第6話 自演疑惑
ベットに入ってみたものの、俺の目は冴えきってしまっていて、まったく眠くない。
7ちゃんに晒されたという嫌な現実が、俺をそうさせていた。
さっき、7ちゃんを見てきたのだが、ここまで書くかと言うほど酷いことが書かれていた。
「ジョーって微課金のくせにいきがってる奴だろ?」
「ランキング100位でいきがるとか、超勘違いだしw」
「ギルマスだからって女にモテるとか思ってるんじゃね?」
「そのギルドメンバーも可哀想だな。勘違い野郎に言い寄られちゃ」
「基地野郎のまったりに、勘違い野郎のジョーか、ワロスw」
こんな感じの罵倒が延々と続く。
だが、まったりに対する罵倒はこんなものではなく、完全に気が触れてる異常者のように書かれていた。
まあ、俺のはともかく、まったりのは一部当ってるけどな。
ランキング1位宣言とか、俺だって基地だと思ったし。
ただ、いくらまったりが基地野郎だとしても、晒していい理由にはならない。
たしかに基地だが、その発言で誰に迷惑をかけたというわけでもないのだから。
そういう点では、少しまったりが可哀想な気もしている。
あくまでも、ほんの少しだけどな。
ベットから這い出て、7ちゃんの晒されている箇所を見ながら、俺はぼんやり考えていた。
もう、カーテンの外は明るくなっていると言うのに。
ちょっと思ったのは、なぜこのタイミングで晒しが入ったのか……、ということだ。
だってそうだろう?
今までだって創聖の勇者は存在し続けてきたのだ。
7ちゃんをチェックしているスサノオさんが、今まで一度も俺に晒しがあるなんて言ったきたことがない以上、今回が初めてであることは明白だ。
だとすれば、晒した奴はなにが不満で突然晒したのだろう?
その切っ掛けは……?
「ああ……、なるほど」
俺は、わざと声に出して呟いた。
辺りが静かなせいか、妙に俺の声が響いているように感じる。
そうか、そういうことか。
最近になって創聖の勇者で変ったこと。
それは、まったりが入ったことだ。
つまり、晒した奴は、まったりが気に入らなかったに違いない。
やはり、スサノオさんが言うように、ランキング1位宣言が頭にきたのだ。
……ってことは、俺は巻き込まれただけか?
うん、どう考えてもそうだ。
ついでに晒されただけに違いない。
だけど、なぜ晒したんだ?
まったりに文句があるのなら、直接言えばいいじゃないか。
「実現してから偉そうにしろよ」
ってさ。
皆、まったりにそのくらいのことを言うだけの実力のある人ばかりなんだから。
7ちゃんに晒せば、創聖の勇者のメンバーである晒した本人だって批難の対象になる。
そうなれば、晒した奴も多少なりとも嫌な思いをするはずだ。
そのリスクを冒してまで、どうしてまったりを晒さなければならない?
大体、そんなことをしてメリットなんかないと思うが……。
これまで、それはそれで楽しくゲームをやってきたんじゃないのか?
それを、まったり一人のためにぶち壊すようなことをするなんて、どうにも理解ができない。
ここまで考えて、俺は天井を見上げた。
どうにも分からない。
気に入らないから晒すという感覚が。
なんの得にもならないその行為に、晒した奴はなにを求めたのか……。
「得……?」
俺の中で、突如、何かが閃いた。
そうだよ、得だよ。
この晒しで誰が得をするかを考えりゃあいい。
まず、俺やスサノオさん、古参のメンバーはまったく得なんかない。
比較的、新しく入ったメンバーも、とりあえず晒して得をするなんてことはないはずだ。
ユイさんなんて、勝手に引き合いに出されて迷惑しまくってるはずだし。
しかし、一人だけ例外がいる。
晒されたことによって世間に名を売り、実力もないのに自身を誇示するという得をする奴が……。
そうだよ、まったり、おまえだよ。
勘違い野郎のおまえなら、本来なら恥ずべき晒されてる状態も嬉しいんじゃないか?
だけど、思いの外、世間の風当たりが強かったもので、困ってるんじゃないか?
そうだ、そうに違いない。
あいつは異常者だ。
ランキング1位になるとか、そうじゃなかったら言うわけがない。
出来もしないことを根拠のない自信で固めた結果が、この晒しってことか。
んっ?
そう言えば、あいつ、今日はインしてないみたいじゃないか。
いつもインしてる4時頃はとっくに過ぎているぞ。
今までだったら、自分のことに触れられていたらなんらかチャットに書き残していたのに。
あのうざい口調で。
俺はなんてバカでお人好しなんだろう?
勘違い野郎の自演なのに、ちょっとでも可哀想だと思うなんて。
たとえ自演じゃなかったとしても自業自得だと言うのにさ。
「ちわっすwww」
「……、……」
「今、過去ログを読んだんっすけど、晒しがあったんっすか?」
「……、……」
き、来たっ!
