夜半前

「水香さ~ん! 一緒に帰りましょぉ~!」

 バッグを前の籠に載せ、自転車に跨ろうとすると、愛里ちゃんが手を振り、肩に掛けたショルダーバッグを揺らしながら走り寄ってきた。

「どうしたの? 家は反対方向でしょ?」

 片手でハンドルを支え、空いた手で髪をかき上げながら、質問する。

「そっち方面に、ちょっと、用事があるんですよぉ」

 胸に手を当て、軽く呼吸を整えながら、愛里ちゃんはそう答える。

……用事? 夜中に? ……もう少しで日付が変わるというのに?

 愛里ちゃんは一人暮らしではないはず。

 それに、二十二時以降も働ける歳であるとはいえ、未成年に変わりない。

 親は心配すると思う。

……一体、何の用事があるんだろ?

 オフィス街の外れ。

 自宅から逆方向の道。

 街灯は並んでいるが、人通りのなくなった路地。

 その先にある住宅街。

 こっち方面に何が……。

「こんな夜遅くに? 親が心配するんじゃないの?」

 諭す声色で、探るように問う。

「大丈夫ですよぉ、ちゃんと親には伝えてありますよぉ」

 愛里ちゃんは笑顔を浮かべ、片手を胸の前で振りながら、もう片方の手でバッグを掛け直す。

「本当にぃ?」

 愛里ちゃんの目を覗き込み、疑いの言葉を掛けてみる。

「本当ですよぉ!」

 そう言って、愛里ちゃんは唇を尖らせた。

「ふふ! ゴメンゴメン」

 軽く笑い掛けると、両手でハンドルを握り、自転車を押し歩き始める。

 愛里ちゃんは自転車を挟むように並んでついてきた。

……本当なのかな……。

 焦る様子もなかったし、嘘をついているようにも見えなかった。

 まぁ、様子から判断しただけ、実際のところはわからない……。

 嘘をついていないとなると、親公認の用事のよう。

「どんな用事なの?」

 率直な疑問をぶつけてみる。

「友達のウチに行くんです、こっちの方に住んでるんですよぉ」

 笑顔でそう言って、愛里ちゃんは右手の人差し指で前方を指す。

……友達、ね……。

 何か怪しい。

 さらに、探りを入れたいところ。

 本当に友達なのかな?

 はたまた……。

……いや……隠したいこと、あるよね……。

 ふと、兄の部屋が頭に浮かんだ。

 鍵が掛かり、〈開かずの間〉と化した部屋。

 何かを隠しているであろう部屋。

……暴きたい、けど……。

 愛里ちゃんの用事。

 少し気になるけれど、これ以上の詮索はやめとこう。

 疑ったら、きりがない。

 それに、他人の私が知ったところで、意味はないと思う。

……単なる、知りたがり……でも、やっぱり……。

 兄の件は別。

 肉親であり、知ることに何らかの意味はあると思う……そう思いたい。

 いや、好奇心だけではないと、正当化したいだけ、かな。

……死んで、興味を持たれる兄、ね……。

 前髪に息を吹き掛け、苦笑する。

「大丈夫ですかぁ?」

 愛里ちゃんが、下から私の顔を覗き込んできた。

「ん? ……大丈夫よ、ちょっと疲れてるのかも……」

 そう愛里ちゃんに答えると、軽く深呼吸をしてみせる。

「ですよねぇ、私も疲れました。いきなり、あんなに混むとは思いませんでしたぁ」

 そう。

 私が休憩から上がった時、客はまだ一組だけしかいなかった。

 ところが、愛里ちゃんが休憩に入ってから程無くして、客の波が一気に押し寄せた。

 わずか数分で、あんなにも閑散としていた店内が、別世界に来たのかと錯覚する程の活気に満ち溢れ、二十分も経たずに満席になった。

 常に満席状態というのは毎度のこと。けれども、短時間で満席になるほどに客が殺到することは、滅多にない。

 おかげで、店長も私も天手古舞。

 しかし、すぐに騒動に気が付いた愛里ちゃんが休憩途中にも関わらず、手伝いに出て来てくれたおかげで事無きを得た。

「あの時は本当に助かったわ、ありがとね」

「いえいえ……一段落してから、また休憩に入れてもらえましたし……それに仕事なんですから、問題ありませんよぉ」

 私の感謝を、愛里ちゃんは顔の前でパタパタと手を振りながら謙遜して応える。

 その仕草と表情を見つめ、思わず笑みが零れた。

……真面目な良いコだわ、流石は現看板娘!

