01-10 鍵
操作室に駆け込んだ。
「以前使っていたファイルサーバ、どこかにありませんか?」
何事かと思って、その場の全員が私を見る。
顔が赤くなるのを感じたけど、そんなこと思ってる場合じゃない。
赤坂さんが近づいてくる。
「綾瀬、今のじゃなくて?」
「今の、被害にあったファイルサーバではなくて、その前に使っていたものの所在が知りたいです」
「どういうことか説明してくれ」
「被害にあったファイルサーバは2年前くらいから使い始めたようですが、このPCはそれよりも前から使っています。ということは、PCのバックアップデータや構築時のソフトウェアのデータは以前のファイルサーバにももともとあったのではないかと思います。ファイルサーバを新調した際に、以前のファイルサーバからデータを引き継いでいるとすると、引き継ぎ元の以前のファイルサーバに、もしかしたらバックアップデータが残っているかもしれないと」
「よく気が付いたな!その可能性は大いにありそうだな」
「以前使っていた奴は、倉庫にある気がする」
と明夫さんが続ける。
「私も一緒に探します。倉庫の場所を教えてください!」
***
以前のファイルサーバは倉庫内にそのまま保管されていた。
大久保さんらが再構築用のOSやソフトウェアのディスクも見つけてくれていた。
ファイルサーバを確認すると、推測した通り、奇跡的にバックアップデータがそのまま残っていた。
反撃のチャンスは確かに私たちの手の中にやってきた。
中野所長とその他インシデント対応のために夜遅くまで残ってくれている従業員を集めてもらい、改めて現状を確認し、PCについてはバックアップデータを使って復旧することで合意した。
反撃の
PCのバックアップデータを使って、感染したPCをリストア作業を開始。
1時間程度して、リストア作業が無事に完了。
明夫さんらに動作を確認してもらい、感染する以前のPCの状態に戻すことができ、製造ラインで使用するPCとしては復旧に至った。
「まずは1台が復旧完了や!」
室内に深夜のテンションで男たちの歓声が上がった。
(なぜか京さんも交じっているのは見なかったことにしよう)
残るはファイルサーバ。
「これをランサムの入力欄に入れてみ」
と赤坂さんからおもむろに文字列が記載された紙を渡された。
明夫さんがその紙を私から取り上げて、
ランサムウェアが表示させている画面に存在する入力フォームになにやら入力し始めた。
+ーーーーーーーーーーーーーーーーーー+
This key is Correct..
Your Files start to decrypt!
Please wait....
+ーーーーーーーーーーーーーーーーーー+
画面下部にプログレスバーが表示された。
それは暗号化されたファイルの暗号解除の進捗状況を表示するものだった。
「入力した文字列はランサムウェアが暗号化したファイルを復号するための秘密鍵の値だ。もしかしたらと思って、解析してみたら鍵が判明しただけだ。」
「え…」
「ということだから、あとは暗号解除され次第、機器の動作確認して業務再開だな」
さらっと大事なことを言う赤坂さんがどういうマジックを使って解析したのかわからないまま、暗号化されたファイルは復旧し、ファイルサーバも暗号化される前の状態に戻ったのだった。
「2台目も復旧完了や!」
そうして、へとへとになりながらもインシデントの封じ込めが完了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます