第952話 会いたい人(4)家族

 そして、保管室で、僕と直はそれを見て棒立ちになり、吉永さんは訝し気に僕達を見た。

「課長?どうかしましたか?」

「まさか、ここだったとは……」

「意外過ぎたよねえ」

 僕も直も、唸った。というのも、あれほど探し回っていた奥さんとお嬢さんは、保管室にいたのだ。

 とにかく直は可視化の札を書き、それを吉永さんに持たせた。

 すると吉永さんの目が驚きに見開かれた。

「愛子!七奈!」

 奥さんは泣きそうな顔で笑い、女の子は満面の笑みを浮かべて吉永さんに飛びついて来た。

「やっと来た」

「探し回ってたのに……!何でここに?」

「だって、証拠品を教えようと思って。

 なのにあなたは来ないし、誰も私達の事に気付いてくれないし」

 その頃陰陽課もまだなかったしなあ。

「事件関係者はタッチできないから」

 吉永さんが言うが、その前に重要な事を今言ったじゃないか。

「待ってください。それより、今、証拠品を教えようと思ったって?」

 奥さんは頷いた。

「ええ。あの?」

「俺の上司だよ。御崎課長と町田課長。俺の様子を心配して、力を貸して下さったんだよ」

 すると、奥さんは深々と頭を下げた。

「まあ。主人がいつもお世話になっております」

 なのでこちらも、返した。

「いえいえ、とんでもない」

「こちらこそ、頼りにさせてもらっていますよう」

 直もにこにこしながら言う。

 が、吉永さんが我に返ったように言った。

「じゃない!愛子!」

「ああ、はい。

 ブローチですよ。抵抗した時に、犯人の手を傷つけたんです」

 透明のケースの中に、確かにブローチがあった。

「これは、前々日の誕生日に、俺がお前に贈った……」

 吉永さんが呆然としている。

「お父さん。七奈のイチゴの髪留めに、犯人が触ったよ」

 女の子が吉永さんを見上げて笑う。

「七奈……!」

 吉永さんは、女の子を抱きしめ、奥さんを引き寄せた。

「怖かったなあ。苦しかっただろ。痛かったよなあ。ごめんな、遅くなって」

「お父さん、お寝坊」

「ふふふ。ねえ」

 親子3人で泣きながら笑う吉永さん一家をそのままそっとしておいて、僕と直は、それらを持って部屋を出た。


 すぐに再鑑定の手続きが取られ、結果、指紋が一致する人物が出た。

 藤川恒夫。暴行と殺人未遂で逮捕歴があった男だった。出所後に引きこもっていた実家が神社の真ん前で、見かけた愛子さんに一目ぼれした。それで神社で待ち伏せて声をかけたが、当然断られ、カッとなってまず愛子さんを殺害。その後七奈ちゃんも殺害した事を自供した。

 愛子さんは吉永さんに、

「仕事仕事って言わずにちゃんと休んでね」

と体の心配をし、七奈ちゃんは、

「ブロッコリー残しちゃだめなのよ」

と言い、

「七奈はピーマンが嫌いだよな」

と反撃され、笑い合っていた。

 そして、

「後からゆっくり来てね」

と言って、成仏して行った。

 それを笑顔で手を振りながら見送った吉永さんは、笑いながら、ぼろぼろと泣いていた。

 そして見えなくなると、顔を覆って号泣した。


 僕と直と兄と徳川さんは、食堂で喋っていた。

「犯人を逮捕できて良かったな。それに、奥さんと娘さんも」

「そうだなあ。

 でも、これが吉永さんへの恨みとかじゃなくて良かったよ」

「そんな事になったら、吉永さんでなくとも、もう」

 もし自分に仕返ししたいがために美里や凛に何かした、なんてやつがいたら、僕は職務をなげうってでも、報復したいと思うだろう。兄もだ。兄に何かするやつがいたら、何年かかろうが、地球の裏側にいようが、あの世にいようが、必ずやり返す。殺してくれと頼んで来るくらいの目に合わせる。

 そう考えていたら、直が肩を叩いた。

「怜。物騒な事考えてそうだねえ?だめだよう?」

「……そうだな。うん。そうならないように、安全対策を取っておくか。全員にパスをつないでおいて、異常があれば即飛んで行く事にしよう。それがいい。

 早速兄ちゃんにつけていいかな」

「怜。負担が大きすぎてやばいよう」

 徳川さんが笑い、兄は苦笑した。

「通常運転で安心したよ」

「怜も気を付けるんだぞ。俺のとばっちりが怜に行く事もあるかも知れないんだからな」

「うん。わかった」

「こっちも心配ないな」

「そうですねえ」

 何か会話がおかしいが、まあいい。

 と、すっかり吹っ切った吉永さんが現れた。

「ああ、いたいた。

 課長。神戸君と京極さんが、何かテストしたいとか言って探してましたよ。浄力がどこまで広がるか計測したいとか、その時の脳の活性分布がどうとか」

「うひゃあ。面倒臭い」

 徳川さんと兄と直が、吹き出した。

「いつも通りだ」




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