第992話 死者の尊厳(4)友人

 警視庁のロビーの一角で、注目を集めるグループがいた。

「生意気なやつ。陰陽部に何をしに来た。怜怜課長も直直課長も、お前には負けない」

 誠人が敵意を剥き出しにして言う。

「何を言ってるんですか?御崎師匠も町田師匠も、雲の上の方です。当然じゃないですか」

 如月君だ。

 騒ぎになっていると連絡を受けて慌てて行ったのだが、近付く前に、眉が寄った。

「この前までの言動も忘れて師匠だと?」

「まあまあ。落ち着いて、ね?」

 能見さんが、引き攣り笑いをしながら何とか収めようとがんばっていた。

「この前はこの前。ぼくは師匠の弟子になりました!ただの部下とは違います」

「何だと!?俺はもっと前から師匠だもんね!」

「し、信山。高校生相手に張り合うなよぉ」

「長さじゃないです!」

「俺は、魂が結びついてる!」

「ぼくだって、人生を預ける事にしました!」

 聞いていて、僕と直は顔を見合わせた。

「何の話だ?師匠?人生?はあ?」

「怜、ボクだってわかんないよう」

 こそこそしていると、僕達に気付いて、2人は、一目散にこちらへ走って来た。

「怜怜、直直!生意気な部外者が!」

「師匠!意地悪な先輩が!」

 ロビー中の視線がこちらを向いていた。

「ええっと、まず、ロビーで騒ぐんじゃない」

 尻尾があればブンブンふっていたと思われる2人は、同時にシュンとして、それに気付いて、同時にそっぽを向いた。

 困った顔で追って来た能見さんが、嘆息する。

「課長ぉ」

「ええっと。今日はどうしたのかねえ」

 如月君は嬉しそうに顔を上げた。

「はい!師匠のお仕事を見学して、勉強したいと思いまして!」

「その前に学校へ行け。それと、捜査とかに連れていけないからな」

 如月君が、「ガーン」と言いたげな顔付きをし、誠人が嬉しそうな顔付きをする。

「まあ、あれだねえ。警察官になったら、恐らく陰陽部に配属されると思うしねえ?」

 それで、如月君はパッと顔を上げて、やる気に満ち溢れた顔付きになり、誠人はショックを受けたような顔付きになった。

「誠人、能見さん。如月君に庁舎内を案内してあげて」

「はい!」

「ええー」

「それで如月君は、用もないのに警視庁まで来たらだめだよ?見学したら今日は帰りなさいねえ」

 どうにか3人を送り出し、僕と直は溜め息をついた。

「何でこんなに懐かれたんだ?」

「子犬みたいでかわいいけどねえ」

「子犬ねえ。キャンキャン鳴く小型犬みたいだな」

「ははは。トイプードルとか?」

 想像したら、笑えた。

「でも、誠人とは意外と友達になれそうじゃないか?」

「言えてるねえ。

 でも、吠え合う感じの?」

「……何か、如月君が来たらうるさくなりそう」

 言っていると、総務の警官がそばに来た。

「ロビーで騒がないように言って聞かせてくださいよ」

「はい。済みませんでした」

 警官が立ち去ると、はあ、と溜め息が漏れる。

「面倒臭……」









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