課題3 女子の下着を着て1日過ごせ

課題3 女子の下着を着て1日過ごせ



雀の鳴き声が聞こえてくる。


なんという清々しい朝なのだろう。

この疫病神さえいなければ...


ベッドに座る僕の前には疫病神が堂々と立っていた。


「加世堂 真人、今日の課題を発表する」


僕はどうかマシなものであってくれと祈った。昨日は特に後味が悪かった。いじめの現場を目撃して、さらに僕はなにもできなかった。今でも後悔しているところがある。


「女子の下着をはいて、1日過ごせ」


僕はノーパンで登校することに決めた





なんか日に日にレベル増してない?


僕は授業中、ずっと課題について考えていた。


今日のは特にやばい、まだ三日目だけど。絶対に窃盗罪で捕まる。しかもそれを着るって...そんなことをして喜ぶのは本当の変態くらいだ。さすがに僕も潔癖というわけではないが気が引ける。


女子の下着、疫病神はブラジャーとパンツをはいて学校を過ごせと言った。1日とは言ったけど、どうやら学校だけでいいみたいだ。


女子の下着をバレずに盗めるわけがないと初めは思ったが、疫病神はそれを知ってたからか分からないが今日はプールの授業がある。


盗むのはこの時しかないと確信していた。

さすがに着替えている最中に突っ込むのは飛んで火に入る夏の虫なので論外だ。

チャンスはみんなが泳いでいる時、つまり僕は見学しなくちゃいけない。

成績は下がるけどそんなこと気にしてられなかった。


1時間目が終わるチャイムがなった。

次の時間は早速プールだった。


「おい、着替えに行こうぜ」


慎二がプールの用意を持ってこっちにやってきた。


「う、うん」


僕はあえてなにも持たないまま席をたち、慎二と行こうとした。


「お前プールの用意机にかけっぱなしだぞ」


「きょ、今日はちょっとお腹が痛くて...見学するよ」


「おお、そうか」


そう言えば昨日も腹痛を演技したが、特に慎二は怪しんでるふうには思わなかった。無表情で声のトーンも一定だからわからないけど。



プールでの見学はプールサイドに組み立てられたテントの下ですることになっている。

プールの授業では2組合同なので、人数も多い。


そして問題なのが...


「真人も見学なんだね!どうしたの?」


もう1人の見学者が朝倉さんということだ。


つくづくこの課題を難関にしてくる女の子だと思った。ある意味朝倉さんも疫病神...いやこんなことを言っては失礼だ。


「ちょっとお腹が痛くてね...」


僕はお腹を擦りながら言った。


「そうなの?そう言えばなんか昨日もお腹痛そうにしてたね」


朝倉さんが目線を右上にしながらその状況を思い出しているようだった。


「そ、そうなんだ、朝倉さんはなんで見学なの?」


「プールの用意忘れちゃって!」


朝倉さんが「てへっ」と舌をだし自分で頭をコツンと叩いてみせた。

いつも朝倉さんはプールの授業を楽しみにしているので、天然でも用意は忘れることはなかったのだが、よりにもよって今日忘れるなんて...


「へ、へぇ〜残念だったね」


ともかくはやくしないとプールの授業が終わってしまう。はやく女子更衣室に侵入しなければ。


女子更衣室の入口はプールを出てすぐ左手にある。もちろん今は誰もいないはずだが、鍵がかかっている。

そしてその鍵は今座ってる前の机の上にある。それも手が届く距離に。


取りたいのは山々だが、朝倉さんが見てる前でとるわけにはいかない。それに鍵は朝倉さんからの方が近い。


先生はプールに入る生徒達を指導しているので、朝倉さんさえここからいなくなれば鍵を入手できる。でも、ただ入手するだけでは鍵がないことがばれ、オマケに僕がいないとなれば完全に犯人が僕に辿り着く。

