第973話 漂流する悪意(1)不可解な現場
「今日が始まる。2学期かぁ。学校、行きたくないなぁ」
ひっそりと呟いて、スマホに目を落とす。
夏休みに家が火事になり、柚香は命からがら逃げ出せたのだが、両親と妹は焼死してしまった。
学校の電子掲示板では、その火事の事が話題にされていたのだが、かわいそうとか気の毒とかいうコメントの中、目を疑うようなものが現れたのはすぐだった。『本当に助けられなかったの。妹さん、同じ部屋だったんでしょ』『自分が助かるのに必死だっただけ草』『隠れてタバコでも吸ってたの?』
それ以来、それに同調するようなコメントが増え、いつの間にか柚香が、「自分勝手でわがままな傲慢女」「裏ではタバコも大麻もパパ活もしてた」とされていた。
仲の良かった友達も、最初はかばってくれたが、面白半分に増えるそういうコメントの前に沈黙してしまった。
学校に行けば、どんな目で見られるのか、怖い。
柚香は『同じ目に遭わないとわからないのね。さようなら』と書き込んで、電源を落とした。そして手すりを掴んで乗り越え、空中に足を踏み出した――。
資料を見ながら、唸る。
「出火原因は不明か」
「遺体だけが炭化するほど焼けているなんてねえ」
今回持ち込まれたのは、焼死体で発見された女子高生の事件だ。
自室のベッドの上で炭化する程に焼けていたのに、シーツも壁も天井も、焼けているところはないという不可解なものだった。
「それに火元らしきものもないしな」
「とにかく、まずは視るしかないかねえ」
その現象に化学的な説明を付ける事は困難だというその事件を、僕達が担当することになった。
被害者、
机、本棚、タンス、ベッド。10代の女の子らしい小物に溢れた部屋で、ベッドの真上には、アイドルのポスターが貼ってあった。シーツは検査のために回収されているが、遺体の下になっていた所にすすが付着していただけだった。
ここに本当に焼死体があったのかと信じられないくらいだ。
「火の気もないし、残った霊の気配も無しか」
正直、どちらかだけでも残っていて欲しかった。
「どこかから焼死体を持って来てここに置いたとしか思えないねえ」
捜査員も、そうとしか考えられないと言っている。
ただし、ここから被害者が出て行っていないのはたくさんの目撃証言があって確実で、間違いなく現場はここだと思われる。
となれば、不可解で、超常的なものに原因を求めるのも納得できた。
「学校とか友達とかに当たってみるか」
「どこかに手掛かりが残っていてくれればいいんだけどねえ」
それに期待しながら、僕と直は、棚橋家を出た。
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