第1010話 再びの出会い(2)ユキの結婚祝賀会
七美は、せっかく入社した会社だったが、行くのが嫌で嫌でたまらなかった。
あろうことか、和奈と同じ課に配属になってしまったのだ。
「いやあ、藤里さんは明るいし素直だしいいね!」
「ありがとうございます!」
ニコニコと笑う和奈と上司や先輩達を見る度に、七美は何度も酒に出しそうになった。中学の時と、同じ顔で、和奈が笑っていたからだ。
周囲の人間を味方につけて、コレと選んだ人間を孤立させる。次に、悪い噂やイメージをばらまいて、信用を無くさせる。そうなったら、本格的ないじめが始まる。
訴えても、悪い噂やイメージを植え付けられているので、誰もが和奈の言い分を信用するのだ。
取り巻きに囲まれて笑い、七美を蔑んだような目で見る和奈に、七美は恐怖心と怒りと焦りが混然となったような思いを抱いた。
すっかりと課内での立場を作り上げた和美は、輪の外でビクビクしている七美を見て鼻で嗤った。
和奈はすっかり忘れていたというのに、七美のビクビク、オドオドとした顔付きを見て、思い出した。いつまでも昔の事にこだわって鬱陶しい。子供の頃のちょっとした遊びなのに。そう思う。
なので、ちょっと憂さ晴らしに、
「久しぶりよねえ、本当に。
そうそう。何かと物入りで、ピンチなのよね。ちょっと貸してくれないかしら?」
と言ったら、面白いくらいに顔色を青くして、ひきつけを起こしそうになったのだ。
笑えたので、写真を撮っておいた。
ロッカーに書類をしまい、和奈は、目の端に映った七美を見た。
バカみたい。そう思い、視線を慌てて逸らす七美を嗤う。
その時、キイ、という音がして、何気なくそちらへ――ロッカーの方へ目をやった。
「え?キャアア!!」
書類の詰まった重いロッカーが、グラリと和奈の方へと倒れて来ていた。
自然と飛びのいていたらしいと、ロッカーが大きな音を立てて倒れたのを呆然と見つめながら、和奈は他人事のように思った。
グラスを掲げて乾杯し、食事をしながら馴れ初めや昔のエピソードを話す。
今日はレストランの個室で、ユキの結婚を祝っていたところだった。
「職場結婚ですか。いいなあ。羨ましい」
楓太郎がそう言う。
「楓太郎のところも、女性社員は多いだろ?」
訊くと、楓太郎は苦笑を浮かべた。
「パートの既婚のおばちゃんが多いんです。独身の女性社員は、モテるタイプのところに集中してますよ」
「へえ。宗は?」
「忙しくて、そんな余裕がないですね」
宗は嘆息した。
宗も楓太郎もいいやつだから、きっといい人とその内出会うだろう。
「まあ、こういうのは焦る必要はないしな」
「そうだねえ。何か2人共、ある日突然決まりそうな気もするよねえ」
直が言うと、皆で一斉に「するする」と首を振った。
「でも、ユキが協会の職員とねえ。しかも電撃婚」
エリカが笑う。
「ふふふ。時間とか子供の頃の漠然とした夢とか、そういうのって関係なくなるのね」
ユキはおかしそうに笑った。
天野――いや、
「俺も、ユキって密かに人気だから、急いだ方がいいかなって思って」
新郎の宮野がそう言って、ユキと2人で恥ずかしそうに目を合わせた。
この宮野は協会で事務員をしている普通の人で、とにかく真面目そうだ。
「とにかくおめでとう」
美里がもう一度グラスを掲げ、皆で乾杯をした。
と、チリ、と、気配がした。
「……ちょっと、電話」
僕と直はチラリと目を見交わして立ち上がった。
「すぐに戻るからねえ」
そして、廊下に出て嘆息した。
「めでたい日に面倒臭いのは困るぞ」
「どこかねえ、全く」
言いながら、気配を辿った。
すると、別の個室に辿り着いた。
「ここか」
「だねえ」
何と言って中に入ろうか。そう考えたのもつかの間、部屋の中から悲鳴が響き渡った。
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