処かで聞いたが、まさにその通りだ。
それ以上に恐ろしいのは、子どもを実験台に用いても問題ないという、危険な価値観が生まれてしまうことだ。他国もやっているから、自分たちも行って問題ない。国を守るためだから。そういう免罪符が横行し、人を人とは思わない連中の歯止めがさらにきかなくなる。リムスの行く末はさらなる地獄だ。
後の幾千、幾万の死者を防ぐために、戦火の種をプルウィクスに封じ込めた、ということか。
「ピウディス王子の出生の秘密については、一応、理解しました」
喉にひっかかり、つっかえながら無理やり飲み込んだに等しいが、理解した。これでまた、墓場まで持っていく情報が増えて辟易する。
「これから考えるべきは、エレテが王子を使って何をしようとしているか、です」
奴は王子の事を道具と言い切った。魔力の高い王子を使ってできることは何か。
また、奴は、自分の野望の成就のための駒と言っていた。奴の野望とは何なのか。
心当たりはないか、アルガリタやサルースに尋ねる。
「心当たりはありませんが、奴の性格から推測した話でもいいですか?」
サルースが言った。今は何も情報がない状態だ。とっかかりになるものが少しでもほしい。
「奴と同時期に働いていた魔術師の話では、かなりプライドの高い男だったようです。自分こそが最も有能だと豪語して憚らず、全ては自分のために有効活用されるべきだと。胎児を実験台にしたことも、多くの母親を殺したことも、奴は悪びれることなく必要な犠牲だと憲兵に言い放ったようです。そんな男だからこそ、王やプルウィクスを恨んでいるでしょう」
「有能な自分の事を理解せず、犯罪者として逮捕したから?」
ええ、とサルースは頷く。
「プルウィクスを亡ぼすことを画策している、とは考えられないでしょうか」
もしかしたら、積極的に暗殺事件にも関わったかもしれない。
「魔術師としてプライドが高いってことなら、自作物に強い執着があるんじゃない?」
そう別角度の視点で意見を言ったのは同じ魔術師のプラエだ。
「暗殺事件も結局は、ドサクサに紛れて王子を手に入れるためだったんじゃないかな? 王妃が殺されたら、国家反逆罪の証拠が後々に見つかる予定だったんでしょ? で、王子も当然投獄される。そこをベルリーを利用して王子を手に入れるつもりだった。王子を手に入れた後、事件によって混乱しているプルウィクスに自らとどめを刺す、とか?」
「なるほど、最後は自分の手で決着をつけたがるのは、プライド高い奴がやりそうなことね」
アルガリタが同意する。苦しむプルウィクスを見下ろしながら、その滅びるさまを見届けたいなんて、なんて性格の捻じ曲がった奴だ。国を滅ぼそうとするやつにろくな人間はいないな。全く。
「では、プライドが高く、自分を追いやった連中に自らの手でとどめを刺したい奴は、王子の魔力を利用してどういう手段を取るか?」
そこに集約される。
「普通に考えるなら、魔道具よね」
プラエが言った。
「高火力の、例えばウェントゥスとナトゥラを合わせたような長距離射撃と爆破が出来る魔道具のエネルギー源にするとか」
五年もあれば、様々な研究成果を生み出せたことだろう。プラエの言う通り、魔術師なのだから武器の研究をしていてもおかしくない。おかしくはない、のだが、私は首を捻っている。
これは私の勘になるのだが、さっきサルースが言っていた、なぜ樹海に研究所を構えたのか、という答えと今のプラエが言った魔道具開発と、どうしてもうまくつながらない。一つ一つは納得がいくし、二つの答えも正解だと思える。むしろなぜ、私は納得していないのか。その気持ち悪さが腹の奥で渦巻いていた。
「少し、妙ではないかしら」
私の気持ちを代弁するかのように声をあげたのは、アルガリタだった。
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