第19話 蹂躙
「ちわっすwww。ジョーさん、いるっすか?」
「はい、いますよ」
お、おい……、やけに早いな。
まだ夕方の開戦までに三十分あるぞ。
さすがにマイペースなまったりでも、SDGに勝ったのでテンションが上がってきたってことか?
「次、多分、覇記っす。なんで、ちょっと策を練りたいんっすけどいいっすか?」
「どうして分かるんです?」
「その前にSDGに勝ってるからっすよ。創聖の勇者から看て、SDG以上のギルドは覇記しかないからっす。ギルド戦の組み合わせって、連勝していると基本的に段々強い相手と当たるようになってるみたいなんっすよね」
「そうなんですか。ええ、構いませんよ。どんな策ですか?」
「ジョーさんには悪いんっすけど、自分に指揮をとらせてもらっていいっすか?」
「はあ……?」
こ、こいつ……。
また妙なことを言い出したな。
だけど、さっきは俺が采配を振るったからSDGに勝ったんだぞ。
それなのに、肝心の覇記戦でおまえが指揮をとるってどういうことだよ?
なにか不満でもあるっていうのか?
「勘違いしないでくれっすねwww。別に、ジョーさんの采配が悪いって言ってるわけじゃないんで」
「……、……」
「なんっすけど、覇記はSDGと同じようにやったら絶対に勝てないっす。だから、大胆に戦略を変える必要があると思ったんっす。それとも、ジョーさんもなにか戦略を考えてあるっすか?」
「い、いや……。ですが、今まではそうやって勝ってきてるんです。前回も覇記には勝ちましたし」
「ああ、それは午前の戦いだったからっしょ。午前はどのギルドも基本的にイン率が低いっす。なんで、いいタイミングで反撃する策がハマりやすいんっすよ」
「……、……」
「だけど、夕方の戦いはそうはいかないっす。ほとんどのメンバーが揃う時間帯があるっすからね。そうすると必然的に総力戦になるっす」
「……、……」
「総力戦になったら、どう考えても覇記の方が手厚いっす。ギルド全体の持ってる行動力回復アイテムの数が違うっすからね。なんで、尚更ピンポイントで潰す必要があるんっすよ」
「……、……」
ちっ……。
おまえの言う通りだよ。
たしかに前回、覇記に勝ったのは午前だったし。
だけど、そんなに簡単に旨くいくのか?
おまえが采配を振るうと……。
じゃあ、その策とやらを聞かせてもらおうじゃないか。
そこまで言うならさ。
「とは言っても、そんなに難しいことじゃないっすよwww。自分の言う通りにやれば楽勝っすwww」
「ら、楽勝ですか?」
「そっすwww。キッチリ相手の心を折って、大差で勝ってみせるっすよwww」
「そんなことが可能なんですか?」
ちょ、ちょっと待てよ。
おまえが今言ったんだぞ、覇記はSDGより手強いって。
それを、大差で勝つだと?
また始まったよ……。
いいよ、分かったよ。
だったら、その策を言ってみろ。
納得したら俺も従うから。
「まず、開始一時間は、今まで通りやってくれっす。多分、ジョーさんと自分は集中砲火されると思うっすけど、ジョーさんは耐えてくれっす」
「まったりさんも狙われるんですか?」
「だと思うっす。自分の防御特化デッキに短時間で勝てるのって、ゴッドしかいないっすから。なんで、ゴッドは自分を倒すことから始めると思うっす」
「なるほど……。まったりさんは例のあれを使わないんですか? 使えば防げると思いますけど」
「自分は開始時点では防御特化デッキで行くっす。向こうに油断してもらわないと、策がハマらない可能性があるんでwww」
「つまり、最初はわざと苦戦を演出するってことですか? ですが、そんなことをしなくても、あれを出せば……」
なんで最初から全力じゃないんだ?
バーサクデッキを使えばゴッドは完封できる。
そうなれば、気落ちして心が折れるんじゃないのか?
「勤め人は、仕事が終わるのが大抵5時なんっすよ」
「まあ、そうですね」
「だから、ギルド戦が始まると三十分くらいはイン率が上がるんっすね。多分、その時間にインする人は外出時にイン出来る人なんっす。スマホか携帯可能なモバイルでインしてるっすよ」
「……、……」
だからなんだよ。
なにが言いたいんだよ、まったり?
