第274話 他人の金で食う飯は美味い
「報酬がこちらになります」
ゲオーロがテーブルに金貨二十枚が入った袋を置く。街の被害が少ない、北部の食堂へと場所を移していた。
「申し訳ありません。街が出せる報酬のうち、六割をセプス傭兵団の方に取られました」
戦闘後ゲオーロと合流し、報酬交渉を行っていたムトが頭を下げた。
「謝ることはないわ。途中参戦で四割取れれば上等な方でしょう」
「いえ、戦いの趨勢を決定づけたのは団長の強襲ですし、我々の策がなければ負けていたのですから、五割は貰えると思ったのですが」
「向こうも不利な状況の中、苦労して長時間戦況を維持していたんだから六割貰って当然という顔をするでしょう。メンツもある。突然現れて最後のおいしいところだけ持っていった私たちより報酬が少ないと、流石に反感を買うわ。向こうの顔を立てて、こっちは出費も少なく短時間で金貨二十枚も得られた、ってことで良しとしましょう」
肩を落とすムトとジュールの背中を叩いてシャキッとさせる。私が言っていることは単なる気休めでも励ましでもなく、純然たる事実だ。むしろ四割も得られたと胸を張っていい。
「そんなことよりもさ、お金入ったんでしょ? ご飯にしようよ。私お腹減ったんだけど」
テーブル上でプラエが突っ伏した。
「またお会いできたことは嬉しいんですが、どうして当たり前のように僕たちが稼いだ金で飯を食おうとするんですか?」
額に手を当て、首を振りながらムトが言う。プラエが首だけムトの方を振り返った。
「え?」
「え? じゃないですよ。何で本気で分かってないんですか。というか、これまでプルウィクスで散々稼いできたはずでしょう? むしろ奢ってくださいと言いたいんですが」
「全財産差し押さえられましたけど何か?」
「何で僕怒られてるんですか?」
「あはは、実はぁ・・・」
ティゲルがムトとゲオーロに説明する。ムトは更に頭を抱えた。けれど、彼女が工房の魔道具の触媒や資金を横領して私的流用していたのが私を探すためだったと聞き、怒るに怒れないらしい。それでも納得がいかない、胸の中に残っているもやもやをどうにか吐き出したいと思ったのだろう。
「団長と同レベルで常識のない人だったのを忘れていた」
諦めたように呟き、関係ない私は巻き添えを食らった。彼らの中では自分はまだマシ、常識人だと思っていたのに。
「すみません、私もジュールさんも、使い込んだ分の補填とかを支払うことになりましてぇ、お金無いんです~」
「ティゲルさんは何も悪くないですよ」
ゲオーロが久しぶりに会ったティゲルを慰めている。
「まあ、渋い顔しないで今日は恩を売っておいてくれよ。後で働いて返すからさ」
ジュールが場を和ませるような軽い感じでムトの肩を叩いた。
「わかりましたよ。わかりました。後でしっかり働いて返してくださいね」
食事を囲みながら、話は捕虜から聞いた話へと移る。
「何も知らなかった?」
ムトからの報告を聞いて、つい尋ね返した。もしかしたら、と思ってはいたが、本当に知らなかったとは。
「はい。今回の襲撃の目的は何一つ知らされていなかったようです。ただそういう命令を受けた、としか」
「命令? 依頼じゃなくて?」
傭兵なら依頼と答えるはずだ。命令という単語を使ったとなれば、相手は。
「お気づきの通りです。彼らは傭兵ではなく、兵士です。それもモンスの」
疑問がさらに増えた。占領を考えていると想像していたから、てっきり別の国、隣国であるヒュッドラルギュルムかアーダマスだと思っていたのに。どうして自国の兵士が自国の領土に攻め入る必要がある?
