課題2 女子トイレでうんこしろ

課題2 女子トイレでうんこしろ



スマホのアラームで起こされ、ベッドの上で上半身を起こした。


重い瞼が落ちないようたえていると、視界に化け物が横から飛び出してきた。


「うわっ!」


僕は驚きで目がさえ、同時に昨日の出来事が夢ではなかったことに萎えそうになった。


あとこの疫病神は家にまでついてきた。さすがにお風呂やトイレの時は見えない場所にいるが、それ以外はだいたいそばにいる。


「加世堂 真人、今日の課題を発表する」


疫病神が早速僕の前に現れたと思ったら、いきなり課題を発表するようだ。


昨日は初の課題で『女子のおっぱいを揉め』という僕にとって難易度が高いものだった。

そのせいもあり、今日の課題にも不安しか感じられなかった。


僕は唾を飲み込んだ。

疫病神をこちらに指をさしながら口を開いた。


「女子トイレでうんこしろ」


僕はうんちが漏れそうになった。




4時間目の授業が終わり、昼休みにはいった。

今日学校では朝倉さんとは少し気まづい雰囲気だった。

朝倉さんから昨日の話を持ち出すことはなかったので、僕もそうした。


「慎二、一緒にご飯食べよ」


僕は1番右端の席に座る慎二の元に弁当を持ってきた。


「ああ」


さすがに昼になると慎二の寝癖もおさまりつつあった。僕はどうやら勝手に脳が慎二の寝癖のおさまり度を判断する習慣を身につけたようだった。


僕は慎二の前の席に座って後ろを向き、対面する形になった。


慎二が弁当箱を開けて僕は中身を見た。

相変わらずの日の丸に卵焼き、たこさんウインナーにミートボール、そしてレタスとトマトだ。


「慎二の弁当、相変わらずいつものだね」


「ああ、お前は芋か」


慎二が僕の弁当箱を覗いた。


今日は課題の『女子トイレでうんこしろ』というのもあってお母さんに頼んで芋を入れてもらったのだ。


これですぐに便が出せればいいんだけど。


この課題一見昨日より、誰にもバレない可能性があるためリスクが低く簡単かも思うかもしれないが実は難関だ。

問題なのはおしっこではなくうんちだということ。

おしっこは学校でも何回かするタイミングは訪れるがうんちとなればそうはいかない。余程便通のいい人ならともかく、僕は学校ではあまりうんちをしたことがなく、来るかさえも分からないし、タイミングも大事なので難しい。


だからとりあえず僕は対策として芋をお弁当に入れてもらったわけだけど、心配で仕方なかった。



僕達がご飯を平らげ少し話していると、時はやってきた。


きたっ!うんちだ!


タイミングも昼休みというバッチリだ。いや待って、このまま耐えて、授業中に行った方がバレにくんじゃないか?


そう思った瞬間、かなり地上近くにうんちが接近していることがわかった。かなり勢いが良いみたいで我慢出来そうになかった。


「ぼ、僕ちょっとトイレ行ってくるよ」


よし、このまま人のいないトイレに...


「あ、俺も行くよ」


な、なんだって!?


今まで僕がトイレ行こって誘った時来てくれた時なんか1回もなかったのに、なんで今日に限って!


