Part.5 奪う事への代償

 民衆が落ち着きを取り戻した頃、誰に言われるでもなく一人の男が断頭台に上がり指揮を執り始めている。



「さて! この大罪人達の処遇についてだが、如何様にする?」


「奴隷にするか?」「町の復興にも力は必要だしな」

「あのアリシアって女、恐ろしく力が強いみたいだな」「なんでもいいよ」

「町を出て行かせた方が良いんじゃ無いか?」



 様々な声が飛び交う。アスールライト一家は完膚なきまでに痛めつけられ、体力を失っていた。辛うじてアリシアに護られていたアリステラも怪我こそ無いものの酷く怯え、父と母の元を離れようとしなかった。



「お父様、お母様ッ」



 鼻をもがれ誰の顔か解らぬほどに血みどろに変わり果てたブリックス。そして暴れられぬようにと大人十数人で押さえつけられ右足の腱を切られたアリシアはぐったりと横たわっていた。



「まぁ急いで事を決める必要も無い。とりあえずは少し休もう! そして英気を養った後で処遇を決めよう!」



 指揮を執っていた男が高らかに宣言をすると民衆も沸いた。

 生き残っていた人間全員で町中の食料や酒をかき集め、食い漁った。


 その様子は宴の様で民衆は笑っている。家族を失ったものは泣き、それを慰めるように人々は寄り添っていた。


 かつてはその中心にアスールライト一家は居たはずだった。いや、町の全員が一丸となっていた。しかし今は小集団を各地で作り、バラバラに身を寄せ合っていた。


 ブリックス達にはもちろん酒も食料も運ばれては来ない。極度の緊張と体力の消耗で体は飢えを感じ燃料を求めていたが、精神のショックや体の損傷が酷いのか、食欲は湧かなかった。


 町の民は延々と宴を楽しみ続けた。

 町を燃やす炎がキャンプファイヤーの様に町人達の気分を盛り上げた。










 空が一番暗くなった頃、指揮を執っていた男が声を上げた。



「みんな! そろそろこいつらの処遇を決めよう!」



 彼の声を皮切りに様々な声が飛び交った。



「奴隷だ!」「追放!」「殺せ!」「売ってしまうなんてのはどうだ?」



 もはやブリックス達に反抗するだけの力は無く、その状況を享受するのみである。


 アリステラは震え上がり涙を流す。昨日まで想像もしなかった光景が目の前でうごめき続ける。その中には彼女の見知った人間も多く、これは夢だと自分に言い聞かせ現実から逃れていた。



「意見は一つにまとめよう。まず奴隷にするという案だが、みんなどうだ?」



 ほんの少数の拍手がなるものの、賛成意見は少ない。



「追放はどうだ?」



 案にこそ出たものの拍手など誰もしない。



「では人身売買か?」



 こちらも奴隷と同じく少数の拍手が鳴った。

 これまでの流れを汲んでか、男はうんうんと大きく頷いてみせる。


「わかった、もう皆まで言うな。つまりそういうことなんだろう? 処刑!」



 喝采が起こった。この場の誰もがきっと望んでいたのだろう。その判決内容にすらブリックスとアリシアは反応を示さない。アリステラは怯えながら必死に逃げようとするものの、腰を抜かしてしまい上手く立つことすら叶わない。



「それじゃあ判決が下ったところで準備に取りかかろう!」



 男のかけ声に呼応し、町の者達は即席の処刑場を造り上げる。

 無抵抗なブリックス達は担ぎ上げられ、断頭台に括り付けられた。



「刑の執行は夜明けと共に行う! 邪悪な者の死を門出に新たなエンデルを我々の手でつくりあげよう! 新たなエンデルに、万ザァーーイッ!!!!」



 彼の声に歓声をあげる民衆。もう一時間もすれば夜明けは訪れるだろう。

 その時彼らはどんな顔をするのだろう。何を考えるのだろう。

 そして彼らは何を思うのだろう。


 否、この者共は何も考えないだろう。何も思わないだろう。この者達はただ歓喜の狂気に身を染め、宴の再開を待ちわびるだけの愚か者達だ。思い返せばレバノンという男の証言は推測論や確認の取れないものばかり、その怪しさを感じず鵜呑みにする愚者共である。


