第923話 プロジェクトH(6)試作2号機

 数日後、京極さんからの連絡を受けて、僕達は集まった。

「大丈夫?」

 京極さんの目の下には、くっきりと濃いクマができていた。

「へっ。実験で3徹くらいできなくて、工学部出身は名乗れないわ」

「だめだよう、それ」

「好奇心が止められないの!」

「テンションがおかしくなってるな」

「ま、まあ、試作2号機を見ましょう」

 神戸さんが言い、京極さんがそれを取り出した。

 試作1号機はスタンガンみたいだったが、試作2号機は懐中電灯に棒を2本差した様な形だった。中に髪を納める都合上、こうなったのだろう。

 京極さんはそれをおもむろに神戸さんに押し付け、スイッチを入れた。

「おお!点いた!」

「次、憑いてない人!」

 京極さんはそれを自分に押し当て、スイッチを押した。

「反応なしだねえ!」

「ほかのサンプル!美保さん!」

 数人試してみたら、ちゃんと、憑かれた事がある人に反応している。

「成功だ!」

「やったー!」

「あと、離れて何時間まで検出できるのかを計測しないとな!ああ、でも、できたな!」

「やった……!」

 僕達は互いにハイタッチをかわし、喜び合って、報告に行こうと部屋を出た。


 伏見さんも心なしか嬉しそうにして、ふらふらと着いて来る。

 いつの間にか皆伏見さんの姿に慣れていたようだが、目撃したほかの人達は、腰も抜かさんばかりに驚いた。

 そして、意気揚々と警視総監室のドアをノックしようとして、気付いた。

「ん?」

 中から、妙な気配がする。

「皆、下がって」

 言って、直とひとつ頷き合って、ドアを開ける。

 警視副総監が警視総監に、拳銃を突き付けていた。それを、秘書がオロオロと見ていた。

「ひえっ!?」

 背後で神戸さんが声を上げ、京極さんは

「うひょう」

と言った。

「突然どうしたんだ。落ち着け」

 総監が言うが、副総監は無表情だ。

「京極さん、試作2号機の準備を」

「へ?ああ、はい!」

「直、まずは引き剥がす」

「りょうかーい」

「さあ、逝こうか」

 僕は、向かい合う総監と副総監のところに近付いて行った。

「そこまでにしましょうか」

 言って、浄力を副総監に当て、憑いていたモノを吹き飛ばす。

 途端にクタリとする副総監を神戸と秘書が支え、総監が直の後ろに退避する。

 京極さんが試作2号機を使い、

「反応あり!ちゃんと憑かれていた人に反応する!成功!いやっほう!」

と声を上げた。

 その間にも、吹き飛んだそれは実体化を始めていく。黒い人型だ。

「あなたは?何が目的ですか?」

 それは憎々し気にこちらを睨んでいたが、ただ唸り、そして、突っ込んで来た。

 刀を出し、腕を斬り落とす。


     ギャアアアア……!


 そして、本体を札で拘束する。

「何だ?」

 総監が言い、副総監が突然立ち上がる。

「え、何だ?何が……あ、総監!?え?」

 かなり混乱しているようだ。

「生霊のようです。副総監に憑いて、操って、総監を殺そうとしていたようですね」

 驚く副総監だったが、

「札を渡しておきますので、しばらくは身に着けておいてくださいねえ。

 総監と、秘書の方も」

と直が札を渡して落ち着かせる。

「試作2号機、思いがけなく実戦投入しましたね!」

「成功よ!」

 神戸さんと京極さんは手を取り合って喜んでいる。

 そして伏見さんも喜んでくるくる回り、やっと伏見さんに気付いた総監たちが、

「うわあああ!?」

と声を上げ、何事かと人が集まり始めた。


 プロジェクトの成功を報告すると、試作2号機を量産して、まずは県警本部に配布する事になるそうだ。

 そして生霊は、『警視副総監が警視総監を庁舎内で殺害すれば警察組織への信頼が失墜して混乱する』事を企んだ人物が、海外の外法士を雇ったものと判明。生霊を拘束されて昏睡状態になっていた術士とそばにいた依頼主を陰陽課で逮捕した。

 スピード解決だ。

 そして、伏見さんは惜しまれながら成仏して行き、プロジェクトメンバー5人の中に名前を刻まれる事となった。

 それともうひとつ。神戸さんと京極さんが、「4係」として陰陽課に異動して来る事になった。科学的な証拠固めが主な仕事になり、この後、人員が増えて行く予定らしい。

「心強いけど、何か、美保さんが増えて、マッドサイエンティストが来たみたいな感じだよねえ」

「何か起きそうだなあ。ああ、面倒臭い事にならないといいなあ」

 僕と直は、急遽増えた机を見ながら、そっと祈るのだった。




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