第3話 主夫道(味噌汁限定)

「俺思ったんだけどさ、和太のその『思春期症候群』だっけ? もしかしたらどうにかなるかもしれないぞ」


 俺と蓮人がいつもの屋上に向かった時、開口一番にそう告げられた。


「は? マジ⁉」

「あくまで仮説だけどな」


 手ごろなところに座り、俺は購買で買ってきたパンを、蓮人は弁当を広げ食べ始める。

 いつものように俺は蓮人から差し出された紙コップに右手を出し、これまたいつものごとく味噌汁を注ぐ。

 正直この奇々怪々な事が起きている日常に慣れつつある。もう慣れれば周りが見れば驚くようなことでも俺たちにとっては日常のワンシーンにしか過ぎないんだなと改めて思わされた。

 紙コップを蓮人に渡す。蓮人は「サンキュ」と軽く言い、そのまま紙コップの味噌汁を啜る。

 一息ついたところで蓮人が口を開き、


「俺も簡単に『思春期症候群』の事を調べたんだが、簡単に言うと「個々の悩みなどが直接的な要因が重なること」らしいな」

「てことは知らないうちに悩みがあったってことだな」

「そうなるな、それで和太よ。お前は確か一人暮らしだったよな?」

「ああ、それがどうした?」

「ズバリ! お前は美味い味噌汁を欲している!」


 ビシッと勢いのついた蓮人の人差し指が俺の顔にさされる。


「和太確か前に「インスタント味噌汁に飽きたな」と言っていたよな」

「まあ言っていたけど、それで『思春期症候群』をこじらせたとでもいうのか」

「ああそうだ。でなければ和太の『思春期症候群』は出なかったはずだ」


 正直確かに蓮人の言う通り、朝食でいつも飲んでいるインスタント味噌汁に飽き飽きはしている。

 だがまさかそれが引き金で『思春期症候群』になったなんて正直笑うしかできない。そこまで俺は意識していないうちに味噌汁にこだわりを持つ人間になったなんて自分自身気がつかなかった。

 

 ――よし。


「蓮人、俺はこの『思春期症候群』を止めるために極上の味噌汁を作るよ」

「よし――主夫〝国崎和太〟の誕生だな」

「俺は至高の味噌汁を作るぞ!」


 こうして俺はこの日から俺が満足する至高の味噌汁作りが始まった。

 


 てかよくよく思うと『思春期症候群』って思春期の少年少女が自ら抱えているストレスによってこじらす不思議な現象だよな……。

 そう考えると俺の思春期――味噌汁関連のストレスって……。


 あー、思春期ってなんだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る