なので、代わりの鍵をそこに置いとく必要があるが、それは男子更衣室の鍵でいける。

形とも違いがないのでまずはバレない。

その男子更衣室の鍵だが、何故か教師が持っているので借りなければならない。


ともかくまずは男子更衣室の鍵を入手しよう。


「ちょっと僕、大竹先生のとこ行ってくる」


「あ、うんわかった!」


僕は席を立ち、プールサイド左で生徒を指導をする大竹先生のとこに向かった。


「すみません大竹先生」


「ん?なんだ加世堂、トイレか?」


大竹先生は体育の教師でもあってやはりガタイがいい、顔も体育教師っぽくて四角い顔だ。


「あ、違います、男子更衣室の鍵を貸して欲しいのですが」


「男子更衣室の鍵?見学のお前がなんで必要なんだ?」


そうか、僕は見学者なので男子更衣室を使っていない。明らかに借りるのは不自然だ。


しまった、理由理由...なんか思いつけ!


「さ、さっき慎二...明久くんに新しいゴーグルを持ってきて欲しいと頼まれ...」


もちろん嘘だ。

慎二はそこまで水泳ガチ勢でもないし、水泳自体嫌っている。


「そうなのか、そーいうことなら」


大竹先生がポケットから男子更衣室の鍵を受け取った。

少し心配なのが、僕がこのまま男子更衣室ではなくまたテントの下に戻ることだ。そこに大竹先生が口を出さないといいんだけど...


僕は不安を抱きながら、テントの下に戻った。


「大竹先生と何話してたの?」


「ちょ、ちょっとお腹痛いからトイレ行かせてもらおうって思ったんだけど、おさまったから帰ってきた、それだけだよ」


僕は愛想笑いを見せながら朝倉さんの横に座る。


よし、次の問題は朝倉さんだ、どうやってここから離れてもらおうか。


「そ、そう言えばさ...」


「ん?どうしたの?」


朝倉さんが何故か恥ずかしそうに話を持ち出してくる。


「ま、真人ってそ、その...す、好きな人とかいるの?」


「え!?す、好きな人!?」


急にそんな恋バナを持ち出すもんだから声が裏返ってしまった。


僕の頭に勝手に夏川さんが思い浮かんだ。


「い、いないよそんなの!なんでそんなことを?」


僕は自分の動揺を上手く隠してたか不安だった。


「そ、そうなんだ!いないんだ!へ、へぇ〜そっかそっか、き、聞いたのはなんとなくだよ〜」


何故か朝倉さんの顔が弛緩しているのが見て取れた。


なんでわざわざ今それを...?

なにかおかしい


はっ!まさか!


「朝倉さん、もしかしてだけど...」


僕がそこまで言うと朝倉さんの顔が今まで以上に紅潮していたのがわかった。

それに目も泳いでいる、


やっぱりそうだ、朝倉さんって...


「慎二のこと好きなの?」


朝倉さんは天然なところがある。

朝倉さんはちょくちょく僕と慎二が話しているところに参加することがあった。

それは慎二が好きだからだろう。

それに、慎二がいるとき朝倉さんの顔は少し赤くなっている。

そしてたまに僕に対して強く当たることがあるのだ。

これから推定して、多分朝倉さんは僕が慎二のことを恋愛の意味で好きと勘違いして、それを確かめるために今僕にそんなことを聞いてきたんだ。間違いない、だから僕がいないと分かると喜んでいたんだ。


「...」


朝倉さんの顔は真顔だった。

どうやら図星だったようだ。


「やっぱりそうだったんだね...慎二いつもあーだけど気が利いて優しいもんね、安心して、別に僕はホモじゃな...ってえ?どこ行くの?」


朝倉さんは急に立ち上がった。


「もういい、真人のバカ」


朝倉さんは顔を膨らませながら、女子トイレの方に行った。


な、なんで怒ったの?


でもうまく朝倉さんを離すことができた。


僕は瞬時にポケットから男子更衣室の鍵を取り出し女子更衣室の鍵と入れ替えた。


よし!後は女子更衣室に向かうだけだ。


僕は席を立ち先生の目を奪い、プールから外に出た。

すぐに左に曲がった所に入口はあった。


「いよいよだな、ぐへへ」


またいつの間にか後ろに疫病神は立っていた。

プールサイドにいる時は姿は見えなかったのに。


心臓の動悸が激しくなるのがわかった。

昨日女子トイレにはスラスラと入っていけたが、それはウンチが漏れそうだったからだ。

今は別に漏れそうというわけではないので、ただただ緊張していた。


僕は恐る恐る鍵を穴にいれ、半回転させた。

僕はそのままドアノブを握った。


よし!これで!