 ブリックスは愚者の為に血の滲む努力をし、汗を流し続けついに楽園を築き上げた。しかしそんな事実に目を向けず、底の浅い嘘に騙され、聖人とすら評し崇めた者の命を何の疑問も無しに町の未来の為に捧げようとしているのだ。いや、町の未来の為でもない、愚か者の狂った宗教のような異常な空間を楽しむための犠牲にしようとしているのだ。


 その者共に恩義はなく、自我も無い。考えているのは同調や流れのみ。知っているふりをして、中身を持たない。何も持たない愚鈍の衆。


 ブリックスがつくり上げた楽園は、ブリックスという中身の猿真似をしただけの愚か者達の集まり、がらんどうの器でしか無かったのだ。



「誰か……助けて」



 少女の嘆きは瑠璃色の空に飲み込まれる。

 その声すら焼き尽くそうと町の炎は夜空を焼いた。


 何の罪もない聖人達は贖罪の山羊として民の為に捧げられる。

 彼らが歓喜の声を上げる中、刑は始まり、少女の慟哭が遠くの空へ木霊した。















「いやぁああああああああああああああああああああああ!」




 ソテルの耳に聞き覚えのある少女の声が聞こえた。

 聞いたことも無い金切り声に焦りが生まれる。悲痛な叫びに身が強ばる。勝手に全身に力が入ってしまう。彼女の身に一体何が起きているというのか、既に自身の限界の速度で走っているにもかかわらず更に足を速めた。


 初めの慟哭が聞こえてからずっと彼女の泣き声は止む事をしらない。


 ソテルは激しい怒りを携えて力強く、大地を踏み砕かんばかりに魔力を練り上げ、大跳躍をした。彼が踏みしめた大地は深く沈み、地形を変質させるほどに彼の跳躍の反動は凄まじいものであった。


 ソテルがエンデルの町の入り口に到着すると、二度目の激しい哀哭と共にかすかに聞こえた「……ぁさま」という音が母に捧げられたものだと判断させた。



「いったい、何があったって言うんだッ!」



 ソテルは強く歯を食いしばると町の中心部めがけて地面に水平に跳躍をした。


 鳴り止まぬ慟哭、それを取り囲む醜悪な歓喜の声にソテルは手に握られた希望に力を込め、彼の地に到着すると叫び声と共に剣を振るった。



「ステラァァァァーーー!」



 既に振り下ろされ掛けていた民の持つ執行者の斧は宙を舞うと地に突き刺さり、大地を割った。ソテルの到着から数秒おくれて衝撃波追いつくとソテルが如何に高速で移動していたかを示すように町を揺らした。


 ざわめく観衆を放って、愛弟子を見れば怯えきって憔悴している。視線など左右に激しく揺れていて、きっとまともに何も見えてなどいないだろう。その焦りは先程の暴力からか、それとも別の何かがあっての事なのか。ソテルは周りを見渡した。



