第8話今月限定のボスイベント

 菜々のアップデートを済ませたメッセンジャーは、満貴の元に帰還すると姿を消した。

一度作成した魔物やアイテムは、満貴の内側に保存される。送り出したメッセンジャーが次々と還る中、満貴は戦いを煽るイベントの内容に考えを巡らせる。

満貴はソーシャルゲームを一切やらない為、どのようなイベントを起こせばいいのかよくわからない。


 リビングに座る満貴の耳には、先程からシャワーの音が聞こえている。

楓が浴室を使っているのだ。興味はあったが、覗きに行くつもりは無い。彼女の裸身など、瞼の裏にいつでも思い描く事が出来る。


(とりあえず検索してみるかなー、落とし込めるようなイベントあるかな…)


 満貴は試験的にイベントボスを放つことにした。

今回限定の報酬を用意して、プレイヤー全員に通達を出す。1か月経っても反応が無かったら消すつもりだ。


(やっぱガチャ要素とか入れなきゃ流行らないのかな~)


 興味は一切湧かないが、頭に留めておく。

しかし、survivors yardにどうやって落とし込もうか?管理の手間が増えそうなので、なるたけルールは単純にしたい。

また、徒党を組んで運営を倒そうとするプレイヤーが出てきた時、敵側の装備や物資が充実していると面倒くさそうだ。


(祭り的な大乱闘ならいいんだけど、寝込みにミサイル打ち込まれるとかは勘弁)


 満貴は四苦八苦しながら文章とボスの設定を作成。

準備を整えた翌朝、全プレイヤーに発信したボスイベントの概要は以下の通りだ。


 巨人「イエーツォ」が1か月限定で登場!!

撃破時に入手したアイテムを以下のアドレスに送っていただいた方に、限定報酬をプレゼント!

場所は海塚市南区の日本ガラス スポーツプラザ内にある日本ガラスホール。

イベントは翌日よりスタート。アプリを起動したまま、19:00~00:00の間に日本ガラスホールの南ロビーに向かっていただけると、ダンジョンに侵入可能。

アプリから報酬を送って頂いた方1名のみ、報酬を受け取ることが出来ます。奮ってご参加ください!


 メッセージを飛ばした満貴は立ち上がり、凝った肩を解すように回す。

小さ目とはいえダンジョンを形成、さらにアイテムも配置。モンスターを徘徊させる必要は無い。

中か、外か、ホールではプレイヤー同士で戦闘を行われるはずだ。文庫本を取り、栞を挟んだページを開いて読み進めて10分ほど後、シャワーの音が止んだ。


 メッセージを受け取った晃は翌日、ひやりとしたものを抱えながら家を出た。

アプリへの半径100mの動体探知レーダーの追加、バディにプレイヤーの得た能力に応じた強化を与える同調スキルの授与。

報酬は魅力的だが、あのメッセージに吊られるプレイヤーは自分だけではあるまい。

HR前の教室に入ると、挨拶もそこそこに岡田が顔を近づけてきた。


「おい、知ってるか?隣のクラスの吉田、失踪したって!」

「失踪って本当か?」

「昨日の朝から姿が見えないんで、親が警察呼んだってさ」

「……」


 晃はその夜、開始時刻に間に合うよう家を出た。

他のプレイヤーによる襲撃を警戒するなら、力を付けておくに越したことは無い。

参加者の数、平均レベルなど何も情報が出てこないので、不安ばかりが先行してしまう。今はとにかく行動したかった。


 己のバディを呼び出し、その身体に掴まって空を飛ぶ。

青い甲冑の人物は一言も口を利く事なく、澱みのない動きで近所の家々を飛び越えていく。

10分足らずで、2人は南区のスポーツプラザに到着。

スポーツプラザは大規模アリーナを擁する日本ガラスホール、プールとスケートリンクを擁する日本ガラスアリーナ・会議場やトレーニングルームを擁する日本ガラスフォーラムの3つで構成された、海塚市が誇る屋内総合体育施設だ。


(何やってんだ俺…)


 駐車場を突っ切り、銀色のドームに向かいながら自嘲する。

あのふざけたメッセージに釣られて真夜中にやってくるなんて、まるで経験値…嬉々として殺人しようとするみたいじゃないか。

ここで晃はアリーナに突入せず、周囲をそれとなく歩き回ることにした。周囲に人の気配が感じられなかったので、晃は後ろを不安に思いながら建物に入る。

襲撃を警戒してバディを引っ込める事無く、一緒に入る。

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