第972話 くりかえす(6)被殺人鬼
菅井さんの怒りに呆然としていた皆も、笑い出す者、慌てる者、怯える者と反応は様々だった。
「直、逝こうか」
「はいよ」
刀を出し、札を構える目の前で、イネさんは笑い声を上げ、前原さんは逃げ出そうとして菅井さんに吸収され、ただ震えていた重吾さんも吸収された。下長さんはマツさんとフミちゃんとチヨちゃんを抱えるようにして兄の誘導で離れ、村雨さんはイネさんのところに行こうとして菅井さんに捕まって吸収された。
「犯人はわかった。もういいでしょう?今更、生き返る事もできないんだから。ここから時間を動かしたらどうです」
「成仏してスッキリしたほうがいいねえ」
コロス!コロス!コロス!
「うわああ!」
畑中は、床の上に座り込んで震えている。
菅井さんは、その畑中さんしか見ていないようだった。鬼気迫る顔で腕を伸ばして畑中に掴みかかろうとしたところで、斬る。
ナゼ!?
そして、崩れて消え去る。
それを見送って、マツさんが溜め息をついた。
「これで皆も、ようやく成仏できるでしょう」
そして、下長さんと見つめ合う。
その時、畑中が腰を抜かしていたとは思えない素早さで逃げ出した。
が、兄の一本背負いで床の上に叩きつけられた。
「逃げられると思っているのか。だいたい、もう死んでいるのに」
兄に言われて、畑中は狼狽えたように視線を動かした。
「あの世で反省しろ。怖い係員が待ってるから」
小野篁の顔がチラつく。
そして、浄力を流して畑中を祓った。
「さてと。逝きますか」
「お世話をおかけしました」
「おかげでスッキリしました」
頭を下げる下長さんとマツさんのそばで、フミちゃんとチヨちゃんが見上げる。
「皆どこへ行ったの?」
「私達もどこかへ行くの?」
それに、マツさんと下長さんが優しい目を向けて、肩に手を置く。
「一緒だから怖くないでしょ」
「姉様は優しい」
「下長さんも優しい」
「ふふ。では、お願いします」
まるでピクニックにでも行くような顔付きだ。
「向こうで、お幸せにぃ」
手を振る4人に浄力を流し、そして彼らは逝き、辺りはただの貸別荘になった。
夕食の準備をする。
人参バターライス、ローストチキン、サラダ、アスパラのポタージュ、エビとホタテのガーリック焼き、ナスの生姜焼き。
突然皆がいなくなった事を、チビッ子3人以外はどういうことか理解している。京香さんが皆について万が一に備えながら、皆に説明はしてくれていたのだ。
それでもチビッ子3人は良くわからないらしく、かくれんぼでもしているのかと探し回りそうになった。
それを兄が、彼らがどういう人たちだったか説明し、もう会えないと言って聞かせる。
「じゃあ、フミちゃんとチヨちゃんも、これで安心?」
「そうだな」
「もう、苦しくない?」
「大丈夫」
兄の言葉に、凜も累もほっとしたように笑う。
ああ。流石は兄ちゃんだな。説得も上手い!それに凜凜と累も優しい。
美里はそばに来て、
「何考えてるかわかってるわよ。ブラコンめ」
とくすくす笑う。
「美里は何考えてるかな。凜が優しい子に育って良かった?」
「それもだけど、怜もかっこよかったわよ」
「何だ、惚れ直したのか」
言うと、背中を軽くパンと叩かれた。
「出来上がりまで20分くらいかな」
「あ!踊る!」
「踊る!覚えたもん!」
「あ。レコードありますね」
康二さんが見つけ、ダンスタイムになる。
「凜も累も上手だねえ。へえ、優維と敬も上手いもんだねえ」
康介はマツさんを思い出して、テーブルに突っ伏した。
兄は冴子姉と踊り出した。
「初めて見るけど、絵になるなあ」
「司さん、やっぱり最強だよねえ」
「だな!流石、兄ちゃんだ」
京香さんと康二さんも踊り出し、直と千穂さんも踊り出す。そうなると、僕と美里も踊らない訳にはいかなくなった。
「だから、ダンスは苦手なんだって」
「いいじゃない。ほら、ほら。覚えてるんでしょ」
「まあね。心霊特番で無理矢理やらされたやつね」
でもまあ、いいか。皆が楽しそうに笑っているから。
「とは言え、次の旅行こそ、いい加減平穏無事な旅行に行きたいもんだな」
「あはは。言えてるねえ」
直が朗らかな笑い声をあげ、凜達も笑う。
「もしくは、願掛けのお百度踏んでから来るとかかねえ?」
「それは面倒臭い」
冴子姉と京香さんが吹き出した。
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