第940話 苦いチョコ(3)監察官

 佐川聖子さんは、監察官からの聴取を受けた後、そのまま屋上に上がったようだ。そして、屋上でそのまま過ごし、午後8時20分、転落死した。

 自殺、事故、他殺、どれも決め手に欠け、今のところはわからないという事だ。

 そして、自殺なら原因はこの不倫と不倫を原因とした監察。

 他殺なら、容疑者は城北と三宅さん、それと夫が疑われていた。そして3人共、アリバイはなかった。

 不倫に関しては、城北も三宅さんも否定しており、且つ、証拠が見つかっていない。

「何でノー残業デーに死ぬんだよ、よりによって」

「話を聞くとか言って、帰りに呑みに誘えばよかったねえ」

 僕と直は臍をかんだが、手遅れだ。

「ここは、あれだ。佐川さんがいないか視に行こう」

「そうしよう」

 駅を出た後、急いで歩きながら手早く本部庁舎用通行記章を胸ポケットに着け、門に飛び込むと、まずは陰陽課に行ってカバンを置く。

 そして、屋上へ行くべく部屋を飛び出そうとした時、来客が入り口を塞いだ。監察官と捜査一課長だった。

「おはようございます」

「おはようございます」

 まずは挨拶から入り、監察官が本題を告げる。

「御存知でしょうが、佐川聖子が転落死し、事故、自殺、他殺、決めかねている状態です。そして自殺ならば原因に不倫相手が関わっている思われ、他殺ならば不倫相手が犯人の可能性があります。

 佐川聖子の霊が残っていると、参考までに話を聴くことができるでしょう。なので、陰陽課の協力を仰ぎたいのですが。

 何せ、佐川聖子は元アイドルで、現場は警視庁。注目を集めており、一刻も早い解決が望ましい」

 僕と直は、頷いた。

「勿論です」

「すぐに行きますよう」

 しかし、監察官と一課長は首を横に振った。

「それはありがたいのですが、御崎係長と町田係長以外でお願いできますか」

「それは、城北と同期だからですか」

「庇うとかないですけどねえ」

「念のためです。疑われるのは、係長にとっても本意ではないでしょう?」

 内心でムッとしたが、堪える。まあ、間違った主張ではない。

「わかりました。誰か出勤して来次第、連絡しましょうか?それともじかに屋上へ?」

「このまま待たせていただきます」

 監察官は言って、応接セットに腰を下ろした。

 僕はお茶でも一応出してやるかと準備しながら、直とパスを使って文句を言い合った。

『送り出す前に、何か言い含めると思ってるんだろうな』

『そのために早朝から出勤して待ち構えてたんだよねえ?ご苦労さんだよねえ』

『全くだな。電話で言ってたらどうするんだろうな?もしくは、直接現場に向かうとか』

『そっちにも捜査員がいてたんじゃないかねえ』

『人員の無駄遣いだぞ』

 言いながら熱いお茶を出す。

 それに彼らが口をつけて、3係と4係以外で誰かが来るのを待ちながら、話をする。

「城北真留は、どういう人物ですか」

「堅物で、上に行きたがってましたね。恋愛の話も聞かないし、興味もなかったのではないでしょうか。結婚は上へ行くために都合のいい相手としたいと思っていたと思いますが」

「その内見合いでもして、とか思ってたみたいですよう」

 監察官は、少し笑った。

「我々キャリア組にとって、同期とは仲間でもありますが、ライバル以外の何者でもない。

 あなた達の年次は変わっていますね」

「まあ、色々と一緒に事件に首を突っ込んだりして来ましたしね。肝試しで仲良く憑りつかれたり。

 城北はそんな中でも、一歩引いていましたがね。同期が困っていようと、自分の出世に響きそうだと思ったら寄り付かない」

「そんなヤツですからねえ。たかが恋愛で出世を棒に振るとか、あり得ませんよう」

「一生に一度の恋の相手でも、上司に勧められた相手がいれば、そっちを取るヤツです」

 クソミソに言うが、監察官は薄く笑っただけだ。

「本当に仲がよろしいようだ」

 チッ。

 そして、出勤して来た鍋島さん達C班は屋上や庁舎内を視に、征木さん達B班は病院や自宅を視に行ったが、そのどこにも佐川さんの霊はいなかったと報告された。







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