第11話運営抵抗派、3名
ダンジョンの設置と場所がプレイヤー達にメールで知らされたのは、翌日の朝。
それから数日後の夕方、晃は海塚駅地下街のカフェに向かっていた。
運営に抵抗する気があるのなら、と信二のLINEから待ち合わせの日時が届いたのだ。
二つ返事で引き受けた彼が店に入ると、彼は既に席についていた。目の前のテーブルにはコーヒーフロートが置いてあり、頭を垂れたソフトクリームがグラスに満ちたコーヒーに溶けだしている。
「来てくれてありがとう。腹減ったんじゃないか?奢るから何か頼め」
「いや、いいっす」
「そうか?ま、何か飲みながら話そう」
晃は好意に甘え、豆乳ラテを注文した。
「実はもう一人来るんだ…」
「え」
「すまない。急に入ってきてな、いずれ会わせるつもりだったんだが…」
口ぶりから、もう一人について晃は察する。
「プレイヤーですか?」
「あぁ、一切戦闘していないのでレベル1。運営の正体を知りたいそうだ…あぁ、来た」
2人の席に近づいてきたのは、髪を胸にかかるまで伸ばした、小柄な女性。胸は薄い。
石津香奈枝(いしずかなえ)と名乗った彼女は、抹茶ラテを注文すると会議に加わった。
「学ランだ~。シンジから若い子が仲間に加わって聞いたけど、いくつ?」
「16です」
「アタシが26で、こっちは21。これからよろしく!」
香奈枝は表情を凛々しくするが、言葉の調子もあり茶化しているように見える。
「…運営の情報はあったか?」
「検索掛けたけど手掛かりゼロでさ~。類似画像は400件くらい拾えたけど、これだってモンは無いよ」
香奈枝はぼやきながら、自身のスマホを操作。
それからすぐ、信二は送られてきた画像群を黙って目で追い始めた。
食い入るように1分近く、不満そうに顔をあげた信二が破るまで、2人は沈黙を貫いた。
「確かに似てはいるが、どれも違う気がする」
「もう少し時間かければ、もっと拾えると思うよ?」
「頼む」
3人はそれから、小池区にあるダンジョンの攻略について話を進める。
場所は新小池ビル。小池区にある今沼駅の前に建つ地上6階、地下2階の雑居ビルだ。
辿った年月を感じさせるくすんだ色の外壁、テナントは殆ど撤退しており、今や入っているのは金融会社や居酒屋、成人向けの小劇場のみと言ったアングラな雰囲気を感じさせるものばかり。
プレイヤーが徘徊するには相応しいだろう。
「これってさー、前のイベントみたいに侵入する感じなのかな?」
「そうなんじゃないっすか?」
殆どの階が開いているとはいえ、閉鎖されてはいないようだ。
ビルに入っている店舗もある以上、戦闘になったら騒ぎになるのは間違いない。
「俺もそう思うんだがアイツの口ぶりからして、連中が人目を気にしている様には見えないんだ…」
「あぁ……そうっすね」
メッセンジャーの軽薄な口ぶりを思い出す。
そもそも彼らは、入場券に非プレイヤーの殺害を推奨するような文章を記している。
「ま、下見くらいは今からでも行けるだろう。俺も石津も独り暮らしだが、東は実家だよな?」
晃は頷く。
「戦闘を考えるなら一旦帰るべきだと思うが、どうだ?」
「じゃあ、一旦帰ってから行きます」
「おk。来れなくてもとりあえず知らせてよ」
3人は会計を済ませ、店を出た。
夜中の11時過ぎ、晃は外着に着替えて、窓から自宅を出て行く。
夜明けまでは出歩かないと思うが、学校に行く時間を考えると、中々ハードなスケジューリングになる。
それが大して気にならないのは、公園でプレイヤーを独り射殺している記憶があるからだ。
(ビビってるのか、俺…)
プレイヤーによる殺人現場を目撃し、故意ではないが一人の生命を奪った。
このまま進めば遠からず、自らの意志で殺める事になる。手を下すのは自分を抱えて跳ぶバディだが、無関係と構える事は出来そうにない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます