第953話 白と黒の熱意(1)試合

 フィールドのただ一つのボールに、選手も観客も、全ての人の目が付いて行く。

 やがてそれを、その選手がゴール前の仲間にパスし、片方の観客席から悲鳴が上がるが、それを上手く康介がカットして、その悲鳴は歓声に代わり、向こうの観客席が悲鳴を上げた。

 そして康介のカットしたボールは仲間によって、どうにか反対側のゴールへと運ばれて行った。

 そして、選手が蹴る――が、入らない!

 その度に、歓声や悲鳴が起こり、忙しい。

 敬、優維ちゃん、凜、累も、手を握って、長男役の康介の応援に熱中していた。

 今日は康介の入っているサッカー部の試合の日で、こうして皆で、応援に来ているのだ。

「ああ、ドキドキする」

 御崎みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。

「中学生の部活でも、結構見ごたえあるねえ」

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。

「どっちもなかなか入らないものなのね」

 御崎美里みさきみさと、旧姓及び芸名、霜月美里しもつきみさと。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。

「まあ、流石は準決勝ってところなんじゃない?」

 町田千穂まちだちほ、交通課の元警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だったが、執事の運転する車に乗ってから、安全性と滑らかさを追求するようになった。直よりも1つ年上の姉さん女房だ。

「それがね、それもまああるんだけど、うちの学校には日本アンダー18に入るようなエースストライカーがいるのよ。でも、不調らしくて、ベンチらしいわよ」

 双龍院京香そうりゅういんきょうか。僕と直の師匠で、隣に住んでいる。大雑把でアルコール好きな残念な美人だが、面倒見のいい、頼れる存在だ。

「その子がいれば、もっと差が出てたのね」

 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。

「その子もそのご両親も、ヤキモキしてるんだろうな」

 御崎みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。

「それが、ちょっと複雑な家庭事情らしいですよ。母親が再婚して、新しい父親との間に子供ができた頃から」

 双龍院康二そうりゅういんこうじ。京香さんの夫だ。おっとりとしている。

「気を付けないと、誤解が大きなズレをうみそうだな。どうにか修復できればいいが」

 兄が気がかりそうに言った時、どうにか康介のチームが時間ギリギリでゴールを決めて辛勝し、僕達は一様にホッと肩の力を抜いた。

「さてと。ちょっと行って来るよ」

 僕と直が立ち上がる。

「どうした?」

 兄が訊くのに、小声で、チームの方を見ながら言う。

「そのエースストライカーだと思うんだけど、憑いてるから、ちょっと行って来るよ」

「放っておいて、あんまり良さそうでもないからねえ」

「そうか。気を付けて行けよ」

 兄に言われ、僕と直は歩き出した。





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