「い、いや、いいよいいよ、慎二は待っててよ」


僕は少し前かがみになりながら言った。


「いや、なんで待つんだよ、俺もトイレしてーんだよ」


「嘘だ」


「なんで俺が嘘つくんだよ」


ダメだ、慎二はどうしてもついてくるつもりだ。仕方ない、とりあえず一緒に行ってから、そのあと帰り道にお腹が痛いと言って引き返そう。


「わ、わかったよ、一緒に行こ」


僕達は人があまり通らない校舎まで来ていた。


「なんでここまでくる必要があるんだ?トイレならもっと近くにあっただろ」


慎二は真顔で疑問に思った。


「こっちの方がトイレ綺麗だからさ」


僕は少し漏れそうでお尻に力を入れながらいった。


「お前別にトイレの汚さとか気にしたことなかったじゃねーか、まあいいけど」


ようやくトイレについた。


中は本当に使う人もすくなく公立の割にトイレが綺麗だ。


僕と慎二はならんで小便をした。僕はフリだった。


「そーいや真人、結局昨日聞けなかったけど夏川の告白どーなったの?」


やばい、そう言えば慎二には曖昧にしたままだった。

このタイミングで聞いてくるとは思ってもいなかったので、どう返すか考える。


「え、えーと...夏川さん告白じゃなかったんだ」


僕はいつもより自分で動揺を隠せたと思った。大便を我慢しているからだろうか。


「え、そーなの?でもラブレターには好きって書いてたんだろ?」


そう言えば慎二には、しっかり手紙を見せてはいないことを思い出した。


「いや、ラブレターには好きって書いてなかったよ?ただ屋上に来いとしか」


「ふーん、ハートの便箋まで使ってたのにな、なかなかの思わせぶりじゃねーか」


慎二が真顔で小便をしながら言った。


僕達は手を洗い、再び廊下に戻り少し歩いた。


「いたたたたた...し、慎二僕ちょっとお腹痛くなったから先戻っといて」


僕はお腹を抱え、下手な演技をしながらそう伝えた。


「おお」


慎二は素直に帰ってくれて、僕は本気で漏れそうだったのでダッシュしてさっきのトイレに向かった。


ってえ!?


トイレの前には何故か朝倉さんがいた。

奥の階段から登ってわざわざこっちのトイレにきたのだ。


「あ、朝倉さん!」


僕はトイレの前まで走った。


「え!?真人?どうしてここのトイレに?」


朝倉さんも同じように驚いてるみたいだった。


「それはこっちのセリフだよ、なんで教室から遠いここのトイレに?」


僕が言える立場でもなかったが。


「だってここのトイレ誰も使わなくて綺麗だから、私いつもここ使ってるよ?真人も?」


朝倉さんはまた昨日のことを思い出したのか目が少し泳いでいた。


まさか僕がここのトイレを選んだ嘘の理由と一緒だなんて、かえって仇になった。


「う、うん。まあね」


僕はこうして、2度目の男子トイレにはいった。しかし、用は足さず朝倉さんが女子トイレから出ていくのを見計らっていた。


1分後くらい、ようやく朝倉さんが外に出ていくのを男子トイレから覗き、姿が見えなくなると僕はここから出た。


「あ、加世堂じゃん」


ビクッ!


横の女子トイレに入ろうと向かう途中、後ろから声をかけらた。

つい昨日聞いた声、神城先輩だった。


「し、神城先輩?な、なんでここに?」


神城先輩もここのトイレを?


はやくしないともう漏れてしまいそうだった。


「なにしにって、トイレに決まってんじゃん、ここのトイレ結花ちゃんがおすすめだって言うから来てみたんだよ」


朝倉さん!君は一体なんでおすすめのトイレなんか紹介してるんだ!しかもタイミングも悪すぎる!


「そ、そうなんですね」


「うん、てか加世堂、お前めっちゃ汗かいてるしさっきから体勢変だぞ」


僕はうんちが顔を出さないようお尻に力を入れすぎて、前かがみでお尻が突き出してるようなポーズになっていた。


「あ、いや...これはちょっとお腹が痛くてですね」


僕は必死に愛想笑いを見せた。


「大丈夫か?てか思い出した!加世堂お前、昨日結花ちゃんから聞いたぞ!お、お、お、おっおっぱいの研究してるって!」


もう話が終わろうかと思った時、神城先輩は昨日のことを思い出して顔を赤らめてきた。


朝倉さぁぁぁぁぁん!喋ったらダメだよォォォォオオ!


「ち、ち、違います...!おっぱいの研究ではなく身体の研究です!」


僕はそれより、もう漏れそうだった。


「え、そうなのか?おっ、おっぱいじゃなく身体の研究してたのか?」


僕は物凄い勢いで頭を振った。


「なんだそーだったのか!結花ちゃんがあんなこと言うからお前変態に目覚めたんじゃないかと思ってたんだ、なんだそーかそーか、よかった〜」


何故か満足した顔になって、神城先輩はそのまま女子トイレに入っていった。


もしかして神城さんって...バカなのかな?