「なんっすけど、戦局が一段落すれば、帰宅のために落ちるっすよ。特に、戦局が有利に運んでいれば尚更っす。帰宅して思う存分戦いたくなるのが心理ってもんなんっすwww」
「味方ギルドが有利なら、ギルド全体に僅かな油断が生じるってことですか?」
「そう言うことっすwww。だから、こっちはその瞬間を狙うんっす」
「……、……」
まあ、そういうことはあるかもしれない。
サラリーマンならたしかにそう思うだろうな。
実際、創聖の勇者でも皆がインするのは7時過ぎだし。
ここまでは分かったよ。
だから最初に油断を誘うんだな。
だけど、まったり……。
もし、サラリーマンじゃないギルドメンバーが覇記にいたらどうするんだよ?
そうしたらおまえの言っている展開にはならないんじゃないか?
「今の覇気には学生はいないっす。月最低五万円の課金は、学生には難しいっすからねwww」
「……、……」
「……で、覇記のメンバーで、明らかに勤め人じゃないのは、ゴッドとユイっすwww。きっとこの二人が帰宅時間の防御担当になるっす」
「……、……」
「特に、ゴッドは自分を倒したらご満悦っしょwww。その辺の事情はジョーさんには分かるっすよね?」
「ええ……」
「だとすると、6時過ぎには、多分、この二人しかインしてないんっすよ。ゴッドが落ちると思ってるメンバーが向こうにいるわけがないっすからねwww」
「そこで、あれを出すんですね?」
「そっすwww。他の覇記メンバーが再度インしてくるまでに、自分がキッチリ心を折ってやるっすwww」
「なるほど……。ゴッドさんを孤立させて叩くわけですか。それには最初に油断させることが必要だ……、と」
「そっすwww。なんで、自分は落ちても6時までライフを入れないっす。負担は大きいっすけど、ジョーさん一人で粘ってくれっすwww」
「了解です。では、その線で行きましょう」
「6時から7時の間に勝負を決めるっすwww。だから、ジョーさんは創聖の勇者のメンバーに声をかけておいてくれないっすか? 6時に必ずインしているように……」
「はい。では、メールを出しておきますね」
そうか……。
たしかに、実力的にも精神的な部分でもゴッドが覇記の支柱だ。
ギルマスのゴッドをピンポイントで叩いて心を折れば、覇記の士気にも必ず影響が出る。
だけど、普通はこんな戦略はとれないのだ。
ゴッドを確実に葬れるデッキなんて、他には存在しないから。
決め手を持っているのは常に覇気。
その構図が崩れることなんてありはしない。
だからこそ、支柱が折れるともろいということなのだろう。
心を折るということは、そういうことか。
ちぇっ……。
まったりの奴は、もうずっと前からこれを考えていたんだろうな。
なにが凄いって、目の前になって考えているわけではないのが驚異的だよ。
悔しいけど、俺はそんなの考え付かない。
直前の今になっても、まったりに言われなきゃSDGのときと同じように戦おうとしていたんだからな。
戦いは、まったりの想定通りに進む。
対戦相手も、予想通り覇記であった。
時刻は現在、午後5時40分。
開戦からの覇記の猛攻が一段落し、小康状態が訪れている。
事前の予想通り、まったりは開始後七分で落ちた。
その五分くらいあとに俺も落ちる。
すかさず俺はライフを補充し復帰。
ただ、創聖の勇者のメンバーは次々に落とされ、結局、最後まで粘っていた俺も再び落ち、瞬間的にではあるが全滅してしまった。
もちろん俺はすぐに復帰したが、ボーナスNPCに何発か喰らったらしく、ポイントで少し差がついてしまう。
その後、三度ほど同じようなやり取りが続いたが、向こうも一息入れたようで俺のライフの減りが止まった。
そして、小康状態が訪れ、今に至る。
8000対184000……。
序盤にしては大差がついたが、これも想定内。
まったりに言わせると、
「6時までに三十万以下の差なら上出来っすwww」
とのことだから、表面的には苦戦とは言え上々の立ち上がりだ。
創聖の勇者のメンバーには、
「6時まではライフを回復しなくていいです。……と言うか、回復しないで下さい」
とメールで伝えてあった。
これもまったりの指示で、
「予め劣勢になると言っておかないと、メンバーが不安になるっすから」
と説明があった。
勝負事は劣勢になったときにどう立ち振る舞うかが大事なんだそうで、そこでパニックを起こしてしまえば策もなにもなくなってしまうらしい。
この辺の考え方は、俺にはとても新鮮であった。
