01-8 万策
万事休す、か。
そう思って、赤坂篤はここまでの状況を整理をする。
ランサムウェアは未知の種類のもので、過去の例が見当たらない。
過去の例が見当たらないということは、暗号を解除する鍵への道筋が極めて厳しい道になることを示している。過去の例があれば既に鍵の取得方法が判明しているため、復旧へ明るい筋道を示すことができただろう・・・。
PC1台、ファイルサーバ1台の計2台に感染が確認されている。
解析は進めているが、現時点で復旧手段なし…。
バックアップは存在したものの、バックアップを保存していたというファイルサーバが被害にあってデータ破損・・・。
ふぅ、なかなかハードモードになってきたな。
そう思いつつ、解析の手を休めることなく、やや疲労の色が見える綾瀬の様子を見ていた。
***
その頃、私はここまでの張りつめた緊張で、やや疲労感を感じていた。
追い打ちを掛けるように、バックアップデータの破損という事実が発覚し、室内は重苦しい空気が流れていた。
「どうすんだよ!マジでどうすんだよ…マジで…」
という品川さんの声だけが無情に響く。
「万策尽きたか・・・否、残るはプラン3の身代金のみか・・・」
と所長が気を落としたように言う。
「ちょっと考える時間を貰えないか」
そう言って所長とほか数人が操作室を後にした。
赤坂さんが継続して解析を進めているけれど、まだしばらくは時間がかかるだろう。
ただ待っていても事態は好転しない。そんなことは承知していたけれども、今私にできることは何もないのだろうか、でもやはりできることはないように思えると堂々巡りするだけだった。
突然、重苦しい空気の中、室内にいた一人が思い出したように声を上げた。
「復元ポイントっていう奴、無かったか?」
PCにはセキュリティ上の不具合だけでなく、ソフトウェアの不具合を行うためのパッチを適用する直前などに、適用に失敗した場合などに備えて「巻き戻し」の機能、すなわち「復元ポイント」を生成する機能がある。この機能を使えば復元ポイントが生成された時点のPCの状態に戻すことができる。
ただ、今回の場合はインターネットに接続せずに使用することを想定したPCとして設計・構築されていたためパッチの適用はされない設定になっていて、当然これまでパッチ適用されてきてはいないため復元ポイントは生成されていない。もし生成されていたとしても、ランサムウェアによって復元ポイントを消去されてしまうことが多く、いずれにせよ復旧しようがなかった。
さらに重苦しい空気になる。
「PCの再構築に備えて、PCや機器の納入当時に一緒に納入されたであろうインストールディスクやプログラムのディスクを大久保さんに捜索をお願いしていましたが、捜索状況はどうですか?」
「まだ探してるようだ」
念のため、再構築するとなったときに備えて探してもらっているが、こちらもしばらく時間がかかりそうだ。
まるで暗闇の中で探し物をしているかのよう。探す当てがどんどん失われているような気持ちになってくる。
私は息苦しい室内から逃げ出すように、思わず操作室を出てしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます