第950話 会いたい人(2)熱心な人

 僕も直も課長になったが、陰陽部はほかの部署とは違う。よそでは管理職がふらふらと現場に出る事はないが、霊能師の人数という問題もあり、僕と直は現場に出る。

 一般人の氷室さんと村西さんは基本的に部屋にいるが、今日はほかの新メンバーをまとめて、僕と直で現場に引率した。

「テレビではわからなかった、空気感ですね」

 榛名さんが考えながら言う。

 赤嶺さん、灰田さんは、これまで気配は感じていたが見えていなかったものを見、イメージがハッキリしたようで、

「見学できてよかったです。参考になりました」

と言っている。

 吉永さんはしげしげとばけたんやひょうたんを見、唸っていたが、

「ちょっと一晩、貸し出してもらえませんか。自分でも試したりしてみたいので」

と言い、持ち出しの書類に記入して徳川さんに出せば許可が出ると言えば、すぐに記入した。


 兄はそれを聞いて、

「随分と仕事熱心な人だな」

と言った。

 御崎みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。

「そうなんだよ。流石、技術の匠だな」

「何か新しい機械を思い付いたのかねえ?」

「まあ、仕事に入れ込むのもほどほどにしてもらわないとね。息切れされても困る」

 徳川さんが苦笑した。

 今日は徳川さんも遊びに来て、4人で一緒に飲んでいるのだ。ほかの皆はテラスでバーベキューをしていて、この4人だけ、仕事関係の話が済むまではと、リビングにいた。

「でも、何か気になるんだよね。これまでは強行犯でずっとやって来た人で、とても、何でもいいから陰陽部に異動したいとか言い出す感じの人じゃなかったようなのに」

 徳川さんが、焼酎を一口飲んで言い、それで直も思い出す。

「鬼の吉永って有名だったそうだよう。ヤクザもその眼光にビビるとか」

「まあ、32年前に奥さんと一人娘を同時に亡くして、この夏が三十三回忌に当たるからかなあ」

「事故ですか?」

 兄が訊いた。

「いや。それが、殺しだよ。犯人は未だ不明。当時は身内の家族がやられたっていうんだ、血眼になって捜査したんだけどね。

 当時26歳の吉永さんは刑事になったばかりで、新宿署に配属になってたんだ。奥さんは同じ年の幼馴染で、4歳になる一人娘がいた。

 2人は毎朝近所の神社まで散歩に行くのが日課で、そこでまず奥さんが頭を殴られた後、首を絞められて殺された。その後、お嬢さんも絞殺された。発見したのは近所に住む参拝客だった。

 今みたいに防犯カメラがその辺にあった時代じゃないし、下は玉砂利だ。下足痕も何も手掛かりはろくに残ってないし、目撃者もなし」

 それに全員が、重い溜め息をついた。

 悔しかっただろう。見えない犯人が憎かっただろう。

 いや、今だって同じはずだ。

「……もしかしたら、陰陽部へ異動を願ったのは……」

 兄が言い、徳永さんが頷いた。

「せめて妻子に会えるかもと、思ったのかも」

「機材を持って帰ったのって、家にいないか見る為なんだろうな。

 ああ、何か理由を付けて家に行けないかな」

 言うと、直もうんうんと考えだした。

「忘れ物?ついでに送る?近くまで来たんだけどってやつかねえ?」

「だめだ。どれも不自然だ」

「もう少し様子を見た方がいいね」

 そうまとめ、テラスに出る事にした。

 そして、ちょっと調べてみる事に決めた。


 

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