第943話 苦いチョコ(6)転身

 三宅さんは警察を辞めるだけでなく、婚約も無しになった。そして上司の部長も、城北に因果を含めたというのが明らかになり、キャリアとしてはおしまいになった。左遷も左遷、人工衛星と呼ばれるのだが、二度と戻って来られないポストへと出向だ。

 そして城北も、辞表を書いたというのもあるし、偽証したというので、このままとどまっても、出世は無理だ。

 というので、本当に辞める事になった。

「何でもうちょっと待てなかったんだ?相談しろよ」

 言うと、城北は拳をさすりながら言った。

「まさか、約束が嘘だとは思わなかったんだ!フン!」

「あれだねえ。昇進の密約なんて、相談しにくかったんだよねえ。ボク達だったら絶対に反対するからねえ」

 城北はよそを向いた。

 そして、チョコレートの箱をポケットから出し、1粒食べた。

「クッソ苦いな。俺はミルク派なんだ」

 言って、ゴミ箱に放り投げた。

「どうするんだよ、これから」

 そこで城北は、胸を張った。

「ふふん。俺はここでは終わらないぞ。政界に出る事にした!」

「大丈夫か?」

「警察じゃない。この国のトップに立ってやる!わははは!」

 僕も直も心配になったが、まあ、この調子なら、いつも通りと言えばいつも通りだ。

「そうか。期待してる」

「そうだねえ」

「ふふん!」

「あ、そうだ。

 殴る時はな、親指をこう入れるんだぞ。そうじゃないと、突き指とかになる事があるからな」

「へえ。そうなのか」

「強行犯の時に習った。もしもの時の為に覚えとけよ」

「おう」

「それと、次にヤバい時は相談しろよ」

「そうだよう。ボク達、仲間じゃないか」

「町田。御崎。すまん。

 げ、元気でしっかりやれよ!」

「おう」

「城北もねえ」

 城北は私物を持って、初めて見るような笑顔を見せ、歩いて行った。


 見送ってから踵を返すと、監察官がいた。

「あ」

「融通が利かない、とか思ってるでしょう」

「……別に」

 物凄く思っている。

 彼は肩を竦めた。

「監察官は、融通が利いたらダメですからね」

「まあ、そうでしょうねえ」

「あのタンカは見事でした」

 そう言って一礼すると、さっさと歩き去って行った。

「はあ。佐川さんも無事に成仏したし、後は佐川氏だけか」

「聞くところによると、別居中にちょっといい感じの人ができてるみたいだし、大丈夫じゃないかねえ」

「逞しいな」

 でも、これでいいのだろう。

「バレンタインの悲喜こもごもかあ。もう、バレンタインって面倒臭いな」

「でも、優維のチョコプリンは嬉しかったよう」

「去年よりも上手くなったか?

 今年のホワイトデーは何にしよう?敬も、今年も張り切ってるしな」

「あ、係長!大変です!バレンタインデーにチョコをもらえなかった男子学生の霊が催事場に居座って、『まだバレンタインデーは終わっていない!』と言っているそうです!」

「面倒臭いな」

「仕方ないよう」

 僕と直は肩を竦め、走り出した。




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