01-7 レスポンス

 悠長な時間はないが、やるべきことは多い。

 感染したPCを保全するために、データを吸い出す作業に取り掛かる。

 吸出し作業の間に、他に感染した端末がないか確認したり、

 ランサムウェアの特定作業の準備をしたりせねばいけない、と気持ちだけが焦る。


 そんな気持ちのため、品川さんらがずんずんと私に近づいてきていて、そのことに気が付くのが遅れた。不意に視界に現れたのでびっくりしていると、彼らはこう告げた。


「俺たち、ただ待ってることはできないタチなんだ。なにかできることはないか?」

 突然の申し出に驚く。

 そして、ひとりあたふたする。

「一人でやれることには限界がある。手を挙げてくれるのなら是非頼んだらどうだ?時には協力も必要だ」と赤坂さんが援護する。

「わかりました。品川さんは他に同じようなPCがないかどうか確認をお願いします。大久保さんは・・・」という風にそれぞれに依頼を出して復旧に向けて各自走り始めた。


 * * *


 ランサムウェアの種類の特定については私で、別途解析用に吸い出したデータを解析をしているのが赤坂さんの体制で進めることに。

 種類の特定には、ランサムウェアそのもののデータと画面に表示するメッセージを利用する。

 これらの情報からある程度特定することが可能なので、感染PCから情報を拾っていった。

 ランサムウェア研究を行っている有志が世界中にいて、種類の特定のみならず、ものによっては暗号解除のためのツールを公開している。ただ、すべての種類のランサムウェアが暗号を解除できるというわけではないため、正しい対処を行えるようにするためにもまずは種類の特定が急務、第1段階だった。


「 ランサムウェアのデータべースでは該当なしです。インターネットでの公開情報でも該当するものがなさそうです・・・」

「そのようだな」

「解除できないのでしょうか・・・」

 焦りだけが募る。

「できないことはないだろうが、解析に非常に時間がかかる可能性がある。運よく暗号規則アルゴリズムが判明すればいいが、こればっかりは解析してみないことにはな」

 解析能力が私にはないため、歯がゆい気持ちになるが、解析は赤坂さんの腕の見せ所だ。

「解析、ひとまずここは赤坂さんを信じます」

「ああ」

 と軽い感じの返事をもらって、次の作業に取り掛かった。


 そうこうしていると、品川さんが室内に駆け込んできた。


 「他の機器も確認した。感染PC、もう1台あるようだ。あとファイルサーバも同じようにまともに動かない」


 ファイルサーバとは、事務所内でネットワークに接続された各PCでファイルの置き場や共有用に設置している機器のことで、確認したところ、こちらも同様の事態になっていた。

 しかも不運は続くもので、感染の影響は動かなくなったことにとどまらなかった。

 無いと思われていたバックアップ用のファイルもそのファイルサーバ上に実は格納されていた、ということだったのだ。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る