 愛里ちゃんが居れば、あの店は安泰だと思う。

 しがみついてるつもりはないけど……あの店を卒業するのに、良い時期なのかもしれない。

 いや、フリーター生活を卒業する、と言った方が良いかな。

……就職、頑張らなきゃ……だけど……。

 前髪を掬い上げ、前方の空を見上げる。

 私の現在の心情を写したような月が空に浮かんでいた。

……あの月は……十三夜、だったかな……。

 満月ではなく、ほんの少し欠けた月。

 もう少しで満月になる月。

 私の心も同じくまだ満たされてない。

 満たしたくても、邪魔をしているような引っかかりがある。

 そして、その邪魔な引っかかりの正体は分かっていた。

……兄さんの事……。

 そう。

 鍵の掛かった兄の部屋。

 兄のマンション。

 そして、兄の彼女であろう女性の存在。

 兄のプライバシー全般、と言った方がいいかもしれない。

 どうにも、これらを暴かないと満たされない気がする。

 気になって、他の事に満足に専念できないような……。

 間違いなく就職活動にも身が入らない。

 そんな宙ぶらりんな気持ちにさせられる。

……もう、スイッチは入ってる……。

 ものすごく先が気になるゲームを始めてしまったようなもの。

 途中で投げ出すことはできない。

 だけど、クリアしてしまえば、どんな結果にせよ満足するはず。

……さっさと終わらせて、就活を再開しなきゃね!

 十三夜を見据えたまま、決意を新たにする。

「水香さん! ちゃんと聞いてますかぁ?」

 呼び掛けに振り向くと、愛里ちゃんは唇を尖らせていた。

 どうやら、さっきから話掛けてくれてたみたい。

 私が上の空になっていることに気が付いたよう。

「ゴメンゴメン。やっぱり疲れてるみたいね……それで? 何だっけ?」

 片目を瞑って謝ると、愛里ちゃんは軽く溜め息を吐いた。

「もぉ、ですからぁ、柴崎さんと一緒に来ていた人のことですよぉ」

 柴崎さんのお連れとなると……大下さんのことだろうか。

 少し彫りの深い顔が思い出される。

「あぁ。大下さんがどうかしたの?」

「そうかぁ。大下さん、って言うんですかぁ……けっこうイケメンで良い感じの人でしたよね? また、店に来ますかね?」

 どうやら、名前は聞いてなかったらしい。

 それにしても、愛里ちゃんからこういう話が出てくるとは珍しい。

 ああいう男性がタイプなのかな?

「大下さんと話す機会はなかったの? まぁ、あれだけ忙しかったら、仕方ないかなぁ」

「そうなんですよぉ。忙しくて、注文を取るぐらいしかできなかったです。会計は店長がしてたし……水香さんが休憩に入ってる時は、まだ暇だったんですけど……」

 そう言って、愛里ちゃんは視線を落とし、大きな溜め息を吐いた。

 愛里ちゃんが言わんとしてる事は分かる。

 おそらく……。

「柴崎さんでしょ?」

 この言葉を待っていたかのように、愛里ちゃんは顔を上げて捲し立て始めた。

「そうなんですよぉ! 水香さんが休憩に入ってから、ずっと一人で話続けてたんですよぉ! 聞こえてくるのは柴崎さんの声だけ! 中学校の時の思い出話か何かわからないですけど、大下さんの声は相槌くらいしか聞こえてこない……二人だけで来ても、おしゃべりなんですね! 柴崎さんは!」

