第953話 白と黒の熱意(1)試合
フィールドのただ一つのボールに、選手も観客も、全ての人の目が付いて行く。
やがてそれを、その選手がゴール前の仲間にパスし、片方の観客席から悲鳴が上がるが、それを上手く康介がカットして、その悲鳴は歓声に代わり、向こうの観客席が悲鳴を上げた。
そして康介のカットしたボールは仲間によって、どうにか反対側のゴールへと運ばれて行った。
そして、選手が蹴る――が、入らない!
その度に、歓声や悲鳴が起こり、忙しい。
敬、優維ちゃん、凜、累も、手を握って、長男役の康介の応援に熱中していた。
今日は康介の入っているサッカー部の試合の日で、こうして皆で、応援に来ているのだ。
「ああ、ドキドキする」
「中学生の部活でも、結構見ごたえあるねえ」
「どっちもなかなか入らないものなのね」
「まあ、流石は準決勝ってところなんじゃない?」
「それがね、それもまああるんだけど、うちの学校には日本アンダー18に入るようなエースストライカーがいるのよ。でも、不調らしくて、ベンチらしいわよ」
「その子がいれば、もっと差が出てたのね」
「その子もそのご両親も、ヤキモキしてるんだろうな」
「それが、ちょっと複雑な家庭事情らしいですよ。母親が再婚して、新しい父親との間に子供ができた頃から」
「気を付けないと、誤解が大きなズレをうみそうだな。どうにか修復できればいいが」
兄が気がかりそうに言った時、どうにか康介のチームが時間ギリギリでゴールを決めて辛勝し、僕達は一様にホッと肩の力を抜いた。
「さてと。ちょっと行って来るよ」
僕と直が立ち上がる。
「どうした?」
兄が訊くのに、小声で、チームの方を見ながら言う。
「そのエースストライカーだと思うんだけど、憑いてるから、ちょっと行って来るよ」
「放っておいて、あんまり良さそうでもないからねえ」
「そうか。気を付けて行けよ」
兄に言われ、僕と直は歩き出した。
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