第1003話 解呪不能(2)珠

「参ったな」

 手首付近のそれを見て、溜め息をつく。

 女の子に噛まれたところは、グルリと手首を一周するように、薄く黒い線が入っていた。

 すぐに蜂谷に見せたが解呪できず、支部の皆や京都の津山先生にも相談したが、解呪の手がかりは今の所つかめていない。

 蜂谷恭介はちやきょうすけ。霊能師で、呪術、解呪に強く、電波を介した術のエキスパートで、パソコン関係にも明るい。シニカルなところがあるが、根はお人好しで、面倒見がいい。

 その蜂谷が「解呪できない」と言うなら、誰にもできないと考えていいだろう。

「宝物を探せって事か」

 直は立て続けにどこかに電話をしていたが、くるりとこちらを向いて戻って来た。

「怜、あそこの公園の事を聞いたよ。

 中国から長崎を経由してここまで来た人があの近くにあつまっていたらしくて、その内、中国式の寺院ができたそうだよ。その後寂れた事もあるし、戦時中にうやむやになってたらしいけど、日中国交正常化の後華僑の人が買い取って別荘にしたらしいよ。でもその人が亡くなったんで、公園として寄付したんだって。

 その時に手直しの工事をしたって」

 聞いていた蜂谷は、

「そこに資産とか家宝とか埋めたんじゃないか?」

と、今すぐ掘り出しに行こうと言わんばかりに言う。

「その時の工事について訊いてみよう。それと、華僑の事も。

 でも、寺院の時代は無理だろうなあ」

 言うと、直も唸る。

「流石にねえ。幽霊でも残ってくれていれば訊けたんだけどねえ」

「ま、できる事をしてみよう」

 僕達はすぐに、協会を出た。


 工事をした会社は、とうに潰れていた。

 付近の人や役所に話を聞くと、「そこに昔中国人の別荘があった」「その前は荒れ寺だった」という記録や記憶は出て来たが、詳しい事はわからないままだ。

 ここを別荘にしたのは満州出身の日中ハーフで、母親が日本人だったため、元々は母親のために別荘を日本に構えたらしい。

 当時の家具なども、資料代わりにいくらかはそのまま残っており、それに憑く何かは見当たらなかった。

「珠で思い出すものですか……ああ、竜の珠ですかね。植物の」

 そう言ったのは、灰田さんだった。

「植物?」

「ええ。青い実が生る植物ですよ」

 直はネットで調べ、声を上げた。

「ホントだあ」

 僕も覗き込むと、きれいな青い実をつけた植物の写真が出ていた。

「これかな?」

「名前は竜の珠、ズバリ珠なんだけどねえ?」

 首を捻ったが、違う気もする。

「昔はこれが植わってたのが今は無くなっていて、それで『植えろ』って要求してるのかねえ?」

「一応あの子に確認してみるか」

 それで念のために公園へ行った。

 が、

「違う」

と不機嫌そうに一言言って、女の子は消えた。

「せめて名前とかヒントとか言えよな。

 はあ。参ったな、本当に」

 僕も直も、必要な事すらも言わない勝手な彼女に、嘆息した。


 照姉は手首を見て、眉を吊り上げた。

「残念ながら、解呪はできないな。これは我々日本と違う系統のものだ」

 十二神将も代わる代わる試していたが、解呪や遅らせる事ができないと見るや、オロオロしたり怒ったりした。

「ふざけた野郎だな。よその縄張りで。燃やしてやろうか」

 騰蛇が怒りの形相で言った。

「まあ、珠を探すしかないな」

「でも、植木じゃないんだよねえ」

「何だろうなあ」

 僕と直は考え込んだ。

「やっぱり、あそこに華僑が宝を埋めたのかねえ」

「もしくは、昔の寺院だった頃に埋葬された人が持っていた物か」

 だとすれば、見つけるのは不可能に近い。困った。

「もう一度、そいつが何と言ったか詳しく言え」

 小野さんが言うので、もう一度説明した。

「力の源で、貸して、池に沈めたと」

 それに小野さんが言う。

「力の源の珠と言えば、竜の珠もそうだと言われているな」

「貸して池に沈めたって、水を呼んだとか?」

 太陰が言い、照姉が頷く。

「あり得るな。まあ、竜が珠を貸すかどうかは別として」

 それでも、明日やる事は決まった。

「池を徹底的に調べよう」

 



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