 余程、大下さんと話したかったのだろう。

 愛里ちゃんの悔しさが言葉に込められていた。

 それに、柴崎さんは相変わらずのよう。

……そういえば……。

 頭に過る言葉があった。

〈噂〉

 柴崎さんが言い澱んだ噂話。

〈SICマンションの噂〉

 兄が住んでいたマンションに纏わる話。

 噂というからには、柴崎さんだけでなく、他の人も知っている可能性は充分にある。

 現に、〈マンション〉、〈噂〉というキーワードを私も聞いた覚えがある。

……もしかしたら、愛里ちゃんも知っているかもしれない……。

 頷きながら微笑みを浮かべて愛里ちゃんを見据える。

「柴崎さんは困った人だよねぇ……ちなみに、大下さんは地元であるこっちに帰ってきたみたいだから、また店には来ると思うよ」

「本当ですかぁ?!」

 愛里ちゃんは満面の笑顔になり、パチパチと手を叩く。

……よしよし、少しは機嫌が良くなったかな?

 空に浮かぶ月を一瞥し、次の言葉を発するために、大きく息を吸い込んだ。

「ところで、愛里ちゃん? 知ってるかな? ……噂話なんだけど……」

「噂話ですかぁ?」

「そう、SICマンションの噂……知ってる?」

 愛里ちゃんは腕を組み、首を傾げる。

「エス、アイシー、マンション……う~ん、知らないですねぇ……」

「そうかぁ。知らないかぁ……」

 一応、予想はしていた返答だけれども、少しばかり気落ちしてしまう。

 やっぱり、あまり知られていない〈噂〉なのかもしれない。

……私も知らなかったしね……。

 息を吸い込み、溜め息を吐こうとした時。

「あっ! でも、どこのマンションかは分かりませんけど、マンションに関する噂は、かなり前に聞いた事がありますよぉ」

 愛里ちゃんの発言を聞くと同時に、溜め息を飲み込んだ。

「ホントっ?! 教えて!」

 気持ちが昂るのが分かる。

 自転車に身を乗り出して、愛里ちゃんの返答を待つ。

「いいですよぉ……え~と、噂というか、怖い話になっちゃうかもしれないですけど、大丈夫ですか?」

「え? ……大丈夫大丈夫!」

 〈怖い話〉になるような〈噂〉ということかな。

 私は怖い話は嫌いじゃない。

 興味は少なからずある。

 だからといって、大好きというわけでもない。

 テレビの心霊特集なんかも、何となく見てしまう程度。

 大抵、見終わってから後悔してしまうのだけれど……。

 一人で暮らすようになってからは、特にそう。

……何かの手がかりになるかもしれないしね……。

 息を飲み、愛里ちゃんの口元に意識を向ける。

 愛里ちゃんは、それではと一つ間を置くと、途切れ途切れに話始めた。

「確か、高校生の時、友達から聞いた話なんですけど……あるマンションの一室に泥棒が入るという事件があって……え~とぉ……そして、その部屋の住人はそのマンションから立ち退いてしまった……ということがあったそうです」

「立ち退いた?」

「はい、そうです」

「……なんで? 被害がそんなに深刻だったの?」

 私の問い掛けに、愛里ちゃんは左の人差し指を口に当て首を傾げる。

「え~と……表向きはそんな理由だった、らしいです」

 表向きということは、裏がある。

 そういう事になる。

 空き巣の話は実際にあったとして、その裏の話が〈噂〉になるのかな。

 そして、〈怖い話〉にもなる……。

 だけど、泥棒の話自体が〈噂〉という可能性もある。

まぁ、火のない所に煙は立たないというし、それに近い事実があったのかも……。

「裏の話があるって事?」

「はい、そうです。え~とぉ……その立ち退いた住人はとても仲の良い夫婦で、泥棒が入る前は、いつも一緒に仲良さそうにしているのを他の住人が見かけてた。ですが、泥棒が入ってから、その夫婦が一緒に行動してるのを見かけることがなくなった。というか、妻の姿を見た人は誰一人いなかったそうです。それで……あれ、違う、かなぁ。え~と。そして、その夫婦はマンションを立ち退いていった」

 愛里ちゃんはそう言い終えると、私の顔を見つめた。

……ん? ……おしまい?

