第957話 雨の日に(1)連続する事故

 6月に入った途端、しとしとと雨が降り続く。洗濯物は乾かないし、ちょっと出ただけで足が濡れたりする。

 それで車で出かける人が増え、ただでさえスピードを出せないので道路はどこも混雑する。視界は悪いし、道は滑り易いし、歩行者も傘で視界が悪かったりする。

 それらのせいで、事故が起こり易いというのは、当然だ。

 しかしそれが、雨の日に限り、同じ場所で、全て男女2人が乗っていた車ばかりとなると、話は変わって来る。

「運転手や同乗者は、『急にハンドルとブレーキがおかしくなった』とか、『変に寒くなった』とか、『怒ったような顔の女の霊が、もの凄い速さで車の方に来た』とかいう証言をしているらしい」

 徳川一行とくがわかずゆき。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。

「そこで事故死でもした人かな」

 御崎みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。

「地縛霊になっちゃったのかねえ」

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。

「そういうわけだから、頼むね」

「はい、わかりました」

 僕と直は徳川さんの前を離れ、皆の方を見た。

 生憎、霊能師達は事件を何かしら担当中だ。

「僕達で行くか」

「そうだねえ」

 それで、早速そこでの事故を、過去までさかのぼって調べる事から始めた。


 ふうん、と資料を閉じる。

「ここで最初に事故が起こったのは、春先か。飛び出した主婦が、止まり切れなかった乗用車にはねられて死亡。

 続き出したのは、梅雨に入ってから。どっちも雨だな」

 言うと、直が同意した。

「目撃された女の霊っていうの、この死んだ主婦で間違いないんじゃないかねえ」

「たぶんな。

 住宅街の間の道で、近道として利用する車が多いと書いてあるな。住宅街の生活道路でも、こういうケースが多いからなあ。凜達にも、飛び出し注意は徹底させておかないとな」

「そうだよねえ。走ったりするのは早くなったのに、何かに夢中になった時はそれに集中しちゃうからねえ」

 僕と直は、困ったもんだと言いながら、現場に向かった。

 折しも天気は、今にも振り出しそうな曇り。天気予報では、降水確率が90パーセントだった。




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