第1009話 再びの出会い(1)春
凜と累が、制服を着てリュックを背負って並ぶ。
「似合うぞ、2人共」
僕は言って、写真を撮る。
「ボク達の頃と、バッグも帽子も変わってるんだねえ」
直も言いながらシャッターを切る。
「敬の時は、まだバッグがリュックじゃなかったしな。
似合ってるぞ、2人共。入園式が楽しみだな」
兄がそう言い、凜と累は嬉しそうに笑った。
「当日、晴れたらいいわね」
美里がそう言う。
今日は凜と累の幼稚園の制服が届いたので、試着してみたのだ。たんぽぽ幼稚園、僕や直、兄だけでなく、敬も通った幼稚園だ。
「でも、早いもんだなあ。もう幼稚園か」
兄が感慨深げに言い、僕達は、凜、累、敬、優維ちゃんが一緒に写真を撮っているのを眺めた。
「美里ちゃん、事務所からそろそろ本格的に仕事に復帰しないかって言われてるんでしょ」
千穂さんが言う。
「うん。そうなんだけどね」
「手助けなら遠慮なく言ってちょうだいよ」
冴子姉がにこにことする。
「ありがとう。まあ、少しずつ増やしてもいいかしら」
「そうよ。私も協力するわよ」
「ありがとう」
「凜も累も、入園式が待ち遠しいな。
さあて。じゃあ一旦脱ごうか。それで、今度から、自分でリュックも帽子も服も片付けるんだぞ」
凜も累も「はーい」といい返事をして、美里と千穂さんに制服を脱がされ、普通の服に着替えさせられた。
緋川七美は、ドキドキしながら入社式の会場に入って待っていた。
学生時代の緋川は、大人しく、積極的に友達を作れるタイプではなかった。なので、毎年新年度になる度に憂鬱だった。
特に中学生の頃はいじめっ子がいて、よりにもよって3年間同じクラスになってしまったので、学校が嫌だった。毎年新学期前に、「今年は違うクラスになりますように」とドキドキとしたものだ。高校に入る前に父親の転勤で引っ越したので、いじめっ子だけはいなくなったが、それでも人見知りは治らなかった。
と、見た顔が視界に入って、目を疑った。
「え……?」
「あら」
その新入社員も、七美を見て足を止めた。
そして、合点がいったような顔をした。
「緋川さん?」
七美はオドオドとしながら頷いた。
「ひ、緋川七美、です」
「ああ!そうそう!中学で同じクラスだったわよね!久しぶり!」
にこにこと、虐めていた事を忘れたかのような雰囲気だ。
「え?ええ。藤里和奈さん、よね」
「そうよ!元気そう。懐かしいわね」
七美としては、いつ何をされるのかとビクビクものだ。
が、和奈は苦笑した。
「いやあね、緊張してるの?」
「だって、藤里さん、いつも」
「それは昔の話でしょ。もういいじゃない、お互い忘れましょうよ。ね」
「え」
「あ、集合だって」
和奈はさっさと歩き出し、七美はそれをあっけにとられたように見送った。
そして、和奈の行った事を、頭の中でくりかえす。
「昔の話?いいじゃない?忘れましょう?」
七美は、弾けるような笑顔でほかの新入社員達に話しかける和奈を見ながら、怒りが湧き上がって来るのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます