第2話 『思春期症候群』

 ――『思春期症候群』は突発的に発症するものらしい。そしてそれらの事象には個々の悩みなどが直接的な要因が重なることで初めて『思春期症候群』として発症する。

 

 俺が見てきた幾多のまとめサイトにはそう記してあった。

 確かに『思春期症候群』ってやつはとても突発的に起こるものだ。最初は特に生活に支障がないくらいなただの「気づき」くらいでしかないが、時が経つほど『思春期症候群』は生活レベルまでに支障をきたすらしい。

 実際に見た書き込みでは「自分の存在が気づかれていないのか、まるで自分が透明人間みたいだ」という書き込みがあった。

 その時俺は『思春期症候群』にかかっておらず、他人事のように大変そうだなという位にしか思っていなかった。


 しかし、いざ『思春期症候群』にかかってみると大変なものだった。


 俺の場合は書き込みみたいに微小な気づきみたいなものではなく、本当に突発的に起きた。

 ただ朝、洗面所にて歯を磨いて学校に行く準備をしていた。

 いつもの日課で歯を磨がいた後に顔でも洗おうと蛇口から水をすくい、その水を顔に近づけた時、いつもにはない違和感を感じた。


 水に――味がするのだ。


 急いで顔を上げる。

 そこで見た光景は、自分の右手から茶色い液体――味噌汁が噴き出ているという世にも奇妙で奇々怪々な光景だった。


「……は?」


 その場で固まってしまった。正直脳の処理が追い付かない程、目の前の出来事は俺にとって衝撃的だった。

 しかし固まってもしょうがない。

 だが味噌汁はふきだしたままで止まる気配は微塵も感じられなかった。

 幸いポケットにスマートフォンを入れていたこともあって俺は通っている学校に「体調が優れないので休む」という連絡を入れ、今日一日は様子を見ることにした。


 ――そして味噌汁は約一日後に吹き出すのが収まった。





 ※






「で、結局和太の『思春期症候群』の要因ってなんだ?」

「知るか、寧ろ俺が知りたいくらいだ」


 俺たちは今日もまた学校の屋上で昼食をとる。毎度のこと蓮人は紙コップを持参してきており、俺の出す味噌汁をもらう気満々でいる。忌々しい奴だ。

 今日も俺は右手を出して紙コップに味噌汁を注ぐ。そして毎度のことに俺は蓮人に『思春期症候群』についての愚痴を述べる。


「こんなうまい味噌汁飲めるとかお前将来は主夫にでもなれるんじゃないか?」

「手から味噌汁が出る主夫なんていたら不気味だろ。てか第一こんな衛生的に不安な味噌汁誰が飲むんだよ」

「俺は飲むぞ」

「お前は鉄の胃袋だから例外だ。他は飲まないと思うぞ」


 そう言い俺はパンを食べる。

 弁当を食べている蓮人も俺が注いだ味噌汁を飲みながら「うまいんだけどな」とぼやいていた。まあそういってもらえるのは嬉しいんだけどな。


「とにかくどうすれば俺の『思春期症候群』はなくなるんだ?」

「俺は和太の味噌汁飲めなくなるのは残念だけどな」


 そうぼやきつつ、今日も俺たちの昼食は終わっていった。





 

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