 尻切れトンボというか、何というか……。

 これで話は終わりなの?

 色々と憶測を呼ぶ内容だけど、〈怖い話〉というか、どこかパッとしない。

 〈噂〉だから?

 だけども、しっくりこなさすぎる。

「まさか、それで終わりじゃないよね?」

「そうなんですよぉ、ごめんなさい。うまく話せてないですよね?」

 愛里ちゃんは両手を合わせて困った顔をする。

「かなり前に聞いた話だから、記憶が曖昧で……何となく憶えてるんですけどぉ。この話は色んなバリエーションがあったはずなんですよね。続きをどう話せばいいのか、頭の中がごっちゃになっちゃって……すみません」

「大丈夫。憶えてる範囲でいいから、話してみて」

 私の言葉に愛里ちゃんは無言で頷くと、視線を下に落とした。

「え~と、断片的になっちゃいますけどぉ。妻が誘拐された、とかぁ。泥棒は強盗だった、とかぁ。夫が妻を殺した、とかぁ。妻ではなく愛人だった、とかぁ。え~とぉ。あと、なんだったっけ……ん~とぉ……」

 愛里ちゃんは視線を下に落としたまま、無言で考え込んでしまった。

 どうやら、これ以上は無理みたい。

 だけど、愛里ちゃんの話の中で私の記憶に呼応する言葉があった。

〈泥棒〉

〈夫が妻を殺した〉

 この言葉、どこかで聞いたはず。

 ニュースや雑誌ではなく、誰かから聞いたと思う。

 最近の記憶のはず。

 それに、その記憶、不快感を生じさせる。

 まぁ、〈泥棒〉や〈夫が妻を殺した〉という内容だから不快感が生じるのは当たり前。

 だけど、何か、話とは別の不快感のような……。

……何か、思い出せそうなんだけど……。

 思わず、私も愛里ちゃんと同じような格好になってしまい、一時、辺りが静寂に包まれた。

「すいません、水香さん。友達に聞いてみますね、友達も忘れてるかもしれませんけどぉ。話を聞けたら、連絡しますね」

 愛里ちゃんが申し訳なさそうな顔で、静寂を破った。

「そう! ありがとう、よろしくね!」

「はい! すぐに連絡します!」

 愛里ちゃんは笑顔になり、右手をグーにして胸の前で構えた。

 その姿に微笑みで答えた時、T字路に突き当たった。

「あっ! 水香さん! ここを右、でしたよね? 私、コッチなんで!」

 そう言って、愛里ちゃんは左方向を指差した。

 私とは反対の道。

 随分と暗い道。

 見える範囲で街灯が一本しかない。

 普段、通ることのない道だから気にもしていなかったけど……。

 改めて見ると、不穏な空気を漂わせている。

 夜遅くということもあるからか、何か嫌な感じ。

「一人で、大丈夫なの? ……送るよ?」

「大丈夫ですよぉ、すぐそこですからぁ」

 私の不安げな面持ちとは裏腹に、愛里ちゃんは笑顔で軽く答える。

「……そう。じゃあ、気をつけてね!」

「はいっ! お疲れ様で~す!」

 愛里ちゃんは手を振り、ショルダーバッグを揺らしながら小走りで暗い路地に入っていった。

 明かりが一つしかない道に……。

「……さて、と」

 愛里ちゃんが街灯の下を通り過ぎるのを見届けると、自転車に跨りゆっくりと走り始めた。

……マンションの噂……泥棒……夫の妻殺し、ね……。

 〈SICマンション〉に関わる話なのだろうか。

 柴崎さんが知ってる噂なのだろうか。

 片手でハンドルを握り、空いた手で髪を撫で付ける。

……愛里ちゃんが高校生の時に聞いた話……友達から聞いた話、ね……友達か……。

 ふと、自分の友達の顔が思い浮かぶ。

 今でも連絡を取り合っているが、中々会う機会がない。

 みんな就職して、忙しそうにしている。

 何もしていないわけではないけど……。

 焦燥感が湧き上がる。

……就職、しなきゃ……だけど……今は……。

やっぱり、兄の件が気になって仕方がない。

 謎が有り過ぎる。

