第1009話 再びの出会い(1)春

 凜と累が、制服を着てリュックを背負って並ぶ。

「似合うぞ、2人共」

 僕は言って、写真を撮る。

 御崎みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。

「ボク達の頃と、バッグも帽子も変わってるんだねえ」

 直も言いながらシャッターを切る。

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。

「敬の時は、まだバッグがリュックじゃなかったしな。

 似合ってるぞ、2人共。入園式が楽しみだな」

 兄がそう言い、凜と累は嬉しそうに笑った。

 御崎みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。

「当日、晴れたらいいわね」

 美里がそう言う。

 御崎美里みさきみさと、旧姓及び芸名、霜月美里しもつきみさと。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。

 今日は凜と累の幼稚園の制服が届いたので、試着してみたのだ。たんぽぽ幼稚園、僕や直、兄だけでなく、敬も通った幼稚園だ。

「でも、早いもんだなあ。もう幼稚園か」

 兄が感慨深げに言い、僕達は、凜、累、敬、優維ちゃんが一緒に写真を撮っているのを眺めた。

「美里ちゃん、事務所からそろそろ本格的に仕事に復帰しないかって言われてるんでしょ」

 千穂さんが言う。

 町田千穂まちだちほ、交通課の元警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だったが、執事の運転する車に乗ってから、安全性と滑らかさを追求するようになった。直よりも1つ年上の姉さん女房だ。

「うん。そうなんだけどね」

「手助けなら遠慮なく言ってちょうだいよ」

 冴子姉がにこにことする。

 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。

「ありがとう。まあ、少しずつ増やしてもいいかしら」

「そうよ。私も協力するわよ」

「ありがとう」

「凜も累も、入園式が待ち遠しいな。

 さあて。じゃあ一旦脱ごうか。それで、今度から、自分でリュックも帽子も服も片付けるんだぞ」

 凜も累も「はーい」といい返事をして、美里と千穂さんに制服を脱がされ、普通の服に着替えさせられた。


 緋川七美は、ドキドキしながら入社式の会場に入って待っていた。

 学生時代の緋川は、大人しく、積極的に友達を作れるタイプではなかった。なので、毎年新年度になる度に憂鬱だった。

 特に中学生の頃はいじめっ子がいて、よりにもよって3年間同じクラスになってしまったので、学校が嫌だった。毎年新学期前に、「今年は違うクラスになりますように」とドキドキとしたものだ。高校に入る前に父親の転勤で引っ越したので、いじめっ子だけはいなくなったが、それでも人見知りは治らなかった。

 と、見た顔が視界に入って、目を疑った。

「え……?」

「あら」

 その新入社員も、七美を見て足を止めた。

 そして、合点がいったような顔をした。

「緋川さん?」

 七美はオドオドとしながら頷いた。

「ひ、緋川七美、です」

「ああ!そうそう!中学で同じクラスだったわよね!久しぶり!」

 にこにこと、虐めていた事を忘れたかのような雰囲気だ。

「え?ええ。藤里和奈さん、よね」

「そうよ!元気そう。懐かしいわね」

 七美としては、いつ何をされるのかとビクビクものだ。

 が、和奈は苦笑した。

「いやあね、緊張してるの?」

「だって、藤里さん、いつも」

「それは昔の話でしょ。もういいじゃない、お互い忘れましょうよ。ね」

「え」

「あ、集合だって」

 和奈はさっさと歩き出し、七美はそれをあっけにとられたように見送った。

 そして、和奈の行った事を、頭の中でくりかえす。

「昔の話?いいじゃない?忘れましょう?」

 七美は、弾けるような笑顔でほかの新入社員達に話しかける和奈を見ながら、怒りが湧き上がって来るのを感じた。






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