第1004話 解呪不能(3)説明を求む

 池はきれいに底をコンクリートで固められていた。

「……割るわけにはいかないしな」

 僕と直は、池のほとりでがっくりと肩を落とした。

 手首の黒い線は、濃さを増していた。

「ちょっと、出てきてもらえないですか。探せと言われても、もっと説明がないと、探しようもないですよ」

「落とし物もこれじゃ出て来ないねえ」

 すると女の子が出てきて、僕と直を睨んだ。

「あなたの名前、珠の特徴、誰に貸したのか。ただ『珠を探せ』じゃ見付からないですよ」

「フン。だまして借りておいて何という言い草じゃ」

 かなり不満そうだ。

「貸したのはいつ、誰にですかねえ」

「この前、ここにいた人間にじゃ」

 それでわかるか!

 3人でむっつりと睨み合った。

「探す気あるのか?」

「探さないと、お主、死ぬぞえ?」

「説明なしじゃ、全人類を呪い殺したって見付からないねえ」

 また、むっつりと睨み合った。

 そして、女の子は溜め息をついた。

「わらわが気が付けばここにいたんじゃ。池のほとりに男がおって、力を貸してくださいと言ってわらわを壺に入れて、干上がった池の底に置いたんじゃ。それでわらわはまた眠くなって、目が覚めたら壺が割れていたので出て来たんじゃが、壺が割れて、珠がどこかに落ちてしまっていたんじゃ」

 説明ベタなのだろうか。

「そもそも、あなたは誰です?」

「わらわの事は小龍シャオロンと呼べ」

 胸をそらす姿を見て、直とこそこそと言い合った。

「見た目通りの子供並みの説明だな」

「子供だったのかねえ。生贄とか」

 小龍は文句を言いたそうにこちらを見ている。

「ええっと、それはいつくらいの話ですか」

「ずっと前じゃ」

 限界を察して、直が代わった。

「その男は、どんな髪形だったかねえ?服はこういうのかねえ?」

 小龍は首を傾げるようにした。

「髪はそんな感じだったと思うし、服もそんなもんじゃった。たぶん」

 池を3人で眺めた。枯れ葉くらいしか見えない。

 小龍は溜め息をついた。

「男を見上げた時、男の肩越しに、山にかかった満月が見えたの」

 そう言って空を見上げるので、つられて僕と直も空を見た。

「そういうわけじゃから。任せた」

 小龍はそう言って消えた。

「ん?男はどこにいたんだ?」

 月が男の背後にあったなら方向がどうなんだろう。周囲に山は見えない。

 昔は立木がもっと小さかったりしたとしても、山の位置は変化がない。

「ここから見える山と言えば、向こうくらいだろ」

 今はビルに囲まれて見えないが、ここから見える山などそうそうない。

 僕と直は、敷地内を裏に向かって歩き出した。

「山が見えるとしたら、この辺りかねえ」

 駐車場を、僕と直は眺めた。

「明日は資料漁りだな」

 コンクリートに塗り固められた地面をトントンと踵で軽く蹴る。

 その時、手首からぞわりと冷気が強まった。

「また一段階進んだな」

 僕は溜め息を押し殺した。





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