 というより、私が兄の事を知らな過ぎただけ……。

 でも、実際そんなもんだと思う。

 兄も、私の事はほとんど知らなかったと思うし、教えようとも思わなかった。

 私のバイト先も話したこともないし、兄の仕事先も知らない。

……そういえば、大下さんは兄と知り合いだった……何の仕事をしているのかな……。

 大下さんのやっている仕事も聞いてない。

 そればかりか、柴崎さんの仕事内容も知らない。

 思い返せば、知り合いのしている仕事をほとんど知らないかも……。

 だけど、何となく理由が分かる。

……聞かないように、しているだけ……。

 焦燥感が増幅され、不愉快な気分になってきた。

……ダメ……考えても無駄……今は、とりあえずは、兄さんの事……。

 首を振って、思考を切り替える。

 暗い道の先に一際明るく輝く建物が見えてきた。

 コンビニだ。

 あと少しで自宅に着く。

……ウチに着いたら、ネットで調べなきゃね。

 SICマンションについて。

 その所在地。

 ふと、柴崎さんの言葉が思い出された。

『俺たちが通ってた中学の近くにできたマンション群』

 大下さんと柴崎さんが通っていた中学校の近くにあるマンション群。

 その一棟に兄は住んでいた。

……ん? ……中学っ!

 閃くモノがあった。

「兄さんも……」

 そうだ。

 大下さんが言ってた。

 兄は『中学も一年生の時だけ同じ所に通ってた』と。

 兄が中学一年生となると、約二十年前。

 今の実家に引っ越した頃になる。

 そうなると、マンションは前に住んでいた家の近辺にあるということになる。

 それに、私が幼稚園に通っていた頃。

 当時の家の詳しい住所は憶えてないけど、幼稚園の名前は憶えている。

 だいたいの場所も分かる。

……そうだ!

 思い立ち、立ち漕ぎで自転車を飛ばして、目前に輝くコンビニを目指す。

……調べれるかも!

 コンビニに着くと、バッグを手に取り、自転車に鍵をかけずに中へ入る。

「いらっしゃいませ~今晩は~」

 気のない店員のマニュアル台詞を耳に、雑誌コーナーへ向かう。

……確か、ここら辺に……あった!

 目当てのモノを見つけた。

 近隣を記した地図帳だ。

「え~と……」

 棚から取ると、すぐに開き、パラパラと目的の地域を探す。

 正直、地図帳は見慣れていない。

 家に帰って、ネットで調べればすぐに分かることだけど……。

 一分でも早く、その場所を知りたかった。

 確かな手がかりを見つけたかった。

「あった!」

 思わず、大きな声を出してしまった。

 恥ずかしさがこみ上げ、開いたままの地図帳で顔を半分隠しながら、辺りを見回す。

 幸い他に客はいなく、先ほどの店員は何やらレジを弄る事に夢中になっているよう。

……良かった……。

 軽く溜め息を吐き、再び地図帳を見る。

 私が通っていた幼稚園が記され、兄の通っていた中学校も記されている。

 そして、その中学校の近くに、マンション群が記されていた。

〈SICマンション〉

 その名称が地図に小さく記されていた。

 目的地を見つけるのに五分以上かかってしまったが、どこか達成感のようなモノがあった。

 実際は、マンションの場所が判明しただけで、詳しいことは何も分かってない。

 だけど、確かな手がかりを見つけることができたからかな……。

 何とも言えない嬉しさが込み上げてくる。

……なんか、祝いたい気分!

 地図帳を棚に戻し、ウキウキとお酒コーナーに向かう。

……ど・れ・に・し・よ・う、かな。

 悩んだ末、レモンサワーの缶を一つ取ると、未だレジと戯れている店員の許へ向かった。

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