第986話 チビッ子編 👻 神社の猫さん(2)山の神社の一夜

 薄暗くなり始めた山道に突っ立って、辺りを見回す。

 山に来た事はあるが、幼稚園の先生や家族と一緒で、子供2人だけで来た事はない。

 その上、鳥の鋭い鳴き声や羽音、風が枝を揺するザワザワという音や、風の音がして、益々心細くなって来る。

「家はどっちだろう」

「もうすぐ真っ暗になるよ」

 途方に暮れていた怜と直だったが、その怜の腕から子猫が身軽に飛び降りた。

「あ」

「にゃん」

 少し歩いて、子猫が振り返る。

「付いて行ってみようか」

 怜と直は、子猫が「付いて来い」と言っているように思えて、子猫の後について歩き出した。子猫は時々振り返って怜と直がついて来ているか確認するようにしながら、スタスタと歩いて行く。

 そのうちに、怜も直も怖さを忘れ、絵本の主人公のような気持になって、わくわくとして来た。

 やがて、目の前に古くて小さく寂れた神社の拝殿が現れた。

 子猫はタタタッとその扉の前へ走り寄ると、

「にゃあ」

と中へ向かって鳴き、怜と直の方を向いた。

「ここがネコちゃんの家?」

 冒険の末にたどり着いた秘密のアジトだ。宝物があるのかとドキドキしながら、子猫に近寄って、中を覗き込んだ。

 何も無い。本当に何も無かった。ただのガランとした、部屋だった。

 が、驚くべき者はいた。

「大きい猫さん!」

「にゃああぁ」

 牛くらいありそうな猫が座っていた。

 それに子猫が走り寄って、甘えている。

 ほうきのような尻尾がゆらゆらと動き、ほこりだらけの床をきれいにするので、怜と直はそこに座り込んで、恐る恐る頭を撫でてみた。

「大きいねえ。こんなに大きい猫さん、初めて見たよ、僕」

「ボクも。猫ってこんなに大きくなるんだねえ」

「にゃああ」

 大猫と子猫は満足そうに鳴いて、怜と直とにっこりと笑い合った。

 そこで、もう1人いるのに突然気が付いた。白い着物に赤い袴。

「巫女さんだあ!」

 彼女はにっこりと笑い、言った。

「子猫が迷子になってしまって帰れなくなったの。助けてくれたのね。ありがとう」

 大猫も子猫も、揃って、

「にゃあん」

と鳴く。

「へへ。でも、トラックが走り出して、ここに来ちゃったんだ」

「お家に帰れないよ」

 巫女は優しく笑い、言う。

「もう暗いから、山道を歩くのは危ないわ。今夜はここに泊まりなさい」

 怜と直は、外を見た。いつの間にか真っ暗になっている。

「そうだね」

「怖くないけど、危ないよね」

「うん、そうだよね、直」

 怜と直は巫女さんの言う通り、泊まった方が良さそうな気がした。鳥の声や風の音を思い出すと、少々怖い。

「でも、寒いね。こたつやストーブはないの?巫女さんは平気なの?」

「大丈夫よ」

「テレビも何もないよ?ここに住んでるの?」

「そうよ。ずうっとここに住んでるのよ。私とこの猫と」

 大猫が、巫女を見上げて尻尾を一振りした。

「お腹空いたね、怜」

「おやつ、持ってくればよかったね」

 すると巫女は、袂から饅頭を取り出した。

「お供え物だから大丈夫よ。これを食べなさい」

「ありがとう!」

「わあ、ありがとう!」

 怜と直は饅頭を受け取って、5つに割った。大小いびつな形になったが、どうにか5つだ。

「はい!」

 巫女はキョトンとしたが、にっこりと笑って、受け取った。

「ありがとう。でも、あなた達がお腹空くわよ。食べていいのよ」

「ううん。皆で食べようよ。ね、直」

「うん。その方がいいよね、怜」

 それで3人と2匹は、

「いただきます」

と手を合わせて、饅頭を口に入れた。

「美味しいね」

「にゃあん」

 それも、すぐに終わる。

「さ。寝ましょうね」

 巫女に言われ、怜と直は丸くなった。

 が、寒い。それで2人は、くっついた。

 そこに子猫が並び、それを大猫が、体と尻尾で覆うように囲う。

「わあ、暖かい!」

「お布団みたい!」

 しばらく怜と直と子猫ははしゃいでいたが、大猫が寝ろというようにざらざらの舌で怜の頬を舐め、皆はいつしか眠りこんだ。




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