「彼らの目的は占領ではなかったってこと?」
「いえ、彼らが受けた命令は僕たちが考えていた通り占領の予定だったそうです。もちろん、モンスの人間だと知られないように工作はするはずだったみたいですが。これにより、街の重役たちはモンス王家に対して抗議するつもりです」
そんな兵士も命令も知らないと兵士を切り捨てて終わり、という構図が目に見えている。そんなことよりも、なぜ占領する必要があったか、という話がさらに重要に思えてくる。この辺鄙な場所に何があるというのか。
「ファナティ司祭」
「えっ、あ、なんだ。私か?」
道端に放置する訳にもいかず、同行していたファナティ司祭に話を振る。驚いた司祭が手に持っていたカップを落としそうになっていた。
「何度も聞いて申し訳ないのですが、何か知りませんか。どんな些細な」
「知らんと言っているだろう!」
こちらの言葉にかぶせるようにして否定していた。怪しさは深まるばかりだが、敵対しているわけでもない龍神教の司祭に対して強引に聞き出すことはできない。流石に切羽詰まったら話は変わるが、今のところ意思疎通ができる程度には協力的ではあるし、目的以外の話は聞くことができる。
現状で、わかっている事から確認していこう。
敵は山岳国家モンスの兵士だった。彼らの目的はこの街、そしてダリア村を占領すること。自国を占領する理由は不明。ただ身分を偽る予定だったことから、何らかの密命だったと考えられる。
密命なのはなぜか。例えば敵国に対する備えをこっそり行う。以前十三連合がカリュプスの周囲に兵を伏せていたような。
違う、と自分の考えを却下する。それならばまず敵対する理由がない。事情を説明し、協力してもらった方が遥かに合理的だ。そもそも、ここは僻地過ぎて軍を伏せるには立地条件が悪い。
では別の理由だ。自国民に反対される理由があるから、または反対されるかもしれない事象を引き起こす可能性があるから。僻地という地理を活かして、何らかの実験施設を作るなどだ。その過程で有毒なガスや汚染水がでるとしたら、住民の反対は免れない。それならば、秘密裏に占領という形も一応納得はできる、が。いささか理由が弱い気がする。住民を説得、困難なら王命などで無理やり接収することも可能なはず。戦闘行為に至るほどではない。敵対勢力に襲われたという事にしたい、つまりは自国とは関係ないという事にしたい。これが理由に近い、か?
では次に、集められた人員を考えてみる。兵士以外に連れてこられたのはファナティの他、プラエ、ティゲル、ジュール。四名だ。彼らの共通点は、十三連合から連れてこられたという事だが、プラエたちはプルウィクス、ファナティはコンヒュム。地理的に少し離れている。他に何か共通点はないか。
職業はどうだろう。プラエは魔術師。ティゲルは学者。ジュールは傭兵兼彼女らの護衛。この場合、ジュールは他の兵士と同じく戦う人間だし、戦力以外の理由で連れてこられたとは考えにくい。彼を除外して、三名の共通点で考えてみる。
三人とも優秀だという点か。ファナティは自称ではあるが、プラエ、ティゲルの優秀さはよく知っているし何度もお世話になっている。優秀な魔術師と学者と司祭の共通点とは何か。
「・・・知識、か?」
しばらく考えて出てきたのは、苦し紛れでも、もっと他にあるだろうと言いたいくらいの大枠の共通点だった。そんな馬鹿なと鼻で笑いかけたが、いや、と思いとどまる。彼女たち二人の共同作業は、魔道具作成だけじゃなかった。過去の依頼で一度、大活躍だったことがある。古代文字の解読だ。彼女たちの解読によって、古代の魔道具を発見できた。
待て待て。さっきファナティはなんて言っていた? 龍の書の解読班に所属していると言っていたな。つまり、古代語解読を専門に扱う部署だ。
彼女らが連れてこられた理由は古代語の解読、もしくはそれに準ずる何かではないか。
そして最近、私自身が似たようなことをしていたはずだ。ダリア村での、古代の祭壇の調査だ。スルクリーの軌跡を追って辿り着いた、天使が舞い降りたという逸話が残る祭壇。私はてっきりルシャが転移してきたことを言っていたのかと思っていたが、もしや、龍神教の教えである龍神の御使いの方の話だったのか? また、敵が占領しようとしたのも、最初はダリア村だった。これもてっきり、街を挟撃するためだと思っていたが、はじめからダリア村が目的だったという事ではないのか。
「つながってきた・・・」
もしかしたらの仮説と仮説で組み上げた妄想もいいとこの話だが、可能性はあるのではないか。調べるだけの価値はある。何より、私ではわからなかったことがプラエたちならわかるかもしれない。
ダリア村へ戻ることとその理由を切り出そうとした、ちょうどその時だ。勢いよく食堂のドアが開いた。現れたのはセプス傭兵団のディールス団長だ。
「ちょっといいか」
「どうしたんですか? まさか今更取り分のクレームを?」
「違う」
ムトの軽口を即座に否定した。彼の様子からどうやらただ事ではない雰囲気だ。
「捕虜が脱走した」
厄介事は、まだ終わっていないらしい。
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