第14話満貴の敵ナンバーワン

 啓介の顔で悪の限りを尽くした数日後。

満貴は自宅のPCで、海塚市内のニュースを探して読み漁っていた。

深夜、都心の宝石店が襲撃されて数億円相当の金品が奪われた事件、住宅地で立て続けに起こった爆発、そして河合啓介による大量殺人。

自衛隊、警察関係者には入場券が渡らないよう調整している為、手をこまねいているらしい印象を受ける。


 以前無償アップデートにいった者は含まれているだろうか?

もしそうなら嬉しいのだが、と機嫌が良かったのはそこまで。満貴は稼働状況を見て溜息を吐く。


――参加プレイヤー数:37744人、死亡プレイヤー数:697人


(じわ売れ過ぎるww、みんなノリ悪いww)


 思い切ったガジェットが必要かもしれない。


(なんだろ…、時間制限つけるとか?)


 よくあるデスゲームだと、独りも犠牲者が出ない場合に全員死亡するという仕掛けがある。

使えそうとは考える半面、気が進まない。満貴としては、プレイヤー達に義務感や恐怖を抱いてほしくないのだ。

欲望を煽るような形がいい。必要に迫られて、というのは稼働状況を増やすという点では都合がいいのだが…。


(違うんだよ!もっとこう、○○引いた~!とかSNSであげちゃうくらいの気軽さで使ってほしいの!!)


 やる気になっているプレイヤーは多いが、行動がみみっちい。

自分もその例に含まれるかもしれないが、あいにく主義も主張もないのだ。

満貴は真面目なテロリストではない。ありあわせの材料で遊んでいる子供のようなもの。


(うーん…みんなのレベルの上りも悪いしなー………いいこと思いついたww!)


 満貴の顔に生気がみなぎる。

取り付かれたように文章を作成すると、全プレイヤーに以下の文面を一斉送信した。時刻は午後10:00。


 「河合啓介」討伐イベントのお報せ。

本日11:00時より、海塚市を震撼させた凶悪殺人犯「河合啓介」の討伐イベントを開催。

生活範囲等の情報を把握していないので自力で捜索していただきますが、プレイヤーで無いことは運営が保証します。

恐縮ですが上記の人物を討伐された方は申告をお願いします。バディの記録を確認し達成が確認され次第、剣「マグマソード」と経験値10万ポイントの進呈致します。


(フフフwwwwファーwwwナイスアイデアwww2年稼働させて未だにボス解放できてないとか、お前らマジ使えねェww)


 ついでに別地域でも、イベントを投げる。

海塚市ばかり舞台にしていては、他地域のプレイヤーが退屈してしまうはず。

アンケートを取った訳ではない、満貴の頭の中にいるユーザーの意見に応えて、彼は精力的に動いた。


 満貴が送ったメッセージは、プレイヤー達を電流となって貫いた。

やる気のない者達はその悪辣さに口を閉ざし、嬉々としてバディを受け入れた者達は成功報酬に目が釘つけになった。

経験値10万ポイント。警察官や軍人を1人当たり100ポイントの相場を一撃で粉砕する高さ、しかも相手はプレイヤーでないと言う。


「こうしちゃいられないねぇ…」


 菜々は持っていたバカルディのグラスを一息に煽ると、変身。

胸に掛かる程長い髪にゆるいウェーブを掛けた、ややアヒル口気味の20代女性に変身。

その時、菜々のスマホにメッセージが届く。画面を見ると、神妙な顔で操作。不敵に笑う。

イベントが開始する数分前、バディに抱えられて自宅を飛び出した。


「うわ…」


 清田怜雄は文面を見た瞬間、思わず顔を覆った。

自宅のある学区に罠を仕掛け、ポーンを潜伏させて安全地帯を構築している矢先にこれである。

現状に満足している為、参加する必要はないのだが大幅レベルアップを果たしたプレイヤーは脅威だ。

せっかく整えた縄張りを荒らされたくない。自分で始末しにいくべきかとも思ったが、直接対決の自信はない。


 唸る怜雄だったが、自分が出て行く必要はないと思い至った。ポーンに行かせよう。

彼の部屋には宝石店で強奪してきた金品がどっさり置いてある。金目当てではなく、ポーンの素材にするのだ。

幾つか実験用に消費してしまったが、確かに戦闘力・行動精度ともに高い。


(一般人なら十分殺せるだろうけど…あー…でも、どれが一番高いんだろう?)


 宝石が核になるなら、値段が高い物ほど質も高くなるのではないか?

しかし、ただの中学生に宝石の鑑定など出来ない。ポーン達に宝石の選別を行うほどの知能は無いのだ。

動物の死体を使ってもいいかもしれない。強い動物……動物園に襲撃をかけてみようか?


 悩んでいる怜雄の元に、メッセージが届く。

運営から送られてきたそれは、怜雄の不安を大きく和らげる効果を秘めていた。


 晃達はイベント告知を受けてすぐ、LINEで集まった。

経験値に思わず目が引かれたが、晃はすぐに思い直す。ゲームクリアに興味があった訳ではなく、目的はあくまで自衛。

ゲームに乗った訳ではない。信二にしても、経験値の為に一般人を殺害したりはしないはず。


《これどうします?》

《助けに行った方がよくない?怖いけど》


 助けに行くべきとは晃も思うが、戦いになりはしないのか?

いや、やる気にならすぐにでも飛び出していくだろう。通行人が撮影した動画は既に幾つも拡散しており、テレビでも啓介の映像が流れている。

信二に意見を求めると、彼は件の人物を助けに行くつもりらしいが、単なる正義感ではないようだ。


《なぜ運営はこの男を殺害するように言ったのか考えている。この男が運営にとって都合の悪い人間なら、助けにいく必要がある》

《なるほど。でもどんな理由があるんだろう》

《本人に聞いてみればいい》

《正体を知ってるとか》


 3人は顔を見合わせた。

正体をズバリ知っているとは思えないが、近しい人物ではあるのだろうと信二はひとまず仮定した。


《じゃあ出ますか》


 晃はイベント開始を待つ事無く、自宅をこっそりと抜け出した。

信二に言わせれば、これでも遅いかもしれない。ターゲットの生活圏にプレイヤーがいた場合、その人物は他参加者より大きなアドバンテージを得る事になる。

結論から言うと、その懸念は正しい。熱海区の上空を10万ポイント目指して駆けまわるプレイヤーが3人、既に集まっていた。

十種神宝の一つ、八握剣を祭る熱海神宮のお膝元は、まもなく戦場に変わる。

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