と、言うか、よく来られるな、自演の晒しをしておいて。
まあ、でも、そうか。
そのくらい図々しくなきゃ、自演の晒しなんてしないか。
いつもなら相手をしてやるところだけど、今日はスルーして様子を見てやろう。
ふんっ、何を言うか楽しみだよ。
「なんか、ジョーさんやギルドの人達に迷惑がかかったみたいっすね。申し訳なかったっす」
「自分、別にそんなに悪いことを言ったつもりはないんっすけど、こういうことになっちゃったのなら、ログを削除してもらえるっすか?」
「だけど、言ったことは必ずやるっすよwww。迷惑をかけた分は、結果で示して償うつもりっす」
んっ?
なんか、ちょっといつものまったりらしくない。
尊大で傲慢な勘違い野郎が、素直に謝るなんて。
まあ、でも、相変わらず言ったことは撤回しないみたいだけどな。
その辺はいつものあいつらしい。
「それと、今、読んで思ったんっすけど、この晒しって、ギルドメンバーの中にやった奴がいるんっすよね?」
「だとすると、これも読んでると思うんで、ちょっと書いておくっすよ」
なにを言ってるんだよ。
自演のくせして……。
今更、言い訳でもしたいのか?
「自分、晒されるのには馴れてるんで、全然構わないっすよwww」
「ドンドン晒してくれっすwww」
「他のゲームで、三ヶ月重課金に粘着して引退に追い込んだときには、目茶苦茶晒されたらしいっすしwww」
「その時は公式でも無茶苦茶に書かれたっすwww」
「自分は7ちゃんとか、wikiとか、攻略サイトとか全然見ないんで、ドンドンやってもらって構わないっすwww」
「どこに書かれても、目に入るところに晒されても、全然気にしてないっすwww」
「ゲームって、結局、ゲーム能力の高い奴が勝つだけのことなんで、晒しなんて全然関係ないっすしねwww」
「だけど、晒すと他のギルドメンバーに迷惑がかかるんで、晒してる人もダメージ喰うっしょ。だったら、自分だけを晒したらどうっすか? 今いる人達はこのギルドをずっとやってきた仲間なんっしょ?」
……、……。
自分だけを晒せ?
それはどういうことだよ?
おまえが自演してるんだから、おまえがそうすればいいだけじゃないか。
それか、もしかして、まったりじゃないのか?
創聖の勇者の中に、本当の晒し野郎がいるとでも?
「ああ、そう言うことっすか。晒した人は複垢持ちっすね」
「このギルドにいるのは、複垢ってことっすか」
「だから、このギルドがどうなってもあんま痛くないってことなんっしょ」
「もともと、他の意図があってこのギルドに潜り込んでるのかもしれないっすね」
「別にそれが悪いとは思わないっすけど、そんなことやっても本垢が強くなるわけじゃないっすから、意味ないっすよwww」
「結局はゲーム能力の高い奴が勝つっす。ゲームなんて、それ以上でもそれ以下でもないっすからねwww」
けっ!
結局、自分じゃないことが言いたいだけか。
だけど、俺はそんなことじゃ誤魔化されない。
お前だけだ、得をするのは。
いや、得をすると思っているのは。
おまえ、恥ずかしくないのか?
晒しなんて卑怯なことをしておいて、その上、誰かに罪をなすりつけようとするなんて。
まあ、そういう奴なんだろ、もともと。
自分の目的のためには手段を選ばない。
基地野郎に相応しい。
俺も悪いんだ……。
変な奴だと分かってるのに創聖の勇者に入れてしまったんだから。
あのとき、なにか適当な言い訳をして加入を拒否していれば……。
今更言っても仕方がないけど、ギルドメンバーには本当に悪いことをしたよ。
「まったりさん、おはようございます」
「ちわっすwww。あ、お初っすね、スサノオさんと話すのは」
「ええ、初めまして……。私は夜が早いもので、いつもすれ違いでしたね。それはそうと、7ちゃん、見てきましたか? 糞味噌に書かれてますけど……」
「www。今も書いたんっすけど、全然、構わないっすよwww」
「えっ? 見てもいないんですか?」
「そっすwww。書きたい奴は書けばいいっすwww。そんなんでゲームの勝敗が変るわけじゃないっすからねwww」
「ふふっ、いつもそんな感じなんですか、まったりさんは」
「そっすwww。それで困ったこともないっすwww」
す、スサノオさん?