ドアノブを回しひく、しかし扉は開かなかった。


え...なんで...


なんどもドアノブを捻り引いたがビクともしない。


まさか鍵はかかっていなかった?


僕はためしにもう一度鍵を穴に入れ先程同様半回転させた。


鍵を抜き、そしてドアノブをひくと、あっさりと扉は開けた。


やっぱりそうだ、鍵はあいて...


僕は思わず、鍵を地面に落とした。

地面のアスファルトと鉄の音が交差する。


「な、なんで...松田さんがここに?」


暗い女子更衣室の中、そこには奥に三角座りをしてこっちを見て不気味に笑う松田さんがいた。


僕はその姿を一瞥すると、反射的に目を右下に逸らした。


なぜなら松田さんが全裸でそうしていたからだ。

そして目の前には破り捨てられた制服、水着、タオル、下着。

彼女の裸体を隠すものが全て破り捨てられてるのだ。

犯人はおそらく昨日の3人のうちだれか、それか全員だ。


あまりにも酷すぎた。

僕は怒りを覚えた。


「あら...昨日の変態じゃない、なに今日は下着でも盗みにきた?」


「それ...昨日のやつらがやったの?」


僕は怒りを抑えながら言った。


「...さあ、どうだろうね」


松田さんは犯人を教えようとはしなかった、それとも本当に知らないのか。


僕は女子更衣室に足を踏み入れその場でカッターシャツを脱ぎ始めた。


「まさか私を犯すつもり?そこまで変態だとは思わなかったわ」


松田さんは驚いた表情もみせず、ただずっと不気味に微笑んでいる。


僕はそして全裸になった。

今日は課題のこともあってノーパンで着ていたが、怒りのせいか恥ずかしさはあまりない。


「これ着て」


僕はズボンとカッターシャツを松田さんの前に置いた。


「ノーパン...ってかあんたは何を着んの?」


「僕は...」


周りを見渡した。

4辺の壁際には荷物を置くスペースが用意されており、その荷物らから2つの名前を探した。


見つけた、あれだ。


僕は2つ横に並べれらた手提げカバン、名前は杉田と日比と書かれていた。


僕はその杉田さんの手提げカバンのところに近づき、中を物色した。


「あんた..まさか...」


見つけた、パンツとブラジャーだ。

色は共に純黒、朝倉さんとは違ってバストがなく貧乳のようだ。


僕はそれらを取り出すと、全裸の上からまずパンツ、そしてブラジャーを装着した。


「はははっ!あんた本物の変態ね、でも...最高よ」


松田さんは口元を歪め笑った。


僕は今現に本物の変態になってしまったわけだが、不思議と頭の中は無だった。恥ずかしさもなければ、申し訳なさもない。ただ仕事をこなすだけのロボットのようだった。


これで学校を過ごせば、課題はクリア。でも僕は日比のさんのカバンも物色した。


見つけた、パンツとブラジャーだ。

これは日比さんので、共に髪色と同じ純白だった。いや、日比さんの髪は白と言うよりクリーム色だ。


胸のサイズは朝倉さんに比べれば小さいが結構あるみたいだった。


僕はそれらを取り出すと、純黒を純白に染めた。二枚重ね着だ。


「変態、あんた名前なんて言うの?」


松田さんがニヤケながら僕にきいた。


「僕は加世堂 真人」


「それ着てどーするき?シコんの?それともその姿のまんま外で走り回るの?」


さすがにそれをしてしまうと僕はムショ行きになるだろう。そして捕まった原因を家族が知ると、多分自殺するだろう。


「んーどうすればいいだろう」


僕は全くのノープランで松田さんに服を貸したものだから、この後どーすればいいのか思いついていなかった。


「ははっ、計画ないのかよ、いいよ別にこれあんた、加世堂の服だし返すよ」


松田さんは僕のシャツを差し出してきた。


「いや、いらない、それは松田さんがきて」


「いいって、私は...」


