第985話 チビッ子編 👻 神社の猫さん(1)子猫を追って
子猫。それは幼児にとってもとても小さく、か弱い生き物に見えた。
「かわいいねえ」
「ふわふわしてて、ちっちゃくて、ぬいぐるみみたいだよねえ」
怜と直は、塀の上をウロウロと歩いている子猫を見ていた。
上ったものの下りられなくなったらしい。
「下りたいの?」
怜が訊くと、
「にゃあ」
と、返事をするかの如く鳴く。
怜と直は、かわいい子猫を助けられないかと、辺りを見回した。塀の高さは、大人の背丈くらいあるし、生憎ここを通りかかる大人はいなかった。
と、そばにとまっている車が目に入った。幌の付いた軽トラックで、運転手も見当たらない。
「ここに上ったら届くかなあ」
怜と直は、トラックの荷台によじ登って、手を延ばしてみた。
辛うじて届きそうだが、落ちそうで怖い。
「怜、ボクが押さえてるよ」
直が言って、怜の腰に両手を回す。それで怜は思い切って、手を延ばした。
「おいで」
「にゃあん」
子猫は様子を見るように2人を見ていたが、大丈夫そうだと思ったのか、一声鳴いて、怜の腕伝いに飛び込んで来た。
「直、もういいよ」
「うん。もう大丈夫だよ、ネコちゃん」
怜と直と子猫は、ホッとしてトラックの荷台に座り込んだ。
そして、トラックを降りようと立ち上がりかけた時、トラックの運転席で、ドアを開け、乱暴に締める音がし、
「あ。運転手さんが帰って来たのかな」
「早く下りないと」
と言っているうちに、トラックはエンジンをかけ、走り出してしまった。
「え!?」
「お、下りられない!」
「にゃあ!」
「……運転手さんに、怒られないかな、怜」
「……」
それよりも、兄に叱られそうだ。
「次に止まったら、こっそり下りて帰ろうか、直」
「それがいいよね」
「にゃああ……」
2人と1匹は、幌の中で身を寄せ合って寒さをしのぎながら、大人しくトラックが止まるのを待った。
幌の中にいると、外が見えない。ガタゴトと揺れ、時折曲がる時に体が大きくかしぐ。それで、気持ち悪くなって、2人と1匹は声も出せずに横になっていた。車酔いである。
ほかの車の音がしなくなり、揺れが大きくなり、やがてトラックは止まった。
ドアを開ける音がし、
「急げ」
「お、おう!」
という声の後、ドアを閉める音がして、誰かが走って行く足音がした。その後、別の車のエンジンがかかり、走り去るのが聞こえた。
「う……直、大丈夫?」
「……気持ち悪い……」
「下りようか……」
「そうだね……」
「にゃあ」
よろよろと荷台から怜と直が下り、子猫を抱く。
そして、周囲を見回した。
山の中だった。
「ここ、どこ?」
怜も直も完全な迷子になっており、途方に暮れたのだった。
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