第10話どうすればみんな遊んでくれるだろうか?
「あォおww!!アツいw!熱いからw!これやめてぇww!」
燥いだ声を出しながら横転していたメッセンジャーは、唐突に身を起こして座り込んだ。
効いてないのか、と晃はメッセンジャーの底知れなさに圧倒された。
「ハァ~~なに?せっかくここまで来たんだから、早くクリアしてよ」
「…お前、名前は?」
「え?東です」
「俺は聞いた通りだが、高野だ。癪だが、ひとまずアレを倒すぞ」
晃は頷き、一時共同戦線を張った。
より運動能力の高い信二バディがイエーツォを撹乱し、晃バディがショットガンを見舞う。
信二が射出する火箭も、ボスモンスターにはよく通じた。
イエーツォを撃破した時、メッセンジャーはまだ火に包まれたまま座っていた。
「お疲れ様~!2人とも」
「まだいたのか?」
「ところで少年、トドメさしたの信たんだから、報酬は受け取れないよ~?」
晃は近寄ってきたメッセンジャーの意図を悟ったが、無視する事にした。
目の前の男が口にしただけだが、そのような事情のある人物から報酬を掠め取る気にはなれない。
運営を名乗る男に不快感を抱き始めていた点も、大きな理由だ。晃と信二はメッセンジャーを無視し、ダンジョンから脱出。
袖にされたメッセンジャーは荒れ果てた日本ガラスホールに独りで残される。
ノリの悪さに憤慨するポーズをとり、ふんと鼻を鳴らしてから姿を消した。
(やっちゃった~~wwwプレイヤーと話しちゃった、話しちゃった!顔変えてたけど)
自宅に帰ったメッセンジャー…満貴は玄関で靴を脱ぎながら忍び笑いをする。
満貴はこれまで作成したモンスターの姿・能力を扱える。これを応用し、メッセンジャーの殻を被って出歩いたのだ。
また、作成したダンジョンの内外を行き来する事で、瞬間移動すら行う事が可能だ。
(さーて…どうしよう。次のイベントでも考えるか~)
満貴は梨夏に留守を任せ、夜の海塚市の中心部に出現。
以前作成したモンスター、ミラージュストーカーの能力「姿が見えない」を利用して存在を隠蔽。
通行人を道路に放り投げ、交通事故を片手間に引き起こしながら、面白そうな事象を物色。
結晶体に触れて得た身体能力を存分に発揮し、信号機や街灯を踏み跳んでいく。鳥籠から出た野鳥の如き解放感。
当てもなく北に向かい、高架上のハイウェイに昇った満貴は1体のバディを目撃。
真っすぐ南北に伸びる道路の遮音壁に激突した車のボンネットに乗り、マシンガンを連射している。
火花を散らす前部座席は赤く染まっている。近くを通る車の運転手たちは一様に慄きつつ、先を急いだり、あるいは停車している。
満貴はプレイヤーのデータを呼び出し、現在地情報からバディの主を特定すると、彼の運転するマスダ・デミオのルーフに足を乗せた。
指を突き込み、強引に押し入る。運転手である男は驚愕し、スマホでバディを呼び出すが、彼のバディは主人の命令を拒んだ。
「あれ、くそ、なんで…」
「そりゃ運営ですしww運営が与えたモノで運営は殺せませぇんww」
「は!?運営」
「ま、ま、ちょっと話そうぜ。それよりさっきの見たよ~、中々楽しんでるみたいじゃん!あ、隠さなくていいからね、全部お見通しなので」
男は気圧されたようだが、強気な態度を堅守する。
「ん、なんだよ。ムカついたからやってやっただけだよ。ああやって使うんだろ」
「そう!よくわかってる~!けど見た目が良くないね」
男があぁ!?と凄んだ時には、満貴は車から飛び去っていた。
目は小さく、がっしりした体格の持ち主だが、全体に肉がついている。逆立てた金髪が如何にも醜い。
満貴が主役に据えるには相応しくない人物だ。ハイウェイからビルの屋上に飛び、明りの灯った街を眺める。
(ダンジョンを解放してみるか?)
プレイヤー数にも目立った変化はない。
(数が増えた割にレベルの上がり方が鈍い。多分、殺しへの抵抗があるんだろうな)
自分の手で殺害するより、人形に殺害させる方が抵抗が薄いだろう。
そう考えて召喚士の型を採用したのだが、どうすれば戦いを煽れるだろうか?
(ダンジョン……かなぁ~)
街のあちこちに自由に出入りできるダンジョンを作る。
趣旨に反するので得られる経験値は制限するが、人を殺さなくても経験値が稼げる。
レベルをあげたいが、人は殺したくない怠惰なプレイヤーはやってくるだろうし、彼らを狙ってやる気のあるプレイヤーも集まるだろう。
(…何事も実験あるのみ。よーし、ガンバルゾ――ww!)
満貴は自宅に帰り、ダンジョン化させる施設の選定を開始。
管理は手放す。常に一定数のモンスターが湧くように設定。戦闘に有用なアイテムを隠しておいてもいいだろう。
バディ同士の戦闘でも壊れない、被害が漏れないような配慮も必須だ。
選定した狩場は小池区にある廃ビル、守山区にある海塚市最高峰の寿和山。
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