松田さんは全裸でこっちに近づいてきた。

思わず胸元に目が行ってしまったが、すぐに逸らした。


松田さんは日比さんのカバンからスカートとシャツを取り出した。


「これ着るからさ」


松田さんはそうして見せびらかすようにヒラヒラとさせた。


その後松田さんは僕にシャツとズボンを投げ返してきて受け取った。


たしかにそれなら二人とも無事解決するが、この後、日比さんがそれらがないことを知ったらどうなるだろう、多分また松田さんは酷い目に合わされる。

いや、僕が傍にいよう。松田さんを守るんだ。


その時、外から女子達のざわつきが聞こえてきた。


同時に今までの僕はいなくなり元の僕に戻った。


え...もう返ってくるの?

慌てて壁にかけられた時計をみると、残り10分でチャイムがなる。水泳だから早めに終わるのだ。


急に大量の汗が全身の毛穴から出てきて2人の下着に染み付いていく。それに自分がさっきした行動、今していることに今更猛烈に恥ずかしさがこみ上げてきた。


「ほかの人帰ってきたわよ?どーすんの?」


まるで松田さんはこの状況を楽しんでいるかのようにニヤニヤ笑った。


僕は全く楽しくなかった。


ど、どこか隠れる場所は...


見つけた、でもほぼ100%見つかる場所だった。


それは荷物入れの棚と壁の間の隙間であり、丁度そこは角っこで人1人入れるスペースがあった。

しかしそこからは一部の人しか死角で、普通に横に荷物を置いている人からしたら、余裕で丸見えだ。


でももう他に隠れる場所は見つからなかった。

僕は2人の下着をはいたまま、シャツとズボンを持ちそのスペースに急いで入った。


「ははっ、馬鹿すぎでしょ、余裕で見つかるわよ」


松田さんが全裸で笑いながら言ったが、僕は返事をしなかった。


ついに、ドアは開かれた。


こちらからは死角で誰が入ってきたかは見えない。

でも声でわかった。


「鍵ここに落ちてたし...ってあーん?まだそんな格好でここにいたの?松田」


杉田さんの声だった。

そう言えば、女子更衣室の鍵を落としたまんまのことを忘れていた。


「ぷはっ!全裸きも〜い」


今度は日比さんの声だった。


やはりこのふたりが犯人だった。


「ん?あれ?松田さん、それ誰の制服もってるの?あなたのはそこにあるビリビリに破けたやつでしょ?」


日比さんが嫌味ったらしく言う。


「あーこれ?あんたのだよ」


ここからだと、松田さんの姿だけは見えた。

制服を見せびらかしているようだ。


「は?まさかそれ着ようとしてたわけ?」


日比さんの声が豹変した。僕は思わずゾッとした。

日比さんが松田さんのとこまできて制服を無理やり取り返し、その後蹴り倒した。


「汚ねえ手で触ってんじゃねーよ!クソゴミがぁぁぁ!!」


日比さんが豹変しきった顔で発狂し殴り続けた。


「てかそう言えば、全然ほかの女子来なくね?」


杉田さんが疑問に思ってそう口にしたが、僕もそう言われてみるとなんだかおそいきがした。


「ん?外なんかざわついてね?それになんかドアの前に誰か立ってるっぽいし」


僕も耳を澄ますと、たしかに外で女子達がざわついてるのがわかった、何を言ってるのかまでは聞き取れないが、なにか外であったのだろうか。


「知らないわよ...」


日比さんがイライラして肩で息をしながら答える。


「あ、どっかいったっぽい、どーなってんの?」


杉田さんがドアノブを捻ってるのか、ガチャガチャと音がする。


「は?ちょあかないんですけど!?」


「は!?」


日比さんの声が裏返った。


え、閉じ込められた?さっき2人が女子更衣室に入ってきて、鍵をいじる様子は見ていないけど多分なかったはず。

それに女子更衣室は中から鍵はかけれない。つまり外の誰かが鍵を閉めたのだ。


さっきの女子のざわつきはそれが関係して?

でもいったいだれが...


「ちょ!誰か!誰かいないの!?」


杉田さんがドアを叩きながら叫んでいるようだった。


「あなたの仕業?」


日比さんのドスのきいた声が聞こえた。


「私じゃないわよ」


松田さんはこの状況に驚いても焦ってるようにも見えなく、ただこの中で1番冷静だった。


僕は多分1番焦っていた。このままだとこの怖い女子2人に見つかってしまうのも時間の問題だ。もし見つかったら刑務所だ...


刑務所という単語が頭から出てくる度に僕の焦りが増していった。

それにこれから松田さんも2人に酷い目に合わされるに違いない...

僕が守るって決めたのに...


っ!?


そこで僕は閃いた。この状況を打開する方法を。


「じゃあ他に誰がいんだよ!?」


「だから知らないわ」


「てんめー...ムカつくんだよその余裕ですアピールの顔がよ!」


日比さんが松田さんをまた殴り続けた。

松田さんはやり返そうとせず、ただ憐れむように日比さんを見据えていた。


僕は拳を強く握りながら必死に怒りを抑えた。

まだだ...これじゃあまだ弱い...


杉田さんはずっとそれを焦りながら見つめていた。


「ちょ、ちょっとやりすぎじゃね?」


杉田さんが日比さんを止めようとする。


「は?まだまだ足りないよこんなの、ナイフ、カッターナイフない?」


な、ナイフ!?日比さんは松田さんを殺そうって言うの!?


しかもそれをきいた松田さんは怖がる様子も見せず、ただ見下すように笑っていた。


「い、いやさすがにナイフはやばいって」


「うるせーんだよ!いいからナイフ貸せって!」


完全に日比さんの性格も豹変していた。ここまで来るとは、完全に日比さんは狂ってる。


杉田さんはその変わりきった日比さんに圧倒されたのか、焦りながらバックからハサミを取り出した。


「ナイフはないけど...ハサミならっ」


日比さんはすぐにそれを奪い取り、ハサミを逆持ちにした。


「私を殺すの?いいね、やってみせてよ」


松田さんは相変わらず不気味に笑っていた。


松田さんなんでそんな挑発を!

でもこれで確実に勝負ができる!