「…とぅ…さまぁ、あ、あああぁあ……おか、さま…………おか――」


「……なんなんだこれは」



 その目に映ったものは断頭台に磔られた弟子の姿と歓喜する民衆。涙を流し叫び続けるアリステラを断頭台から解放してやると、ソテルは怒りの片鱗を爆発させた。



「なにがあったっていうんだ!」



 彼の叫び声に一同はしんと静まりかえると指揮を執っていた男が声を発した。



「あんたを匿っていた罪人をさばいているだけだよ」


「なんだと……」


「あんたが帝国にとって大事な大事な存在だって事を理解してたんだろうさ、それを利用して町を貶める邪悪な人間を俺たちが粛正しているのさ」


「……」



 ソテルがうつむいて押し黙っていると男は言葉を続けた。



「俺たちから搾取して、これからも俺たちを縛り上げようとするような悪人をこのままにしてはおけないって気付いちまったのさ。俺たちはな!」



 そこまで言うと野次が飛び始めた。



「そうだ! 引っ込んでろ!」「お前には関係ないことだ!」

「あんたはさっさと帝国に帰っちまいなよ!」


「へへっ、ご覧の通りだソテル約帝様。これからはこのエンデルを貴方のために捧げたいと思っている。贔屓に働きかけてくれよ?」



 下卑た笑いに喝采が巻き起こる。ここは本当に俺が住んでいたエンデルなのか? ソテルは怒りながらも混乱していた。しかしいつまでも涙を流す少女の姿に何があったのかを詳しく聞いた。しかし放心している少女の瞳はソテルの姿を映すことが出来ずただ「お父様、お母様」と呟くばかりだった。



「レバノンって男がこの町の真実を教えてくれたのさ、教育機関や他国の技術を独り占めにして富を好き勝手にする悪辣非道な男の姿を教えてくれたのさ!」



 ソテルはめまいを起こした。今までブリックスを尊敬してきた者達と今目の前にしている民衆ではとても同じ存在には感じられない。



「俺はブリックスさんの世話になった。でもそれはお前達も同じ事だろう? その恩返しにお前達はあの屋敷を建て、調度品を送っていた。俺はそう聞いている」


「あれは俺たちの親爺が騙されていたから仕方なくそうしただけだ」



 男の声にそうだそうだと声が重なる。



「俺がブリックスさんに恩返ししたのは恩義を感じたからだ。彼は富を目的に作らせた訳なんかじゃ無い」


「でもその有用性をみて金稼ぎの道具にするつもりだったんだろうよ」


「誰よりも真面目に町に向き合い町の為にどれだけ頭を悩ませたか、俺には推し量れないがあの人は間違いなく善人だった」


「あんたも騙されてたんだよ、目を覚ましてもう一度思い返し――」


「いい加減にしろ!」



 怒るソテルから強烈な突風のような衝撃波が巻き起こる。その圧の強さに民衆は跪き、アリステラはハッと意識を吹き返しソテルにしがみついた。



「あの人がお前達の為にここまで町を発展させたんだろう? あの人がお前達のために、誰もが不自由しないように取り計らっていたのだろう? スラムが無いのも、浮浪者になるものが居ないのも、あの人がそうなるように取り計らったからだろう!」


「でも俺たち教師は給料が少なかった!」


「本当に少なかったのか? 隣の奴に聞いてみろ」



 ソテルは真実を知っていた。この町の物価と自分がもらっていた賃金、その賃金から雑費を引いた後にも手元に残る金がある事を。教師と思わしき男は隣の男に給料を告げるとそんなにもらってまだ足りないのかと驚いていた。



「みてみろ! お前達の底無く深い欲望が少ないと感じさせていただけでは無いか! それをお前達は確認もしないまま人のせいにして自分たちを護っている。お前達のために戦い続けたブリックスさんが可哀想じゃ無いか!」



 泣きじゃくるアリステラを抱きしめると辺りを見回した。



「……おい、先程から周りを見回してもブリックスさんもアリシアさんも見当たらないようだが何処へやった?」



 ソテルは町の民に怒りを隠すこと無く近づくと、ソテルに怯え、町の民は流れる川へと這いずり川に流れている物体を指さした。


 ソテルは川に浮かぶモノをみて、強く握り締めていた剣を手から落とした。


 二度あることは三度ある。よく言われる事だが、俺はまだアリシアさんに三度目の拳骨をもらって居ない、まだ気絶していない。ならこれが三度目の正直という事だろうか。そうだというならあんまりでは無いか。

 

 俺はまだブリックスさんに何も成果を見せられないままで居る。このままでは折角俺のために任せてくれた依頼も、その依頼のために費やした努力も何も浮かばれないでは無いか。


 俺は二度大切な場所を失って、一体どうやって生きていけば良いというのだろうか。がっくりとうなだれ、覇気の抜けたソテルは膝から崩れ落ちる。彼の怒りは何処かへ消えてしまったのか、衝撃波も既に止んでいた。