そうか、心配してわざわざ早朝にインしてくれたのか。
いつもながら、スサノオさんの心配りには感謝するしかない。
「まったりさん。さっき、晒している奴が複垢だと書いていたじゃないですか」
「だと思うっすよ。よくいるんっすよね、やたらと何垢も持ちたがる奴www」
「それ、多分、当っていると思います。私も長い間この創聖の勇者にいましたけど、たまにスパイっぽい垢の人がいますから」
「ああ、やっぱそう思うっすか? それって、ギルド戦があるからなんっしょ?」
「でしょうね。ギルド戦は、誰がインしているかが分かるだけで、かなり有利に進められますから」
「www、セコイっすねwww」
「そうは言いますが、ギルド戦の褒賞は大抵使える武将ですから。まあ、やり方が汚いとは思いますが、ルール違反をしているわけではないのでね。創聖の勇者ではやっていませんが、7ちゃんなんかを読むと上位ギルドはどこもやっているみたいですしね」
「www、それはゲーム能力が低いからっすwww。自分ならそんなことをしなくても、デッキ構成見れば普段インしてる時間も分かるっすよwww」
「はっ? そんなことが本当に分かるんですか?」
「分かるっすよ。たとえば、スサノオさんは経営者みたいっすけど、具体的には開業医じゃないっすか?」
「えっ?」
「多分、かなり大きな病院で院長をやってる感じっす。だから、意外と不規則にポコポコと時間が空くんっしょ。そのポコッと空いた時間に、誰にも内緒でゲームやってるんじゃないっすか? www」
「ちょ、ちょっと待って下さいっ! そ、それ以上は……」
「www、当ったっすか? www」
マジかよっ!
スサノオさんって、医者だったんだ。
道理で金に困ってないわけだ。
「驚いたな、どうして分かるんです? 私、そんなことを一回も言ったことがなかったはずなんですが」
「デッキがそう言ってるっす。スサノオさんのデッキ、金を遣ってる割には渋い武将も入ってるじゃないっすか。これ、適材適所が身に付いた経営者の感覚なんっすよ。だから、まず、サラリーマンじゃないことは確定っすwww」
「なるほど……」
「……で、医師だと思ったのは、的確に相手の弱点を突くデッキだからっす」
「と、言うと?」
「医師って、人間の身体の急所をよく知ってるじゃないっすか。だから、いかに筋肉の鎧を身につけようと、もろい箇所を突けば身体が壊れるのを知ってるっすよ」
「はあ……」
「あ、今、思ったんっすけど、専門は整形外科っすかね? www」
「ちょ、ちょっと……。まったりさん、勘弁して下さいよ」
「www、すまんっすwww。言いたいのは、それだけデッキが理論的なんっすよね。理論的なデッキだと言うことは、高い知性を持っている人だということを示してるっす。似たタイプに弁護士もいるんっすけど、弁護士の方が自己顕示欲が強いんで言いたがるんっすよね」
「私が職を明かしていないのが、医師の証拠だと?」
「そう言うことっすwww」
こ、こいつ……。
本当にデッキを見ただけで言ってるのか?
まさか、そんなことが分かるなんて……。
「この三国志CVみたいなゲームって、結局、相手の意図を読むのが大事なんっすよ。その意図ってのは、デッキの方針だったり課金の有無だったり、その人がゲームをやってる意味とかだったりするっす」
「そうですね。強いデッキには、必ず確固たる方針がありますから」
「……で、それを読んでいくと、ネットの向こうの相手が透けて見えるんっすよ。それをいかに正確に特定するかが、ゲーム能力っす。持ってる物の差ももちろん大きいんっすけど、ゲーム能力の差は、目に見えないっすけどそれ以上に大きいんっすよ」
「……、……」
「だから、自分は晒してもらって構わないんっす。自分を晒せば晒すほど、そいつの人となりが見えてくるっすからwww。そうなれば、ゲーム上で叩くのなんて簡単なことっすwww」
「つまり、仕返しはゲーム上ですると?」
「そっすwww。複垢使いなら、本垢も特定してボコにするまでっすwww」
「では、7ちゃんも見てきた方がいいのではないですか? データは多い方がいいでしょう?」
「www。あんま簡単に分かったらつまらないじゃないっすかwww。7ちゃんって書き込んだ時間が残るんっしょ? だから見ないっすwww。そんなことしなくても、対戦したりデッキのぞいたりしてれば自然と分かるっすからねwww」
「凄い自信ですね。今までもずっとそんな感じでゲームをやってきたんですか?」
「そっすwww。だから、ギルド戦の対戦相手がいつインするかなんて、簡単に分かるっすwww」
「そうなんですか。それは頼もしいな。では、次のギルド戦が楽しみですね」
俺はここまで読んで、パソコン画面から目を離した。
もう、7時半過ぎ……。
講義に間に合わせるには、そろそろ支度を始めないといけないから。
だが、本音を言えば、俺はスサノオさんとまったりのやり取りを見ていたかった。
ゲーム能力?
意図を読む?
そりゃあ、俺だって似たようなことを考えてはいるさ。
だけど、超能力者じゃないんだから、そんなことを正確に出来るわけはない。
いや、出来るとは俺には思えない。
スサノオさんは、本当に医者で院長なんだろうか?
まったりの話に、適当に合わせていただけってことはないのか?
ただ、これだけは思ったよ。
自演の晒し……。
そうじゃないことだけは確か、だとな。
なんか、こう、もっとあいつの言ってることは深い。
晒しとかそんな次元でゲームをやってはいない。
俺の見えない物を間違いなく見ている。
悔しいけど、それだけは認めてやるよ。
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