僕は3度目の男子トイレに入り、今度は神城先輩が出ていくのを見計らった。


朝倉さんより遅く3分くらいたった頃に出てきた。多分大便だったのだろう

僕はこの3分が1年くらい長く感じた。


や、やっとトイレができる!


僕は神城先輩の姿が無くなることを確認すると、急いで初の女子トイレに入った

もう僕の中で女子トイレに入ることに羞恥心はなかった。


1番手前の個室に入り、ズボンを脱ぎ勢いよく便座に座った。

コンマ0.1秒の差で僕の汚物が勢いよく下流した。


天国だった。


多分僕の顔は緩みきっているだろう。


ゆっくりもしてられないので、便を終えるとトイレットペーパーを取ろうとした。


僕はその時絶望を覚えた。


ないないないないない!トイレットペーパーがない!


非常にまずい事態に陥った。

このままお尻を拭かずに出ていくことはさすがに躊躇われた。

今ここの女子トイレには僕一人、おそらくこの人気のないトイレには今日はもうこないだろう。


そう信じて僕は下半身丸裸で扉を開け、隣の個室からトイレットペーパーを取ろうとした。


しかし、扉を少し開けた瞬間目の前に朝倉さんがいた。

僕は勢いよく扉を閉めた。


え、なんでいるの?しかも焦っていたせいで全然足音に気づかなかった。


バレた...?


「うわっ!ビックリしたよ〜急にドアあいたと思ったらまた急に閉まるし、あのすみません、そこに私のスマホ落ちてませんか?」


よかった、奇跡的にきずかれていない。


僕は周りの地面を見ると、壁際にオレンジ色のカバーのスマホが落ちていた。

さっきはトイレに夢中だったのでスマホが落ちていることには気づかなかった。

トイレにスマホを落とすとは、災難だなと思う同時にやはり天然だなと感じた。


「あっ...」


危ない、危うく「あったよ」と声を出し切ってしまうところだった。


「ん?」


朝倉さんが多分ドア越しで首を傾げている。


僕はスマホを拾い上げ、そのまま下からスマホを通した。


「あっありがとうございます、すみませんご迷惑かけて」


朝倉さんがお礼を言うと、足音で去っていくのがわかった。


「ふぅー」


僕は思わず安堵の息を漏らし、恐る恐る扉を開けた。


よし、誰もいない。


僕は急いで右隣の部屋に入り扉をしめ、そのままその部屋でお尻を拭いた。


助かった、もう安全だ。いや、まだ油断はできない。

あとはここから誰にも見られず脱出するだけだ。


僕はここの扉を開けようとした瞬間、足音が聞こえてきた。しかも1人じゃない、数人だ。


「ここなら誰もこないねぇ〜」


声が高めの女子の声が聞こえてきた。

その声に少し聞き覚えがあった。クラスメイトの日比 ひなた(にちひ ひなた)さんだった。声のトーンからして間違いない。


「そうだね、ここならゆっくり楽しめるよ」


次に聞こえてきたのは女王様のような声だった。この声にも聞き覚えはなかった。他のクラスの子だろうか。


「てかなんか臭くないっすかぁ〜」


また新しい声?何人いるの!?

でも今回はまた聞き覚えのある低い女子の声だった。

日比さんと同じ僕のクラスメイト、杉田 友美(すぎた ともみ)さんだ。ギャルっぽくて話し方もギャルっぽかったので印象に残っている。


でもなんで女子が3人も!?連れションってやつ!?

女子もするの!?でもさっき遊ぶって言ってたけど...