ゲームは自分が強くなれば勝てると思っていたが、そうではなく、相手との兼ね合いで決まるのだと言うのがまったりの考え方だ。
今ならそれも分かる。
想定通りにことが運んでいる、今なら……。
きっと、俺を何度も落としていたのはゴッドだろう。
まったりの予想通り、俺とまったりをキーマンだと考えて、まずは創聖の勇者の気勢をそぐつもりなのだ。
ただ、ゴッド……、いや、ユイさんは俺がそんなに簡単にあきらめないことも知っている。
だから、とりあえず何度か倒しておいて、総攻撃は他のギルドメンバーがそろってから……、と考えているに違いない。
その証拠に、5時半を過ぎたらパッタリと攻撃が止んだ。
まったりが言っていた、勤め人の帰宅時間なのだろう。
なんだか怖いくらい想定通りにことが進む。
「もうすぐ6時っす。皆、インしているっすか? してたらここに反応してくれっす」
6時十分前に、まったりがチャットでメンバーの出欠を確かめる。
すると、
「インしていますよ、まったりさん」
「ちょっと前に入ったよ」
「もしかして、覇記に勝つつもりだったりするの?」
「いるに決まってるだろw。SDGに勝ったんだから、覇記もやっつけようぜ!」
などと、次々にチャットのコメント欄に反応が並ぶ。
その数、17人。
ユイさん脱退で一つ欠員があるから、二人以外は皆インしているってことだ。
「www、いい反応っすwww。じゃあ、作戦を言うんで、皆、それに従って戦ってくれっすwww」
「……、……」
「まず、スサノオさん。あなたはタゴサクさんを徹底的に叩いてくれっす。同型でこっちが力量上位なんで、効率よく叩けるっすから。多分、まだインしてないっすけど、向こうのライフが回復してもすかさず潰してくれっす」
「了解しました。では、私はタゴサクさんをマンマークすることにします」
そうだよな。
今のスサノオさんならタゴサクさんには勝てる。
タゴサクさんに粘られると厄介なので、この判断は間違いなく正しい。
「次に、ジョーさん。あなたは苦戦してるメンバーがいたら加勢してやってくれっす。言うならば遊軍っす。自分の感触ではジョーさんがまったく敵わないデッキは、ゴッドくらいっすから。手強い敵も結構いるっすけど、なるべく短時間で向こうの全メンバーを落としてくれっす」
「了解です。では、もし苦戦してる人がいたら、チャットでどんどん俺を呼び出して下さい。すぐに加勢しますからね」
だよな。
一対一で手間取ってる暇はないからな。
一気にカタを付けるには、遊軍は絶対に必要だ。
「あと、特別任務は、さけべんさんに任せるっす」
「特別任務? なに、面白そうじゃないw」
「www、そっすwww。向こうに夏侯惇デッキがあるっしょ。あれ、率は高くないんっすけど、万一自分のデッキがライフを減らされるとしたらあれだけなんっすよ。だから、徹底マークで潰してもらいたいっす」
「あれだけ……? ってことは、他のは眼中にないってこと? おいおい、まったりさん。そんな大風呂敷を拡げて大丈夫なのか?」
「www。見ててくれっすwww。ゴッドの関羽デッキを瞬殺してみせるっすからwww」
「ま、マジか? もしかして、宣言通りのデッキが出来上がったとでも言うのかよ」
「www、それは見てのお楽しみっすwww」
「了解w。じゃあ、楽しみにしながら戦うことにするよ」
なるほど……。
夏侯惇デッキなら、たしかに万が一がある。
1ターン目を強力な防御特化スキルでやり過ごされた場合に、2ターン目の最初に即死のスキルを持っているUR夏侯惇なら、耐性のないUR呂布を倒し得る。
UR呂布のスキルは、50%の確率で攻撃を避ける……、だから、UR夏侯惇の初撃が当たるとは限らないが、本当にわずかな可能性があるとしたら、夏侯惇デッキなのだろう。
まあ、でも、そんな強力な防御特化スキルなんて、おまえの防御特化デッキくらいにしか存在しないけどな。
だけど、まったりの奴、冷静だな。
ちゃんと自身のデッキの弱みも分かってやがるのか。
どこまで行っても抜け目がないぜ。
「あとの人は、任意で戦ってもらっていいっす。だけど、自信がなかったら行動力を温存しておいてくれっす。……と言うか、すぐにボーナスNPCが出るようになるんで、その瞬間を逃さないでくれた方がありがたいっすwww」
「了解です」
「じゃ、そろそろ時間なんで、手はず通りよろっすねwww。勝負はあと三十分でつくっす。気合入れてよろっすwww」
まったりのコメントを見てから、俺は時刻を確認する。
あと一分……。
いよいよ、本格的な戦いの始まりだっ!
