手から味噌汁が出るようになった俺の日常

二魚 煙

第1話 思春期=味噌汁

 『思春期症候群』


 思春期の少年少女たちに起こると噂される、不思議な現象。オカルトじみた出来事についての噂話。「他人の心の声が聞こえた」とか、「誰々の未来が見えた」とか、「誰かと誰かの人格が入れ替わった」とか、そういったにわかには信じがたい都市伝説の類。またこれに属する類。


                      ――Wekipediaより抜粋




 ネット上で今ひそかに話題になっているという『思春期症候群』について今日も調べているがやはりそれらしき記述はない。

 どうやら思春期の少年少女が不思議な体験をしたという書き込みは毎日一~二個くらい書き込まれている。

 だがそこに書き込まれている体験と言うのは「他人の心の声が聞こえた」や「誰かと誰かの人格が入れ替わった」や「自分と瓜二つのドッペルゲンガーが現れた」などといったまさしく不思議な事象だけだ。


 だから俺は認めたくない。こんなものが『思春期症候群』だという事を。


「おーい、和太。いつもの」


 俺は隣に座って弁当を食べている友人、金崎蓮人が差し出した紙コップに右手を出して――熱々の味噌汁を注いだ。


「サンキュ」


 蓮人は紙コップに注がれた味噌汁をちびちびと飲みだす。


「おい」

「何だ和太よ? あ、今日も味噌汁上手いな」

「お前流石に慣れすぎじゃないか? てかよくこんな得体のしれない味噌汁飲めるよな」

「まあ和太が出した味噌汁だから大丈夫だろ」

「どんだけ信頼性あるんだよ俺⁉ もうちょっと警戒しろよ、主に保健衛生上の見地から」


 俺はやれやれと溜息をつき、思春期症候群の事を調べていたスマートフォンをスラックスのポケットに滑り込ませる。

 てか蓮人の奴まだ味噌汁飲んでるよ……、もう腹を壊そうが何しようが俺は責任を取らないっていう念書でも書かせよう。

 にしてもだ。


「本当に俺はこんな能力みたいなのが『思春期症候群』だなんて絶対に認めたくないっ!」


 園崎和人、十七歳の高校二年生。巷で噂の『思春期症候群』になりました。

 

 ――手から味噌汁が出せるという奇々怪々な『思春期症候群』に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る