僕の手には汗が滲みでていた。


「あの世で後悔しろ」


日比さんがハサミを振りかざそうとした時、僕は飛び出した。


「そこまでだよ!」


3人の目線が僕に集まった。


しばらく沈黙が訪れ、やがて日比さんの手からハサミが落ちた。


「...は...は...?なんで男子がここに...って加世堂くん?なにして...って、え...?それ私のパンツ...ブラジャー...」


明らかに日比さんの顔から血の気が引いていた。まるで僕を殺人犯を見るかのような目だった。


「加世堂...お前そんな童顔のくせして...変態だったのかよ...」


杉田さんは日比さんほどではないが、変態を見る目だった。いや、杉田さんからは変態を見ているつもりだろうが。


「ははっ、なんで出てきたわけ?」


松田さんは呆れながらそういった。


「さすがにあのまま放っておくわけにはいかないでしょ?」


「そ、それ...生ではいてるの...?」


日比さんは動揺を隠しきれないまま、僕の下半身を指さした。


「違うよ、この下にちゃんとはいてるよ」


「そ、そうなんだ...ならまだよかったわ」


場が狂ってるのかこんなことに日比さんは安心していた。


「この下は杉田さんのパンツだよ、だから生なのは杉田さんの」


僕は白いパンツを少し脱ぎ、下に杉田さんの黒いパンツもはいているところを見せた。


「は、は、はぁぁぁぁ!?加世堂お前何してくれてんだ!まじでお前どうなるかわかってんのか!?警察に通報するぞ!」


杉田さんが怒鳴り散らした。


「別に僕は構わないよ」


「は?」


杉田さんが僕がそういうとは思わなかったみたいで呆気に取られた。


「でももし通報したら、僕がこれネットに流すから」


僕は後ろに隠していたスマホを2人に見せつけた。そして、画面の再生ボタンを押す。

さっきの日比さんが松田さんにしていたことが動画になっている。


あの時僕は持っていたズボンからスマホを取り出し、録画をしていたのだ。


「これ見せたら、杉田さんは知らないけど日比さんも僕と同じ刑務所行きなんじゃないかな、人を殺そうとしたわけだし」


「お、お前なにとってんだよぉぉぉ!!」


日比さんがこっちに突進してきてスマホを奪おうとする。スク水でまだ少し濡れているせいか、水が2滴飛んできた。


僕は落ち着いてそれを避ける。


「話を聞いてください、交渉です。もし僕を通報すればこれをネットに流します。もし僕を見逃す、そしてこれから一切松田さんと関わらないこと、あっあとこの下着を1日だけ貸してくれることを誓ってくれたらこれは流しません」


日比さんが歯を食いしばって黙って俯いた。


「やるじゃん、変態のくせに」


松田さんは初めて優しい笑顔を見せた気がした。それを見て僕も思わず笑顔が零れた。





「やっと今日も学校終わったな」


慎二が無表情で靴をはきかえながらいった。


「そうだね、今日はちょっと、いやかなり疲れたよ」


僕はぎこちない笑を浮かべる。

あの後、無事交渉は成立してその場はおさまった。


僕は女子更衣室からでようとしたが、閉じ込められていたことを思い出し、僕が通れるか通れないかくらいの小さい窓から何とか脱出した。


出た時はまだ誰も女子が来てなく、プールサイドでみんななにか捜し物をしているようだった。


あの時誰かが女子更衣室の鍵を閉め、女子達を引き止めてくれてなかったら今頃僕はパトカーに乗っていたかもしれない。


「俺も今日はいつもより疲れた」


「珍しいね慎二がそんなこと言うなんて」


僕達は正門に向ってグラウンドを歩き始めた。周りにも生徒はたくさんいる。


「まあな」


そして僕達は正門を出た。


「加世堂 真人、課題3つ目クリアだ」


僕の少し後ろを歩く疫病神が、生徒に透けながらそう言った。


もちろん僕の服の中にはまだ、重なり合ったリバーシがあった。僕は1日経てば返すと日比さんと杉田さんに言ったが、逆に返すなキモイ変態死ねと言われて、さすがに少し傷ついた。


「おい、加世堂」


疫病神に呼ばれたので僕は思わず振り返ってしまった。


「お前は今まで取り憑いてきた中で1番面白いやつだよ、ぐへへ」


まさか疫病神に褒められるとは思わなかった。でも僕は全然嬉しくなかった。


「真人ぉぉぉぉ!!しんちゃぁぁぁ!!」


聞き覚えのある声がし、疫病神の後ろから朝倉さんが巨乳を揺らし手を振りながら走ってきた。

朝倉さんは理由がわからないが怒った後、別に何も無かったかのように接してきた。僕はますます分からなかった。


「おお朝倉、お前服反対だぞ」


慎二が相変わらずの無表情と抑揚のない声で指摘した。

ちなみに反対というのは裏表のことだ。


「え!?嘘また!?」


朝倉さんが息を切らしながら自分の上半身を巨乳が邪魔そうだが見回す。


朝倉さんがブレザーを正しく着こなすと、思い出したように口を開けた。


「そう言えばさしんちゃん、あの後結局ミサンガ見つかったの?」


ミサンガ?なんのこと?


「ああ、見つかった」


「そっか!よかったね!でも驚いたよ、あのしんちゃんが女子更衣室の前で待ち伏せして急に女子達に、一緒にミサンガ探してくれっていうんだから」


...え?女子更衣室の前で待ち伏せ?

女子達と一緒にミサンガを探していた?

ミサンガなんか慎二はしていない。

じゃあ...あの時僕を守ってくれたのは...


僕は慎二の横顔を少し下から眺めた。

そこには相変わらず無表情の慎二が映っていた。
































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