第1002話 解呪不能(1)公園の女の子
「広がって来たな」
僕は自分の体に広がる不快感に眉をしかめた。
「何呑気に言ってるんだよう!」
直が泣きそうな顔で言った。
少し前に仕事先で呪を受けたのだが、解呪のエキスパートをもってしても解呪不可能という事で、困っていた。
そうは見えないと言われても、困っているのだ。
「兄ちゃんや美里には言わないでくれよ」
「でもさあ」
「心配する。どうにもならないのなら、心配するだけ損だし。まあ、死ぬまで3日らしいから。ギリギリまで頑張ってみるしかないよな」
そう言うと、直は大きな溜め息をついた。
「全く。
変化があったら、ボクには必ず言ってよ?いいね?」
「わかった」
それで僕と直は、そもそもの始まりから考え直してみる事にした。
公園に女の子の霊が出ると聞いて、僕と直はそこへと出かけた。
中国風の庭園で、昔、ここに華僑の別荘があった名残らしい。
女の子は中国の昔風の服を着た8歳程度の子で、池の周囲に現れ、そこに居合わせた人に、
「返せ。わらわの宝をどこにやった」
と迫って来るのだという。
池のほとりには柳の木が植えられ、四阿が立てられていた。
そのそばで、池を覗きこんだりする女の子がいた。
「いた」
近付いて行くと、向こうもこちらに気付いたらしく、顔を向ける。
「霊じゃないのかな」
人ではないのは間違いない。しかし、霊とも言い切れないような、神とも言い切れないような、そういう気配を持っていた。
「返せ。わらわの宝をどこにやった」
聞いていた通りの質問をしてくる。
「警視庁陰陽部の御崎と申します」
「同じく町田と申します」
「あなたのお名前をお聞かせいただけますか。それと、宝というのは何の事ですか」
女の子は僕達を眺めていたが、するすると近くに寄って来た。
「宝は宝じゃ。わらわの力の源じゃ。ここの池に沈めたはずじゃのに、どこにもない。貸してやっただけだというのに……。
今すぐ返せ」
見た目は子供でも、威圧感のようなものが強い。
「落ち着いて。
あなたは誰で、誰に貸したんですか?宝というのは、どういうものなんですか?」
女の子はイライラとしたように眉をキュッと寄せ、
「わらわを謀るつもりか?」
と睨む。
「いえいえ」
「とんでもないですよう」
僕と直が首を振ると、不服そうに
「言葉だけじゃわからぬようじゃな」
と言って、僕の手を取る。
この時、油断があったのは否定できない。見かけが子供だった事もそうだが、自然な流れだったので、何か情報かと思って、ただ、任せたのだ。
が、失敗だった。
「痛っ」
「へっ!?」
女の子は僕の手首の少し上辺りに噛みついて、僕も直も、ただ驚いてしまった。
女の子は握手でもしたくらいの普通の様子で離れ、僕は手首を確認した。
確かに牙が差し込まれた感覚があった所に、赤い点が2つついていた。そして、そこから何かが注入されたような不快感があった。
「猶予は3日じゃ。宝を返せば解呪してやろう。解呪しないままだと、4日目に死ぬ」
「はあ!?宝の情報が足りないんですが!?」
そう言った時には、こちらの言い分は聞かないというつもりか、すうっと消えてしまっていた。
「ま、まずいよう。蜂谷に連絡しよう、怜!」
「うん、そうだな」
でも僕は、何となく、これは解呪できないような気がしていた。
「ああ。面倒臭い事になったぞ」
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