 町の民達はソテルに寄って集って伸し掛かると、ソテルは静かにつぶやきだした。



「なんで、なんでだ、なんでなんでなんでなんでなんでそもそもなぜこいつらはなにもかんがえずにじぶんののうみそもうごかさずにそうぞうもせずにただただまわりのしこうにながされてのうみそなどなくただまわりのくうきにかんかされさもじぶんたちがただしいかのようにすべてをけっていしいざまちがいだときづいたとしてもすべてはひとのせいだとはんせいもせずなぜいきているにもかかわらずじぶんのなかみがなくまるでかおもなくそんなしこうのはたらかないなかでかんじょうばかりはりっぱにうごかしてまるでどうぶつのようにしかいきられずそれこそまともなにんげんだとよべるものでもないのにひとのことをせめるのばかりはひといちばいとくいになってきずつけることばかりにやっきになってじぶんをまもるためならばどんなぎせいすらいとわずにじぶんたちのこんげんすらほろぼすことをいとわないなぜだ、なぜだ、なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ」



「さっきから黙って聞いてりゃブツブツと気持ちのわりぃ奴だな、おいお前ら! 約帝様を気絶させちまえ! そんでもって帝国へ手土産に持って行こうぜ! …………へっへぇ、この剣は俺がいただいてくぜ?」



 男達はソテルを殴りつける。もはやアリステラなど眼中にもなく、ソテル目掛けて拳を振り下ろし続ける。


 俺は後悔していた。エンデルの町に自分が訪れなければよかった。そうすればきっとこの町は幸せだったのだろう。俺がいなければ魔道砲の被害を受けることも無かっただろう。俺がいなければ……あの二人も死ぬことは無かったのだろう。


 たとえ愚者と共に生きつくられた楽園だとしてもその中身を知るまでは確かに楽園は楽園のままなのだから。ある意味ではこれこそ楽園なのかも知れない。脳を持たぬ天使達は神によってのみ動かされる。その神がブリックスだったのだろう。俺はある意味で神を殺してしまったのと同じだ。このエンデルの町はブリックスを神に据えた一つの大きな宗教だったのだろう。それに気付く者は居なかっただろうがこの先も気付くことはないだろう。彼らは考えることも無いままに強き者の後ろを付き従うことでしか生きられないのだから。


 流れる首と胴を視界に移しながら自責の念と自己嫌悪が渦巻く中、その声は確かに俺の耳に届いた。




「先生! 助けてっ、先生!」




 声のする方を向けば女共に髪を引っ張られ、暴力を振るわれているアリステラが目に映った。その光景を目にした瞬間、先程まで呆けていた自分の脳みそもようやく頭の中で整理が付いてきた。


 俺はアスールライト家を守ることが出来なかった。しかし今ここにはステラがいる。俺の恩人の忘れ形見がいる。その少女が今理不尽に、不条理に苦しめられているのならば俺が取るべき行動など疾うに決まっていた。




「もう、何故なんて問うこともない。お前達を、許す訳にはいかない……」




 ソテルが静かにつぶやくと金糸雀色の剣は握り締めていた男の前から姿を消した。



「な、なんだ? さっきまでしっかり握ってたってのに」



 男はうろたえた。ソテルを殴る拳は止むことも無く更に苛烈を極めた。



「……」



 何も言わないソテルの元に台風の様な風が吹く。



「先生! 嫌だ、先生! 助けて!」



 大切な恩人達の忘れ形見の声が聞こえる。



「さっさとのびちまえ! このやろう!」



 そして忌々しき愚かな民達の声を聞き、ソテルは叫んだ。



「おぉおおおおおおお! 来い! 俺に力を貸せ、アウレディア!」



 ソテルの叫び声と共に現れた金糸雀色の剣は再び右手に握りしめられた。剣が顕現すると共に爆風が巻き起こるとソテルに伸し掛かっていた民衆は吹き飛び、壁にたたきつけられた。静かにアリステラの元へ歩み寄ると彼女を傷つける者の手を取り、川へと放り投げた。