「って!きんも!先輩!このトイレうんこ流されてないっすよ!」


しまった僕だ、急いでたもんだから流すのを忘れてしまっていた。


「流しといて」


「了解っす」


水の流れる音が響きわたる。


「ちょっと待ってください先輩、ここ人が入ってますよ」


やばい


杉田さんがここのトイレに人(僕)がいることを話した。


「なんだい、ここのトイレに来る人いたんだね」


女王様の声が聞こえてきた。声の雰囲気からして多分この人が先輩なのだろう。


「おい!はやくここからでろ!」


杉田さんが怒鳴りあげる。


え、えええ!?嘘!?無理やり出す気なの!?さすがにこーいう怖い女子達に僕がいるとバレると完全に人生のゲームオーバだ。


扉を蹴る音が聞こえる。


絶対にバレるわけにはいかない、このまたずっと黙ってよう。


「おい!聞いてんのか!」


杉田さんがまた怒鳴りあげる


「いないんじゃないの〜?こんなに言って返事もしないって」


日比さんの緩い声が聞こえてきた。


「でも鍵閉まってるし」


「上から覗けばぁ〜?」


「そうだな、おい松田!ちょっと上から覗け!」


やばい上から見られる!そうなったら完全に終わりだ

しかも松田って誰?もしかしてまた新しい人?多分女王様のことではないだろうし。


すると、扉の上の縁に2つの手が置かれたのが見えた。


や、やばい!終わった!見られる!


「絶体絶命だな、ぐへへ」


前の壁際をみると、いつの間にか疫病神がいてニヤニヤ笑っていた。


僕はせめて顔を見られないよう下を向こうとしたが、どっちみち男がいるのがバレると、このドアも突破されるのでやめた。


ドアの上から頭も見えてきた。

そして松田さんと言われるであろう顔が見えてついに僕と目が合ってしまった。


その松田さんは僕と目が合うと、細い目を少し見開いたが、やがてすぐに元の顔に戻った。


おわった...僕の人生...


身体中から大量の汗が滲み出ているのがわかった。


松田さんが手を離し、着地する音が聞こえる。


「別に誰もいなかった」


松田さんは冷たい声でそういった。


へ?なんで?


完全に松田さんとは目が合った。

僕の存在に気づかないわけがない。


なら僕を庇ったのか?


「ほらね、やっぱり誰もいないじゃん〜」


「じゃあなんで鍵だけ閉まってんだよ」


杉田さんの声のトーンから少しイライラしてるのがわかった。


「もういいだろ、それよりはやく遊ぼうか」


ドンッ!と結構でかい音が右隣の個室から聞こえてきた。


なに?なにが起きてるの?


「友美、バケツ水もってきて」


「了解っす先輩!」


多分杉田さんが僕のドア越しの前を走ってるであろう音が聞こえた。

水道から水が流れる音が聞こえてきて、やがて止まるとまたこちらに帰ってきた。


「3人でカウントダウンしましょうよ〜!」


日比さんの楽しげな声が聞こえてくる


「おっいいねぇ〜」


「じゃあいくぞ?」


「「「3!2!1!」」」


その瞬間水のバシャンという音が聞こえてきて、こっちに水しぶきが少し飛んできた。


まさかこれって...


隣の扉が開かれるのが音でわかった



「はははは!松田さんってキモイよね〜」


「先輩の彼氏奪うからだよばーか自業自得だよ」


「次はもっと酷い目に合わせてあげるから」


そうして3人が僕の個室の前を歩いていくのがわかった。


「先輩こわ〜い」


杉田さんが不気味に笑った。


そして、3人の足音と話声が聞こえなくなると僕は扉を開け、右の個室に移った。


そこには全身びしょ濡れの松田さんがお尻をついて座っていた。


松田さんの顔は怒ってるふうにも悲しんでいるふうにもみえず真顔というより真剣な面持ちでいた。


「どうして...」


「なにがよ変態」


変態呼ばわりされたが、今、その言葉は僕の胸には響かなかった。


「なんでさっき僕を庇ったんですか...もしかしたらこんなことにはならなかったかもしれないのに」


僕は俯いて顎に力が入り、拳を握りしめた。


「別に、めんどくさかっただけ」


松田さんが横を見ながらそういった。

松田さんはそのまま立ち上がり、僕の横を歩いていく。


「じゃあね変態」


松田さんが背を向けたまま、右手をあげて去っていった。


僕はあの時どうすればよかったのだろうか。


心のモヤモヤを晴らせないまま僕が女子トイレを出ると、そこには疫病神がいた。


「加世堂 真人、課題2つ目クリアだ」


僕は全然嬉しくなかった。














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