第15話熱海区にて、飢えた生存者達は
荒んだ眼付きの男が、マンションの屋上で息を潜めていた。
上園浩也(うえぞのひろや)は啓介と同じ職場なので彼を知っていたが、どの辺に住んでいるのかはわからない。
このあたりに住んでいるという書き込みを目にし、それに釣られてやってきたのだ。
(あぁもう…どこだよ)
浩也が苛立ちながら歩いている頃、沢渡明慶(さわたりあきよし)は啓介が暮らすアパートに向かっていた。
私的に付き合いがあるので彼の家にも行ったことがある。愛車のバイクを駆り、啓介の自宅近づくにつれ、空が明るく、人の目が増えてきた。
火の手があちこちで上がっているのだ。既に先客が来たらしい。
助けるべきか、それとも経験値目当てに殺すべきか。迷いながら明慶は踵を返し、心当たりを巡る。
啓介はその頃、熱海区の境から少し外れた位置にある倉庫に監禁されていた。
強固なアリバイを持っていた為、既に釈放されていたのが裏目に出たのだ。下手人はスマホを眺め、イベント開始時刻を待つ――隣室の住人である。
何度か顔を見た事があるので、知っている。彼は小豆色の甲冑に身を包んだ人物に、啓介を縛らせていた。羆のような怪力で猿轡も嵌められたので、呻く事しかできない。
晃達も遅ればせながら到着。
香奈枝の姿は無い。戦闘になった場合に負傷する恐れがあるし、なによりやってもらいたい事があった。
啓介がどこの出身で、どのように暮らしてきたか?トラブルになった人物が怪しいと、信二は踏んでいる。
動体探知レーダーで周囲を探る。
バディの反応に近づいていき、ターゲットを確保していないと悟ると距離をとる。
2人からやや離れた位置を、バディが並走。召喚しっ放しの場合、見つかるリスクが増すが身の安全には代えられない。
「こんなんで本当に見つかるんですか?」
「知らん」
ターゲットとバディが重なっている場合、レーダー上でどう処理されるのか分からない。
いや、それ以前にターゲットと他の一般人と区別がつかないのだ。熱海区だけで6万以上の人口がある、香奈枝を連れてこなくて良かったと信二は思う。
発見の確率は増すが、彼女を危険に晒したくない。角地の駐車場の前を通る頃、民家の屋上を走っていたバディが、彼らの頭上に跳んでくる。
左手前方の倉庫の屋根で閃光が生まれた、直後に銃声が破裂。晃のバディが、2人の目前に墜落した。
目で追った先にいたのは、モスグリーンの甲冑に身を包んだバディ。
サメを象った甲冑。名前のあるバディだ。晃はこれという名前が思いつかなかったので、彼のバディは未だに無名のままだ。
遊んでいるのもあるまいし、と思った。詳しく聞いた事は無いが、幼馴染が重体らしい信二がバディの名前を気にしている事の方が驚きだ。
「晃、相手を頼む」
「え――」
「俺はプレイヤーを探す」
信二と復讐者は晃を置いて走り去る。
小さく毒づきつつ、屋根の上にバディを差し向け、自身は射線に入らないよう身を潜めた。
鮫頭のバディ、菜々のジョーズはライフルをガトリングガンに持ち変える。
青い甲冑のバディは保身を考える事無く突っ込んでいく。鋼弾の嵐に飛び込む格好になり、見る間に減っていくHPの値が、晃のスマホに表示される。
「ちょっと、避けろって!?」
晃のバディは飛びすさり、ショットガンを連射。
ジョーズは銃身を回転させながら、器用に後退。屋根から身を躍らせた。
追うべきと思ったが、HPが心許ない。射程は相手の方が長いらしい、突っ込んだら返り討ちにされそうだ。
(やっべ、マジか…どうしよう?)
困惑する晃の耳に、唐突にエンジン音が飛び込んできた。
首を動かし、轟音の源を探す彼の視界に、茜色の尾を引く彗星のようなものが3つ映った。
それは猛烈な勢いで空気を燃焼させながら、晃に近づいてくる――ミサイルだ。3本のミサイルが、戦闘を行っていた地点目がけて発射されたのだ。
ミサイル、とは思わなかったがこのまま立っていては危険と判断。踵を返しながら、バディを呼びつける。青い甲冑の人物は全身ボロボロのまま、疾風のように晃は攫うとその場から走り去った。
「盛り上がってきたね…、どいつもこいつもタガが外されりゃこんなもんか」
青いバディを撃退した倉庫一帯からあがる火の手を眺めながら、菜々は独り言ちた。
菜々は双眼鏡を使い、数百mほど離れたビルから倉庫を見張っていたのだ。
彼女は啓介に擬態した満貴が起こした事件に乗じ、警官を経験値に変える事でバディのレベルを12にまで上げていた。
菜々はバディに抱えられたまま、熱海区から離脱。
啓介の隣室に住んでいた弓坂将は、結局時間一杯まで逃げ切った。
断続的に遠雷のような戦闘音が響き渡り、生きた心地がしなかったが、運営のメッセージはすぐにはこなかった。
イベントが開始して数分後、啓介の死亡を確認した満貴は将に連絡。
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