「邪魔だ、彼女に触れるな……退けッ!」



 変わり果てたソテルの姿にアリステラは不安を覚える。



「せん、せい?」


「ステラ、もう大丈夫だよ」



 ソテルは微笑みかけると町の民に向き直り剣を高らかに掲げた。



「俺はお前達を許せそうに無い。この怒りを隠せそうにも無い。お前達を必要とは思えない。今はただ、お前達がただただ憎い。お前達を吹き飛ばしてやりたい」



 激しく吹き荒れる旋風の主の怒り声に町民は地面に額をこすり付け、額に血が滲むほど強く押しつけ、許しを一斉に請うた。



「許してください」「なんて愚かなことをしてしまったのだろう」

「あぁ、ブリックス氏よ、申し訳なかった」「あの男に騙されたんです!」



 いくらでも移ろい被害者の面を被るその意識にソテルはさらなる苛立ちを感じ、魔力を高めた。被害者面をして全てを壊し、正義を振りかざすなど、許せなかった。



「さっきまで俺やステラを傷付けようと必死になっていた奴らが一体何だというのだ。人の顔色ばかり窺い、自分の中身など持たず隣の者が口を開けばそれに倣って口を開くお前達は一体何なんだ! 俺にはもうお前達を信用することは出来ない。そして俺はお前達が殺した名士ほど慈悲深くも無い。自らの為であるなら、お前達害悪を駆除しよう、それが俺という人間だ。謝ろうともう遅い。お前達は滅びなければいけないんだ。お前達の言葉を借りればこれは、粛正だ!」



 ソテルが魔力を最大限に高めると地響きが鳴った。地は割れ、水はさざめき、空は荒れ、空気は泣いていた。




「お前達なんて…………楽園には必要なかったんだ。お前達のような奴がッ! この町に生きてちゃいけなかったんだ!」




 ソテルは叫び声と共に剣を振り下ろす。町の者ももう駄目かと足掻くのをやめた。










「だめぇえええええええええええええええええええ!」



 その叫び声に、練り上げられた魔力は霧散した。ソテルはその場で確かに剣を振りおろしたが、魔力を失ったそれはただの空を切る素振りでしかなかった。



「せん、せい……先生まで……」



 ステラは泣きながら必死に言葉を紡ぐ。



「先生まで、私を……おいて、いかないで……」



 そう言って泣きじゃくる少女にソテルは声を掛けることは出来なかった。

 命からがら助かった町人達は再びソテルとアリステラを捉えようと構えた。



「……お前達、これが最後のチャンスだ。俺たちはこの町を去る。邪魔をしないならもう先程のようなことはしないと誓おう」



 その言葉を聞き、民衆は構えを解き、道を空けた。

 ソテルは泣きじゃくるアリステラを抱えるとその道を静かに歩き始めた。


 ソテルが横を通るとき、民衆誰もが生きた心地がしなかった。それ程までに怒りを露わにしていたソテルに恐怖したのだ。しかし中にはそうでないものも居る。


 刃物を構えソテルに刺そうと走り出す男がいた。



「死ねぇ!」



 突然やってきた俺という客人によって生活が目茶苦茶になってしまったのも事実。しかしそれでも尚ブリックスさんは町を立て直そうときっと町の人々を励ましたことだろう。俺の存在は確かに許せなくて構わない。しかし刃物の矛先にはこのエンデルの名士、アスールライト家の娘も居た。


 ソテルは溜め息を吐き、魔法を発動させようとすると、それより先に男を後ろから殴りつける者が居た。



「わざわざ私たちを生かしてくれたのだ。黙って道を空けないか」



 そういった男に見覚えがあった。教員試験で唯一採用となった男である。



「ダウレン……済まなかったな。君の夢も俺は壊してしまったらしい」


「気にするな、とはとても言えそうに無い。しかし生きていれば町を治すことだって出来るだろう。俺は俺の手で夢を叶えることにするさ。ただ、もしお前の気が向くことがあればこの町を直す手伝いをしに来てくれ」



 ソテルは彼に軽くお辞儀をすると男は深く頭を下げ、申し訳なかったと口にした。

町を出るとソテルの手にあった金糸雀色の剣は霧散した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る