「ま、マジかっ! 本当に瞬殺じゃないか。ゴッドのライフが減りだして、二分しか経ってないぞっ!」
「さけべんさん……。こっちのことより、さけべんさんの方はどうっすか? ああ、順調に減らしてるっすねwww」
「お、おうっ! こっちもちゃんとやってるよ。だけど、マジであの関羽デッキが落ちるなんて。超ビックリした」
「www。ゴッドの奴、油断してるんっすかね? 全然ライフを回復してこないっすwww」
「便所にでも行ってるんだろw。よしっ! 俺も自分の仕事が終わったぞっ!」
「お疲れっすwww。そうかもっすねwww。大きい方なら、その間にボコボコに出来るっすけどwww。じゃあ、さけべんさんもジョーさんを手伝って遊軍に回ってもらえるっすか? 多分、その夏侯惇デッキもなかなか復活しないと思うっすから」
「了解っ! ライフが入ったらまたこっちを叩けばいいってことだな」
「そっす。夏侯惇デッキは野放しにしないでくれっす。じゃあ、自分も遊軍に加わるっすかねwww。って言うか、これじゃあ、相手、十分ももたないっすよwww」
に、二分だとっ?!
強いのは分かっていたけど、あの関羽デッキでも1ターンでHPが残らないのか。
さけべんさんじゃないけど、マジで化け物デッキだな。
「まったりさんっ! タゴサクさんの始末終わりました。予想通りインしていないみたいです。私も遊軍に加わっていいですか?」
「スサノオさん、お疲れっすwww。うーん、いや、スサノオさんはちょっと待機しててくれっす。残り三人っすから、もうすぐボーナスNPCが出るんでwww」
「了解しました。引き続きタゴサクさんを警戒しながら、ボーナスNPC出現に備えます」
「よろっすwww」
攻撃開始から八分でタゴサクさんを五回倒したのか。
さすがだな、スサノオさん。
気合の入り方もいいし、絶好調って感じだ。
午前中のSDGのときは、魔人Kにかなり苦戦していたからなあ。
その鬱憤も全部晴らしてるんだろう。
「あと一人です、まったりさんっ!」
「そっすね。最後の一人、自分が行くっすか?」
「いえ、俺にやらせて下さい。すぐに片付けますから」
「了解っすwww。だけど、皆で瞬殺するっしょwww。時間かけるの嫌っすから。ジョーさん、かなりいいペースできてるっすよwww。まだ十分経ってないっすwww」
最後の一人も諸葛亮デッキか。
だけど、こっちは午前中に散々最強の諸葛亮デッキとやってきてるんだ。
こんな奴、どうってことないぜ。
……って、俺がライフを一つ減らしている間に、他のライフがなくなってるじゃないか。
ふふっ……。
皆も気合が入ってるんだろうな。
うん、この流れなら勝てるっ!
間違いないっ!
「ボーナスNPCが出たっす! 皆、一気に攻めるっすよ! 目標は百万ポイント差っす。グチャグチャに叩き潰して、追いつけない差をつけるっすよwww」
百万か……。
ああ、そのくらいの差はつけられそうだな。
……って、言っている間に、とりあえず逆転だよ。
今、213000対192000……。
ボーナスNPCが出て三分も経ってないのにな。
それにしても、ゴッドの奴、全然、復活してこないな。
落ちてからもう結構経っているのにさ。
ふふっ……。
ユイさん、油断したな。
防御担当がそれじゃあ、話にならないぜ。
悪いが、この勝負、もらったよ。
ほら、ドンドン点差がついていく。
478000対192000……。
788000対192000……。
一気に創聖の勇者が突き放す。
だが、まだ覇記は誰もライフを入れていない。
このままなら、目標の百万ポイント差ももうすぐだっ!
「1048000対192000! あと少しですっ!」
「一気に行ってしまいましょう。まったりさんのデッキを抜くことが出来ない覇記は、こちらをどんなに叩いても百万差はひっくり返せないですから」
「ですね、スサノオさんっ!」
「あっ! ゴッドさんが復帰しましたっ!」
本当だっ!
ついに気が付いたか。
だけど、今、ユイさんはなにが起こったか理解してないに違いない。
なぜゴッドデッキがこんなに簡単に落ちたのかも、この点差がどうしてついたのかも……、な。
「www、ようやくっすかwww。待ちくたびれたっすよwww」
「まったりさん、お願いしますっ!」
「了解っすwww。ここからが自分の本当の仕事っすwww。キッチリ心を折ってくるんで、見ててくれっすwww」
「はいっ!」
チャットのコメントを読んでいる間にも、ゴッドのライフが減っていく。
あっ、もう二つ目が……。
そして、それから三十秒も経たない内に三つ目のライフが消えた。
は、早いっ!
もう四つ目が消えてる。
あっ、ボーナスNPCがっ!
「逃さないでくれっす!ここが勝負どころっすから! 百万差までもう少しっす」
「了解っ!」
まったりのコメントが表示される間に、すかさず150000Pほど加算される。
よしよし、皆、ちゃんと反応してるな。
1208000対192000……。
きたーーーーーっ!
目標の百万差だっ!
「www。今更抵抗しても遅いっすよwww。だけど、生き返ってくれないとこっちも倒せないんで有り難いっすけどねwww」
「ゴッドにまたライフが入りましたね」
「そっすねwww。だけど、もう逃さないっすwww。あとは何度でも落とすだけっすよwww」
「ま、また、落ちた……」
「あ、そうそう……。もう、他の人はボーナスNPCを撃つの止めていいっす。行動力回復アイテムが勿体ないっすからwww」
「大丈夫ですか?」
「www、問題ないっすwww。だけど、スサノオさんとさけべんさんは、マークしている相手の警戒を怠らないようにしてくれっす。他の人は、のんびりゴッドが蹂躙されるのを眺めててくれっすwww」
「……、……」
蹂躙……。
たしかにその言葉が相応しいかもしれない。
ゴッドのライフは、何度復活してもあっと言う間に減っていく。
これがあの、ステでは三国志CVで最強と言われたデッキなのか。
そして、最近ではデュエルランキング1位を連取していた垢。
「八度目ですか……」
時刻は現在、6時45分……。
あまりの猛攻に、スサノオさんがゴッドの落ちた回数をコメントする。
他のメンバーは無言。
皆、あっけにとられているようで、チャットのコメント欄はほとんど動かない。
「思ったより粘ってるっすねwww。ゴッド、根性無しかと思ってたっすけど、そこそこ頑張るじゃないっすかwww」
そうまったりがコメントする間にも、着々とゴッドのライフは減っていく。
「あ……、止まった」
「ですね」
九度落ちたそのあと、ゴッドのライフが消えたままになる。
「www、心が折れたっしょwww」
「そのようですね」
「あいつは今、絶望感でいっぱいっすよ。攻撃しても自分のデッキに瞬殺されるっすし、いくらライフを入れてもすぐになくなるんっすから。ゴッドにも分かってるっしょ、自分のデッキに全部やられてることは。だけど、なにをやっても撃ち返されるんっす。もしかすると、ネットの向こう側で泣いてるかも知れないっすね」
「……、……」
そうかもしれないな。
ユイさん……、今、辛い想いをしてるのか?
俺にも分かるよ、その気持ち。
こいつのデッキ、どうにもならないんだよ。
俺にもどうもしてやれないほど強いんだ。
だけど、皆、こういう気持ちになるから強くなるんだよな。
俺、強くなるってどういうことか、少し分かった気がするんだ。
きっと、まったりも何度も同じような気持ちになってきたはずだ。
だから、ユイさんの今の気持ちも手に取るように分かるみたいだ。
それが強さ……。
相手のことが分かるのが、ゲーム能力なんだってさ。
なあ、ユイさん。
ゲームってこんなに奥が深くて残酷なものなんだな。
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